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【詩小説】一匹の春の話

一匹の春をつかまえた

それはまだ小さく
か細く
頼りない
人差し指に満たない
ともしびだった

それでも
これまで起こった
すべての悲しみが
仮面をはずして
そっと手を握ってくれたような
優しい溜め息に似た風を感じられた



はらら

誰にも言えなかった悲しみが
ひと肌の涙を流せたとき
生命いのちの温度を思い出すように
一匹
また一匹と
春がととのっていった



うらら

そっか
冬が春になろうとする力のことを
春っていうんだ

薄桃色した一匹の女王春がエンジンとなり
くんずほぐれつ徒党を組んで
世界中を「うららー!」と駆け抜けた

それはのちに桜前線と呼ばれるようになった

【了】


水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。