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あたらしい名刺が勇気をくれた話。

去年の10月くらいから今までになくキャパオーバーの日々が続いていた。締切に追われ常にキリキリとした感覚で、朝も夜も休みの日も境目がなくなっていた。

そんな感じだから、もちろんミスも増えた。原稿で初歩的なミスをしてしまったり、修正依頼が来たのにメールを見逃してしまったり。一つひとつの記事に向き合える余裕がなく、誠実さを欠いてた仕事をしてしまったという自覚がある。忙しさと比例して、ぬかるんだ泥に足を引っ張られるようにどんどん悪循環の沼にハマる。

自分のキャパを見誤って誠実さを欠いた仕事をしていたら、この先きっと仕事の依頼は来なくなるだろう。危機感ばかりがつのる。

だから、もう一度ちゃんと自分と向き合う必要があるとおもった。私はどんな仕事をしていきたいのか、どんなことにワクワクするのか、何が書きたいのか、書けるのか。目の前に来るボールを必死に打ち返しているうちに、ぐちゃぐちゃに絡まった糸のように、自分のことが見えなくなっていた。

そうだ、新しい名刺をつくろう。

そんなときにデザイナーの彼女に出会った。彼女が創るデザインと人柄が好きになって、そろそろ新しくしようと思っていた名刺をお願いすることにした。何かを新しくすることで、最近のモヤモヤを解消できればという淡い期待もあった。

名刺ははじめましての人に渡すものだから、今までも自分なりにデザインにはこだわってきた。とはいえ、好きなデザインを選んだり、フォントを組み合わせたりして作るネット注文で、デザイナーさんに依頼するのは今回がはじめてだ。

名刺打ち合わせの日。デザインの希望を聞かれると思いきや、彼女はまず、私という人を知りたいという。どんな人生を歩んで、どんなポリシーを持ってライターという仕事をしているのか。彼女の心地よいテンポにつられて、気づけばつらつらと自分のことを話していた。表現が違えど、ライターとデザイナーは似ているのかもしれない。

彼女が描いた、私というひと。

オーダーからひと月経って、「デザイン案ができたので打ち合わせをしよう」と彼女から連絡がきた。はやる気持ちを抑えて、待ち合わせのカフェへ向かった。

彼女はなんと、案を5つも用意してきてくれていた!私なんぞの名刺に、、ありがてぇ、、、もうそれだけで頭が下がるおもいだ。

名刺のデザインは、A案からC案は背景に原稿用紙があったり、ペンのイラストが描いてあって、ひと目でライターとわかるもの。ふむふむ、どれもいい感じ。そして、D案、E案に目を移す。んんん!??ケーキにアイスが描かれていた。想像もしていなかったデザインだったので、不意打ちを食らった。

「さやちゃんってさ、誰かの思いも、わかりにくいことも、アイスクリームみたいにして届ける人だなと思って」にこにこしながら彼女が言う。

その瞬間、じゅわっと涙が出そうになった。文章を書くときは、なるべくわかりやすく、読みやすく、その人らしい表情や温度が伝わるような文章を目指して書いている。そのために、調べて、ふさわしい言葉を選んで、届きやすい構成を考えて、とにかく頭も心もフル回転させている。そうやって書いた記事を、アイスクリームと表現してもらえたことが嬉しかった。

彼女が名刺にケーキやアイスをデザインしてくれた理由は、ほかにもあった。私の前職がパティシエだからだ。今まで、このことを周りに積極的に話すようなことはしてこなかった。夢を持って飛び込んだ世界だけれど、職人への道は険しく、挫折した苦い思い出でもあるからだ。

けれど彼女は、「その土台が魅力だし、文章にも現れていると思う」と言ってくれた。今まで自分を客観的に見つめる機会がなかったので、そんな自覚はないのだけれど、失敗も挫折も自分の味になっていて、地続きで今があるのだと思えた。そういえば、昔は本気でジェラート職人を目指していてイタリアに修行に行ったこともあったのだ。あの頃の自分を思い出して胸がきゅっとする。

ライターの師匠である川内イオさんは、インタビュー記事を書くときは料理人になったような気持ちで書いているとおっしゃっていた。イオさんが記事をめちゃくちゃ美味しい料理に仕立てるなら、私はめちゃくちゃ美味しいアイスクリームを作ってみてはどうだろう。そう考えたらわくわくするし、もっともっと腕を磨いてがんばらなければと力が湧く。

ちっともライターらしく見えないのだけれど、名刺はアイスクリームのデザインでお願いすることにした。

アイスが○▲□になっているのも気に入っている。
○いことも、▲なことも、□なことも、言葉(アイス)にして届けたい

肩書きに込めた決意

名刺を新調するにあたって、自分らしい肩書きにしたいと思っていた。

ライターの仕事は「書く」ことのほうに比重が多く見られがちだけれど、実は「聞く」力がとても重要だったりする。だから、「書く」よりは、「聞く人」の方がしっくりくる。そして、それを「編む」ことが私らしいライターの姿かなと思った。

たとえば、誰かの想いやモノの裏側にあるストーリーを聞かせてもらったとき。その人から出た大切な言葉を文章にするために、どこを切り取り、どこを膨らませるか、どんな構成なら多くの人の心へ届くか。考えをめぐらせながら記事を作っている。それは、書くというより「編む」という感覚だ。

なので、肩書きは「コトバを編む人」とつけさせてもらった。想いを伝える、記憶をつなぐ、小さな声を届ける。一つひとつの言葉を編むように丁寧に伝えたいし、伝えるために全力を注いでいきたい。

たかが名刺、されど名刺。この小さな四角の中に、思いも意味もめいいっぱい詰め込んでくれたデザイナーの彼女に心から感謝している。気持ちを込めて、はじめましての方にお渡しできることがうれしい。

名刺をあたらしくしたことで決意を新たにできたし、何を大切にしていきたいかを見つめ直すことができた。こんがらがった糸は少しほどけて、またがんばろうという気持ちが湧いてきた。

これから出会う方に名刺をお渡しする日がとても楽しみです。そして、いつもお世話になっている方々へいつもありがとうと心を込めて。新たな気持ちで一つひとつのお仕事に向き合っていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

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