Bitter Sweet Memory
今日も階段を降り、ドアを開ける。
涼やかなドアベルの音。
そこはカウンターにテーブルが一つあるだけの、小さなバー。
僕は、そこの行きつけだ。
でも僕以外のお客は滅多になく、いつも閑古鳥が鳴いている。
そんなバーの奥に、三人並べばいっぱいのステージがある。
そこに立つ、髪の長い一人の歌い手。
その歌声は伸びやかだけれど、まだ"一生懸命"という感じが取れていなかった。
だけれども僕はその一生懸命さが、"とても好きだった"のだ。
僕は恥ずかしいので、いつもステージから一番離れたカウンター席に陣取る。
当然、話しかけるようなことも、できない。
ただ、彼女が歌うその一つひとつの節に"魂が込められているよう"で、僕はその歌声に惹かれて、ついつい彼女をみてしまうのだ・・・。
半年ほど、仕事の都合で街を離れていた。
それが終わり、いつものように僕は階段を降りる。
いつも目にしていたドアには、
「永らくご愛顧のほど、ありがとうございました」
・・・。
彼女に、どこかで、僕のような"ファンができること"を・・・。
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