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新たなお出かけの形

4月の中頃から、心身ともにエネルギーの出ない日が続いていた。気分転換をしたくて、買い物に行こうと思った。気に入って使っていた香水がなくなったこともあり、新しいものを探そうと、いつものようにとある百貨店に店内の誘導をお願いしたいと電話をした。

「今ご連絡いただいても、当日の案内をお約束はできません。お客様で混み合っている場合があると、ご案内できないこともありますので」

と言われた。

「私はお客様ではないんだな」

と思い悲しい気持ちになった。いくつか日にちの候補を挙げてお願いできる日を尋ねたり、合理的配慮の義務化について説明するだけのエネルギーがなく、

「わかりました」

と言って電話を切った。買い物はあきらめようかと思ったとき、思いついた。

「ヘルパーさんと一緒に行けばいいんだ」

同じ事業所を契約している友人に、お勧めのヘルパーさんを尋ねたところ、その方は予定が入っているとのこと。

「30代から50代で女性の方」という条件で、事務所にお願いできそうな方を探してもらった。

せっかくヘルパーさんと出かけられるのだから、一人では行けないところをあちこち回りたい。東京駅の中のグランスタで気になっていたお菓子を見て、そのまま大丸で香水を見て、さらに時間があれば日本橋高島屋で香水を見たいという依頼内容と、集合・解散場所をお伝えした。

大丸にだけなら一人でも行けるのだが、その後また別のお店に一人で移動するのは難しい。行けたとしても買い物を楽しむ余裕はなく、疲れ切ってしまう。グランスタのように駅構内にお店が点在しているところには、少なくとも私は一人では行けない。

対応してくださる方が見つかったと決定のご連絡をいただいて、気持ちが浮上してきた。嬉しい気持ちで早速チャットでご挨拶をした。

この事業所は画期的な取り組みをしている。ヘルパーさんの依頼がLINEででき、繋がったヘルパーさんとはチャットでやり取りができる。顔を合わせる前にやり取りができると、安心感に繋がる。ヘルパーさんと利用者がチャットでやり取りができる事業所を私はここしか知らない。まだまだ電話で予約をしたり、責任者の方にメールをし、ヘルパーさんに伝えてもらって、責任者の方から返信をもらう形が多いからだ。

思えば、初対面のヘルパーさんと日常の買い物以外で出かけるのは初めてのことだ。

迎えた当日。その日は午後から仕事の休みを取った。家の用事で休むことはあっても、自分のために有休を取るのは久しぶりだ。待ち合わせ場所に着くと、

「西田さんですか」

と女性が声をかけてくれた。ヘルパーのAさんとの初対面だ。お互いに挨拶をして出発。電車の中ではお互いの事を少しずつ話しながら、グランスタにはどんなお店があるかという話で盛り上がった。

東京駅に到着した。GWということもあり、キャリーケースを引いたたくさんの人が行きかう中を進んで行った。

「右手には○○っていうお店がありますよ」
「そこ調べてたところなんです。行きたいです」

という流れでお店に向かう。

「後10mほどで到着します」

お店までの距離を教えてくれた。

今回Aさんと一緒に歩いて大きな発見があった。

これまで目的地までの距離の情報は必要ないと思っていた。友達と歩くときは話すのに夢中になっていて、気が付いたら到着していたし、それでいいと思っていた。それは「友達とのお出かけ」だったのだ。Aさんが的確に距離感を伝えてくれるヘルパーさんだったことで新たな気持ちを感じた。距離感を知ることで、こんなにも安心して歩けるのかということだ。

今回出かけた東京駅は、あちこちから人の声やお店の音、アナウンスが聞こえ、音の情報が入り乱れている。「目的地までの距離」を知ることで、周囲の音を楽しむ余裕が生まれた。

いくつかのお店で試食をし、気になっていたお店を行ったり来たりした。

「さっきのずんだ餅のお店、やっぱり戻ってもいいですか?」と尋ねると、
「もちろん。行きましょ」と言ってくれた。

お店の方に誘導してもらっていると、行ったり来たりするのは申し訳ないなと思い、買い忘れや買いたいものがあっても遠慮することもある。

「バターの入った商品が多いですね」
「さっきのお店30人ぐらい並んでましたよ」

など話をしながら、1時間ほど歩いた。東京土産ランキングで気になっていた「メープルマニア」のクッキーと、和菓子の「香炉庵」で最中を買った。

続いて香水を見に大丸へ。二人で並んでカウンターに座り、ウッディ系の香水を探しているという私に次々と店員さんがお勧めの香水を香らせてくれた。ふわっと広がる上質な香りに、心が浮き立つ。紙に付けてもらった香りを楽しんで、隣のヘルパーさんにも手渡した。

「いい香りですね」
「これは森の中みたい」
「こっちは爽やかな香り」

と言い合って楽しんだ。どれもいい素材を使っていることが分かり、紙をずっと顔の前でパタパタしていても頭が痛くならなかった。一発嗅ぎで惚れたラベンダーとウッディ系の香水。欲しいなと思い、分量と値段を聞いてみた。なんと50mlで33000円。鼻の中に残る香りに名残惜しさを感じながら、大丸を後にした。

その後行った高島屋でも、何件か香水のお店を見て気に入ったものが買えた。夕食のお弁当も一緒に選んでもらって、大満足の買い物ができた。

今回初対面のAさんと出かけて思ったことは、ヘルパーさんと一緒に歩くことの安心感だ。一人ではできないウィンドーショッピングをしながら、私の安全を確保してもらえる。Aさんの完璧なヘルパーとしてのお仕事に触れ、私の中でガイドヘルパーを使っての外出が身近なものになった。友達とワイワイ出かけるのももちろん楽しい。もう一つの外出の形として、たまにはヘルパーさんと出かける時間を作ってもいいなと思えた時間だった。心に元気が充電されたお出かけになった。

私が登録しているガイドヘルパー事業所はこちら。



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