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【山梨県立博物館】企画展「水木しげる 魂の漫画展」を見に行く

はじめに

 山梨県立博物館では毎年、夏休みに合わせた企画展が開催されています。本年は「水木しげる 魂の漫画展」(2023.7.15~9.4)が始まりました。
 本展は「ゲゲゲの鬼太郎」などで知られる漫画家水木しげるの作品世界に迫る展示で2017年より全国巡回しています。
 山梨展独自の展示として、山梨岡神社に祀られる「キの神像」と水木しげるが描いた「キ神」の原画の同時公開が注目です。
 (「キ」の漢字はPCで文字出力できないためカタカナで表記します)

山梨県立博物館エントランス

水木しげる 魂の漫画展

 チケットカウンタのあるエントランスロビーには記念撮影スポットとして机に座る水木先生と鬼太郎たちの像があります。

逆行ぎみの配置は改善の余地あり

 「魂の漫画展」とタイトルにはありますが、漫画作品のみならず、水木しげるの生涯や壮絶な戦地体験について多く触れられており、大人がじっくり鑑賞できる内容となっています。
 展示は全8章で構成され、作品原稿のほか、愛用の道具など展示数は300点を超えるボリュームです。

巡回展のためチラシはほぼ共通
鬼太郎なカラーリングの裏面

プロローグ 水木しげる劇場 ~波乱万丈人生紙芝居~

 エントランスから進むと企画展示室が見えてきます。ゲートを入ると紙芝居を載せた古い自転車があり、スクリーンではプロローグとして2分ほどの映像が紹介されています。

「水木しげる 魂の漫画展」ゲート
紙芝居自転車と映像
水木先生の写真とキャラクター、故郷の写真など

第1章 武良茂アートギャラリー ~小年天才画家あらわる!~

 水木しげる(本名 武良茂 1922年~2015年、大正11年~平成27年)は幼少期を鳥取県境港で過ごしました。
 少年時代から非凡だった茂の画才に気づいたのは高等小学校の教頭でした。公民館にて茂少年の描いた絵の「個展」が開かれたといいます。
 展示に水彩画が10点以上あります。14歳~18歳頃描いたもので、まさに少年画家武良茂の作品です。
 特に目を見張るのは《昆虫界絵巻物》1938 で、縦30センチ、横400センチの大作で、デフォルメされた昆虫が描かれています。

第2章 水木しげる漫画研究 ~片腕で生み出す独自の画法~

 太平洋戦争が始まり、茂は21歳の時に軍隊に召集され、南方の激戦地ラバウルへ送られました。
 戦地でマラリアにかかりジャングルで生と死を彷徨います。さらに銃撃を受けたことで負傷し左腕を失いました。
 24歳で復員を果たしますが、後に実話に基づいた「総員玉砕せよ!―聖ジョージ岬・哀歌―」(当初のタイトルは「五百七十八名の全滅」)を描き、戦争の理不尽さと悲惨さを伝えています。

《自画像》1951 出典 : 山梨県立博物館HP

 またNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」で描かれたように、結婚し紙芝居作家となり、その後貸本漫画を描いたりするものの生活は常に貧しいままでした。「鬼太郎」シリーズなどが少しずつ売れ出すまでの極貧生活でした。
 展示は、戦記漫画や貸本用雑誌「少年戦記」のほか、手帳、スクラップブック、人物スケッチ、筆と絵の具があります。絵具は「ゲゲゲの女房」のオープニングで登場するヨーグルトの空き瓶を使った絵具入れの実物です。絵具として使っていたのは染物用の染粉で、各色をつぎ足して作っていたとのこと。水木漫画の独自の彩色は染粉によるものです。さらにストーリー作りのプロセス、独自の作画技法を紹介しています。

第3章 水木しげる人気三大漫画 ~鬼太郎/悪魔くん/河童の三平~

 TVアニメや実写、映画などたびたびメディアミックスされ、世代を超えて愛され続ける水木作品ですが、3つの代表作「ゲゲゲの鬼太郎(墓場の鬼太郎)」「悪魔くん」「河童の三平」の誕生秘話に迫ります。
 「河童の三平」は紙芝居漫画、「鬼太郎」「悪魔くん」は貸本漫画にルーツがありました。

『ゲゲゲの鬼太郎』 出典 : 山梨県立博物館HP
『悪魔くん』 出典 : 山梨県立博物館HP

第4章 総員玉砕せよ! ~壮絶な戦争体験記~

 この章では、戦地体験から描いた作品「総員玉砕せよ!―聖ジョージ岬・哀歌―」を作品原稿で読むことが出来ます。ユーモアもありますが、兵隊の日常はあまりに過酷です。
 ほかに展示としてラバウルの戦地や左腕を失い収容されていた野戦病院でのスケッチのほか、趣味の戦艦のプラモデルで再現した「連合艦隊」がありました。

『総員玉砕せよ!―聖ジョージ岬・哀歌―』 出典 : 山梨県立博物館HP

第5章 溢れる好奇心 人物伝

 水木しげるは、児童漫画や妖怪のみならず、歴史上の人物も漫画として描いていました。
 展示は近藤勇、ヒトラー、南方熊楠、平賀源内など個性的な人物を独自の視点で描いた作品を紹介しています。

第6章 短編に宿る時代へのまなざし

 さらにこの章では、子ども向けから大人向けまで多彩な短編作品を紹介しています。障子を模った壁面に展示された作品原稿で読むことができます。

第7章 妖怪世界へようこそ

 茂が鳥取県境港で過ごした幼少期、まかないで出入りしていた“のんのんばあ”から妖怪や幽霊、地獄や極楽といった話を聞かされ、連れられて見た正福寺の「地獄極楽絵図」に心を奪われ、以来、妖怪の世界に魅入られるようになったといいます。
 妖怪画、妖怪のブロンズ像が展示されています。ブロンズ像は境港市の水木しげるロードにある像と同じ形から制作したものです。

「雪女」 出典 : 山梨県立博物館HP

山梨の妖怪伝承

 山梨に伝わる妖怪伝承も紹介しています。
 「小豆洗い」は北杜市長坂町、笛吹市境川町、甲府市などに伝承が残ります。
 「蟹坊主」は山梨市万力の蟹沢山長源寺に伝承があり、千手観音の化身とされています。
 「河童」は韮崎市の釜無川周辺、河口湖の周辺などに伝承があり、釜無川では、武田の家臣に河童が薬の製法を教えた「河童のきず薬」伝説があります。

山梨岡神社の「キの神像」

 山梨展の目玉展示として、山梨岡神社に祀られる「キの神像」と水木しげるが描いた山の精霊「キ神」を描いた原画を同時に展示しています。この展示のみ撮影可能となっています。

 笛吹市春日居町鎮目にある山梨岡神社は山梨の県名の由来にもなっている神社です。約2000年前の創建と伝わります。
 鬼のような顔に一本足の奇妙な「キの神像」は雷除け、魔除けの信仰があり、7年に一度、4月の例大祭で開帳されています。2023年(令和5年)は4月に例大祭があったため開帳されています。「キの神像」を祀る神社は確認されている神社は全国でもこちらだけです。
 開帳の年に合わせて「水木しげる展」の巡回スケジュールを入れたのか、はたまた偶然なのか、いずれにせよ貴重な同時展示です。

キの神像

 こちらが、水木しげるが描いた山の精霊「キ神」です。他の作品同様背景などたいへん緻密です。驚いて逃げね村人の姿があります。

キの神の原画 1995年頃

  過去にシンボル展にて紹介されています。「キの神像」の詳細はこちらをごらんください。

第8章 人生の達人 水木しげる

 事実上の絶筆となった「虫の絵本」が展示されているほか、水木しげるの名言とキャラクターが合体した色紙を展示しています。
 名言色紙の言葉をメモしてまいりました。 
「金は ほしがると逃げる」
「足のむくまま ゆこうじゃないか」
「なまけ者になりなさい」
「好きなことをやりなさい」
「人のうしろをあるきなさい」
「あわてずゆっくりやれ」
いずれも遅咲きで売れっ子漫画家になった水木しげるだからこそ言える、そして納得できる言葉です。

グッズコーナー

 グッズコーナーはキャラクターアイテムも多く盛況でした。じっくり作品を読みたい人のためコミック文庫の在庫も多いです。

盛況のグッズコーナー
ハンドタオルや団扇、ほかに定番のクリアファイルなども
児童向けの単行本
作品はコミック文庫で入手できます

おわりに

 夏休み前の3連休でしたが、家族連れのほか老若男女幅広い層が訪れていました。世代を問わない根強い人気が伺えます。
 原稿をじっくり見たいならば午前中に行くのがおすすめです。午後は混みます。とはいっても地方の博物館なので、込み具合は都会の比ではありません。


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