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サンタクロースの正体は。

こちらは、「稀人ハンタースクール Advent Calendar 2023」に参加するために書いたエッセイです。カレンダーをクリックすると、「クリスマス」をテーマにした書き手のnoteを見ることができます。

「サンタさんはいないよ。お父さんとお母さんだよ!」

12月の少し浮ついた空気が漂う教室で、1年生のわたしはこう言い放った。

友だちは口々に「えー、違うよー」とざわざわ。その光景を不思議な気持ちで眺めていた。

我が家のクリスマスは、両親からプレゼントを手渡しでもらうスタイルだった。チキンやケーキを囲んでプレゼントをもらう瞬間は、1年で一番待ち遠しいとき。にこにこと笑う家族の顔を見ると、幸せな気持ちになった。

「どうやらほかのおうちでは、サンタさんがプレゼントを運んでくるらしい」と気づいたのは、小学校高学年のころ。絵本や映画を見て、クリスマス事情が見えてきた。

そうか、親はサンタさんのふりをするものなのか。目覚めたらプレゼントが置かれてあるというシチュエーションに淡い憧れを抱いた。現金にも、なんでうちの両親はサンタになってくれなかったんだろうと思った。いつか大人になって自分に子どもができたら、全力でサンタさんを信じさせてあげるんだ…。

そして私は3人のお母さんになった。いま、曇りなきまなこでサンタを信じる子どもたちが目の前にいる。

作戦大成功だ。毎年本気でサンタ業に取り組んできた甲斐がある。
けれど、今度は打ち明けどきがわからなくて困っている。中学生になった長男には、そろそろ正体を明かしたほうがいいのではないか……。

わたしの身長を追い抜き、ときにはぶっきらぼうな態度で、思春期真っ只中。そんな彼が、サンタさんはしっかりと信じているから可愛い。

バレそうな危機は何度もあった。やはり小学生の時は友だちから「サンタは親なんだよ」と聞かされて帰ってきた。その度に「でもいるよね、サンタさん」と澄んだ目でわたしに話しかけてくれた。可愛いなぁと思った。だからまだ信じていてと願った。

我が家ではクリスマスイブに、サンタさんのために牛乳とクッキーを用意してベランダに置くことになっている。それから、夜空に向かって「サンタさん、お願いしまぁーーーすっ!」と大声で叫ぶ。朝になると、牛乳とお皿は空になっていて、thank youと書かれた紙とサイン、ツリーの下にはプレゼントが置かれてある。「今年も来てくれた!」と喜ぶ子どもたちの顔を見て、夫とふたりで目配せするのが恒例の光景だ。

去年のクリスマス、うすうす勘づいているかもしれないし、小6の節目に長男には正体を打ち明けようと夫と話していた。けれど彼は、積極的にサンタさんにリクエストの手紙を書いていて、疑っている余地が微塵も感じられない。言えなかった。イブにはいそいそと牛乳とクッキーを用意して、しっかり夜空に叫んでいた。朝、弟と妹を差しおいて飛び起き、我先にプレゼントをビリビリに破いている。可愛いやつめ。

しかし、今年こそは打ち明けるんだ。どうやって話そうか、傷つくだろうか、驚くだろうかか、勘づいていただろうか、はたまた演技をして付き合っていてくれていたのだろうか。わたしの腹はまだ決まらない。今年も「サンタさん、お願いしまぁーーーすっ!」と夜空に向かって叫ぶ姿を見たいと思ってしまう自分がいる。

サンタになってわかったことは、プレゼントを用意する時間も、そうっと忍び足で置く瞬間も、喜んだ顔を見れることも、とてつもなく幸せだということだ。もし、長男に正体を打ち明けるときが来たら「サンタさんにしてくれてありがとう」と伝えたい。どんな顔をするのか、ちょっぴり不安でちょっぴり楽しみだ。

そういえば、20歳を過ぎたいつかのクリスマス。長年付き合った彼氏と別れて、傷心で実家に帰ったことがあった。絶望で迎えた朝、目覚めると枕元にそっとプレゼントが置かれていた。包み紙をあけると、真っ赤な手袋が出てきた。犯人は母だ。「なんで今!?」と笑いが込み上げてきた。

リビングに行くと母は朝食の準備をしていた。「急にどうしたの?」」と聞くと、「やってみたかった」と照れくさそうに言った。顔を見合わせて、また二人で笑った。

わたしが子供のころはSNSなんてなかったから、よそのお家でどんなクリスマスが繰り広げられているかなんて知るよしもなかった。手渡しでもらうプレゼントは、我が家の味だったのだなあと思う。サンタのふりこそしないけれど、両親はいつだってサンタさんでいてくれたのだ。

さて、今年。ついに正体を打ち明けるけど、わたしたちはずっと彼のサンタさんでい続けるつもりだ。近づいてくるクリスマスにドキドキとわくわくで胸が高鳴っている。



明日は東京在住のインタビュアー永見薫さん(かおるん)にバトンタッチ!どんなクリスマスエピソードが聞けるのか、お楽しみに〜!



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