パニック発作

サカナクションの山口一郎さんがうつ病を告白して先日から話題になっていた。
心の病についてだいぶ啓蒙が拡がって、世間の理解も進んできたと感じるがまだまだ偏見も多く、当事者にとっては生きづらい世であり、そんな中でこうやって影響力のある人が告白したことは、当事者や関係者はさぞかし勇気づけられたことだろうと思う。
かくいうわたしもはっきりした診断こそなかったもののうつの傾向が出て、実際心療内科にも掛かった。とは言え自分的にはあまりうつという自覚はそこまでなく、当時の環境が環境だっただけに、ある程度正常な心の反応で一時的なものだろうと思っていた。実際、数か月は続いたものの、幸いにもそれ以上悪化することはなく、本当に心の風邪と言う表現が適切な程度で済んだ。しかしその当時、わかりやすいうつ症状以上に鈍い私でもはっきりとこれは異常だと認識した症状が出た時があった。
そしてそれが今考えるとパニック発作であった。
その当時、私は軽度の睡眠障害から端を欲して初めて掛かった診療内科で出された精神安定剤を8日ほど飲み続けたことによる離脱症状ですっかり不眠状態に陥っていた。そこから精神的に限界を迎え、別の漢方を主体とした心療内科へと病院を変え、漢方を飲み続け、不眠が少しでも改善するように天にも祈る気持ちで過ごしていた頃であった。
不眠状態でもそれでも毎日仕事に行っていた私はその日も仕事をやっとのことでこなし、夕方に差し掛かった頃だった。妙にソワソワすると言うか変な不安感みたいなものが湧き出すような感覚があり、おや?と思った。でも気のせいだと思い、頑張ったけれど、それはどんどん酷くなり、退勤の時には這う這うの体で職場を後にすることになった。しかし不安感といっても理由がない。理由がないのに不安になる。精神的な病を抱えている人ではそれは日常的にありえるのだろうが基本的に私はこんな心境に陥ったことはない為酷く内心狼狽えた。

一体どういうこと?

訳の分からない不安に、その理由のなさからさらに不安になり、心の中はぐちゃぐちゃでとにかく早く帰って休もうと思った。
しかしこういう悪い時に悪いことが重なるのが私のデフォである。びっくりするくらい運がない。
帰り、職場最寄りの駅へと向かうと何と人身事故にて普段乗り継ぎする電車は運休していると言う。それでも少し待てば動き出すのではないかと思い、とりあえず乗り継ぎ駅までは行ったものの、やはり聞いていた通り、乗り継ぎの自宅まで行く電車は止まっていた。暫くそこで待ってはみたものの、一向に動き出す気配はなく、駅員も再開は日付替わる頃かもと申し訳なさそうに同じく構内にいる乗客に言っているのを聞いて、私は仕方なく振り替え輸送を使って自宅最寄りまで行く路線に乗り換える為、駅を移動することになった。仕方なく、動いていた地下鉄から日本橋に降り、そこからJRに乗り換えることになった。自宅の最寄り駅田舎ながら交通のアクセスは便利な方で、都内まで行くJRと私鉄が二つ走っていて、しかもその駅間は歩いて10分程度の距離にある。さらに自宅はそのどちらの駅からも近くにあった為、普段乗らない電車とは言え、確実に地元まで運んでくれる故、電車に乗ってしまえばとりあえず安心なのだが、普段あまり乗らないJRの、しかも夕方帰宅ラッシュの電車に乗るのは普通の状態でもかなり疲れるところである。そしてしかも私はその時人生至上最低最悪の精神状態だった。日本橋で乗り換え地下のホームの階段を降りている時点で意味もなくしかしとんでもなく辛く、辛すぎる故なのか何処かふわふわして自分の意識が肉体から離れているような感覚があった。後から調べたが、離人症と言う症状に近い。勿論こんなことは生まれて初めてでとにかく怖かった。駅のホームで立っていられず、ベンチに座り込んだがホームに入って来る電車の音が地下の構内に響いてより過敏となっている自分に轟音として襲い掛かる。

怖い

怖い

とにかく辛い、怖い、ベンチに座っているものの、耳をつんざく音を立てて目の前を通り過ぎていく電車に思わず飛び込みそうになる自分を必死に抑えた。あと一人でいるのが不安で、出来るだけ人のいる場所から動かなかった。一人でぽつんとホームに立っていたら間違いなく私は暗い線路に身を投げていた筈だ。ベンチの取っ手を掴み、脂汗を流しながら俯いてひたすら目的の電車が来るのを待ち、漸く来てほっとしたのも束の間。
車内は恐ろしいほどの混雑。座るどころかまともに立ってもいられない程だ。

地獄だ

と思った。変わらぬ離人症は続いている。早く帰りたい。早く帰って休まなければ死んでしまう。
しかし結局数年降り立つことがなかった地元のターミナル駅を降り立ち(工事が終わったばかりだったので、全く構内がわからなくなっていた。あの日の精神状態でまさに泣きっ面に蜂だった。本当に今日に限って運が悪い)更に電車を乗り換えた後も結局座れず、もう半分泣きながら最寄りの駅を降りると自宅に帰り、一目散に自室のベッドにもぐりこんだ。
そして


寝ないと死ぬ

と呪いのように呟きながらただひたすら目を瞑った。

酷い不眠状態だったにも関わらず、流石に脳も危険だと思ったのだろう。その後は朝まで眠れた。

翌日、あんなに辛かった離人症も意味の分からない不安も消え、普通に戻った。
一体何だったんだと思い返しつつ出勤し、ふとトイレに入った時、月のものが来ているのに気づいた。
どうやらこれが影響していたようだ。
しかし今まで生理によってこんなに酷い精神状態に陥ったことはない。やはりここ暫くのメンタルに酷い形で作用したのだと思った。
以来、生理が来てもあの状態になることはないが、生理関係なくあんな状態になる疾患を持っている人はあまりにも辛いなと身をもって痛感した。
心の病は目に見えない分、把握も理解もしづらい。自分はある程度精神疾患を理解しているつもりであったが全然だったと反省した。
もっと理解を深め、何より寄り添えるように努めようと思った。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?