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随想一夕『咲かぬと云われた花が咲く』

3月の25日過ぎだったろうか。実弟の葬儀を済ませ帰阪しての数日後。スーパーへと買い出しに行った帰りに仏花を買うため花屋に立ち寄る。色とりどりの花が並べられた店先には接ぎ木された若葉だけの薔薇が売られていた。
幾株も売られていたのだが、その中からあしらいの良さそうな接ぎ木の株を選び花屋のレジへとむかう。40代半ばほどの店主が機嫌よく対応をしてくれた。
「色は薄い桃色の薔薇ですよね。何月ごろに咲きますかね」そう訊ねると店主は「今年は咲きませんね。接ぎ木して刺したばかりですから、ツル性の薔薇なので大き目のプランターや鉢に移し替えて伸ばしてやってください」と教えてくれた。

小さな鉢を大切そうに小脇に抱え帰り道を急ぐ。植え替えしてやろう。もっと大きな鉢に植え替えしてやらなければ。帰宅するとすぐに大きな鉢へと植え替えをしてやり、アミノ酸の効いた肥料と元肥の効いた土へと移し替えてやった。土が幾分古かったこともあり土の活力剤と苦土石灰も効かせた。
土の病原菌を除菌するためにベントレートを週に一度、液肥とともに潅水。

四月の半ば過ぎだろうか。咲かぬと云われた薔薇に花の蕾がつき始めた。それは日に日に大きく育ち膨らみをました。
「咲くのかよ。君は…… 無理することは無い。来年でもいいから健康に育ってくれ」とウチのローズマリーに語り掛ける。

薔薇を育てたことは無い。無知だ。本当に咲くのだろうか……。
インターネットで色々調べると、蕾がついても咲かない場合のことについても色々書かれていた。
「蕾は余り水に濡らせない方が良い。腐る場合がある」
「根から病気が入ったり、うどんこ病になると花は咲かない」
「蕾が多いと花の栄養が分散されるので適宜摘蕾した方が良い」など色々と学ぶことが出来た。一枚一枚花弁が捲れ始めた頃。雨が降った。余程雨除けでもかけてやろうかとも考えたが、大敵である「カビ」の温床となるリスクの方が大きいので雨除けは掛けずに育てた。

花弁の先は雨水に当たり過ぎて水焼けしたようであり、幾分茶色く色を悪くしているが、有難いことに二つの花を咲かせてくれている。蕾もあと二つ残っている。可愛くって仕方がない。
赤も良いだろうし、きっと赤の方が色の悪さは目立つまいとも思う。その分薄桃色は手をかけたのちの美しさは一入と思えるのかもしれない。

咲かぬと云われた花が咲いたことの嬉しさも花を育てる人間の醍醐味の一つなのだろう。咲くか咲かぬかは本人次第。これも匙加減ということなのか。

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