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独白形態・詩してみるか小説してみるか    「蛇口」

独白形態・詩してみるか小説してみるか    「蛇口」

僕は学校の水飲み場が大好きだった。
あのクルクル廻る蛇口が好きだったんだよ。
だってさ、喘息持ちの友達の"松ラッパ"がランドセルにつけていた
吸入器。それが何だか格好良くて。咳が出るたびシュッシュッって。
先端を口に入れてシュッシュッって。
苦い薬は飲むことなくて、特別な病気に思えてきてさ。
学校の蛇口とおんなじ形をしていてさ。
僕は蛇口を上に向けると口をつけ
蛇口のハンドル開けたり閉めたりシュッシュッて。
時々開けすぎ口から鼻から水噴き出して
キッタネェって責められて。エったバーリア !って。
蛇口を下に向けたまま、横から口を離して飲む友達。
 髪や顔がベチョベチョで。だから僕は嫌いだよ。
 そっちのほうがキタネェよ。
蛇口を下に向けたまま、横から蛇口を含む友達。
 変な飲み方するから噎せちゃって、吹き出しゃ隣にかかるのさ。
蛇口をお空に向けながら、口を離して飲む友達。
 蛇口に水がかかってさ、かかっているのは水だけかい ?
蛇口をお空に向けながら、口に含んで飲むのは少人数。
 張り紙に「蛇口に口はつけるな!!」と書いてあっても関係ないさ。
だって僕はシュッシュッがやりたいんだから。
なんだか病気が羨ましい。

※サムネイル イタリア、チマブーエ『荘厳の聖母』ゴシック期終盤に描かれ、ルーブル美術館収蔵。アーリールネサンス期に活躍したジョットの師匠筋にあたる。アッシジのサンフランチェスコ修道院のフレスコ画をはじめ同修道院では二人の作品を愛でることが出来る。

わたしの子供時代なんていうものは、こんなものだった。
喘息の子供がなにか大人びて見えた。
なにか羨ましくさえ思えたものだ。
なにもわからずに_________。

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