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【詩】破滅日記

町外れのドブ川の水を飲めば
誰でも死ねた
しゃっくり三回出たあとに

道はいつもお祭り騒ぎで猥雑わいざつ
酔っぱらい達が山車だしを引き回し
人いきれで空気がお湯になるせいで
車が通れない

体がどんどん小さくなる奇病におかされた娘
珠代たまよ
11歳の誕生日
祖母がプレゼントで部屋を埋め尽くす
「またそんなに買って」
妻が無表情で洗濯物を畳む
「バァーバなんだからいいじゃない
ねぇ?」
珠代ににっこりと笑い掛け
洗濯物を取り込みにいくような足取りで
ベランダに向かう
数瞬――
ドチャッと巨大な魚が
道で跳ねるような音がして
風の音が止む

妻は一切の感情を失った顔で
黙々と洗濯物を畳み続ける
珠代は一瞬不思議そうな顔でベランダを見る
「珠代来年は運動会に出たいな」
「出られるわけないでしょ」
言い放つ妻の顔が彫刻のように美しい

珠代は下唇を噛み
笑おうとして笑えないまま
妻の顔を硬く振り返る
そうしてどんどん小さくなっていく
自分のふくらはぎを一度だけぜた

誕生日に間に合わなかった僕は
ウサギの縫いぐるみを乗せたまま
夜の川に落ち
真っ黒いドブを飲んで
三回しゃっくりをした

妻がその後を追って
一人で川に入り
眉根を寄せてドブを飲んだ
世界で一番美しいしかめっ面だ
抱きたい

もう一度
妻と
セックスがしたい

<溶暗>

そう思いながら
僕は息を吹き返した

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。