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【旅×映画】ヨーロッパ・フランス編

「パリで映画『アメリ』の聖地巡礼をした話」

–今年の4月に終了した世界一周。そのきっかけのひとつとなった映画の話を、現地での体験と一緒に書いています。

第3回目はヨーロッパ・フランス編!すこし昔の映画の、聖地巡礼をしたお話です。–


フランスは14カ国目、旅の終盤に差しかかる頃だった。入国してから『アメリ』を何年か前に見たことを思い出す。

フランスに来た理由は“航空券が安かった”

“次のモロッコにアクセスしやすかった”。

そんな理由だった。

フランスの前に滞在していたのはアルゼンチン。それは私にとっての南米最後の国だった。

–アルゼンチン・ブエノスアイレスの街並み。南米のパリと言われているので、建物がオシャレ。

その南米のよく知られた国で、次のヨーロッパに入るにはどこの国へ飛ぶのがいいのか、私はもう何週間も悩んでいた。チリにいるあたりから悩み続けて2週間、なんだか悩みすぎて疲れてしまっていた。

そんな悩みを吹き飛ばし、ヨーロッパまでの大移動をフランスに決めたのは「航空券の安さ」だった。

当時は南米からスペインに入るのがいちばん安いと聞いていたので、スペインインのルートで入るつもりでいた。だから必ずヨーロッパはスペインが最初の国だろうと思っていた。

スペインに行けば2€、250円ほどの安さでビールが飲める。そんな淡い期待もこめていた。

でも実際に航空券を調べてみると、予想は大きく違った。

確かに南米・アルゼンチンからヨーロッパ・スペインのフライトは安い。片道5万円あれば余裕だったし、これで大陸を渡れてしまうのは破格だ。

しかし、その経路の経由地に含まれているブラジルは日本人にとってはビザが必要な国であり、それは乗り換えだけでも同じだった。通過ビザを発行しなければならない。

通過ビザは2,000円前後。価格は安いが手間がかかる。しかも、ブラジルビザは口座残高の証明が必要であったり、とにかくややこしい。

言い方は悪いが時間通り・スケジュール通りなんて、神様が引き起こす奇跡のようなここ南米で、スムーズに発行してもらえるとも思わない。

「どうしよう」

そんなふうに思っていたときに見つけたのがアルゼンチンからフランスへの航空券だった。

メキシコ経由でそれぞれ12時間のフライトが2本。航空会社は乗ったことのなかった、アエロメヒコ。その航空券が6万円。わたしの旅の中ではいちばん高い、すこし戸惑う金額の航空券なのだけれど、この2カ国間をつなぐ紙切れにしては安すぎた。

すぐにその航空券をとって、たった3日の滞在となったアルゼンチンに、別れを告げた。


約2ヶ月も滞在した南米、初めてのヨーロッパ。パリに着いた瞬間、まだまだ発展途上な南米からやって来た私は、なんだかタイムスリップしたような気持ちになって、落ち着かなかった。

加えて、カラッとした暑さの南米から真冬のフランスへの大移動、心細くなって不安になるほどの寒さだった。


フランス映画といえば、日本人には馴染みがないかもしれない。とりあえず、わかりにくいことで評判だ。

雰囲気というか、ニュアンスで伝えようとするはっきり言わない感じはどこか、日本の空気感に似ている。けれど、邦画特有の暗さを取り除いて、すこし明るくてポップな雰囲気にしたような、それがフランス映画だと思う。

旅中、フランスに来てから思い出した。3年ほど前に見た『アメリ』(2001)が私にとって、はじめて見たフランス映画だった。


『アメリ』は知っている人も多いと思う。中を見なくてもかわいいと分かる世界観に、カラフルな色使い。おかっぱ頭に赤いワンピースを着た主人公のアメリ。女の子に受ける映画だからずっと有名で、受け継がれる映画なのかもしれない。

でも内容は、「かわいい」とは程遠い。確かにフランス・パリの街並みはかわいいのだけれど、映画の内容はすこし“変”だ。だけど、ハマる。

主人公・アメリは、カフェで働いている。空想が好きで、ちょっと危なっかしいけれど、至ってフツウの女の子。でも、彼女の家の両親は少しおかしい。お父さんはあまりアメリと関わりたがらなくて、お母さんは亡くなっている。

そんな不思議な女の子・アメリだけれど、ある日恋に落ちる。とある趣味を持つニノなのだけれど、2人は訳あって出会いそうで、出会わない。その2人の、出会いそうで出会わない日々が描かれる。

けれど、この映画のいちばんの盛り上がりは最後だ。最後の3分間ほどに、この映画のすべてはつまっていると思う。



私はパリに着いてから『アメリ』を思い出した。

そしてなんとなく、メキシコでのトランジットの合間に、空港のWi-Fiで、あの硬い硬いゲート付近のイスに座りながら、「パリ アメリ」で調べた。無料Wi-Fiが使える時間は10分間だけ。

すると、気になる情報がでてきた。アメリの舞台はほとんど残っている、というよりは、実在する場所で撮影されたので、聖地巡礼ができるのだ。

アメリの主な舞台はパリのモンマルトル地区。ちょうど、とっていた宿からすぐのところだった。

長い長い2本の飛行機を、何回も見たことのある映画−『チャーリーとチョコレート工場』と『ダーク・シャドウ』−と、気だるそうなキャビンアテンダントのサービスで乗り越えて、私はパリについた。シャルルド・ゴールド空港。いちばん大きくて、日本からの直行便も到着する空港。

次の日、さっそく私はモンマルトル地区を歩いた。寒くて手が凍えそうな気温で、雪もふっていた。

−写真を見返していたけれど、どれがノートルダム大聖堂か分からなくなりつつあった。これであっている、はず。


アメリの舞台はたくさんある。有名なものであれば、ノートルダム大聖堂。パリの中心にあって、とても美しい。

もちろん大聖堂には訪れた。

外から見ただけなのだけれど、ノートルダム大聖堂はとてもきれいだ。そしてグンと高くそびえたっていて、先端や屋根は針のような、どことなく細長い印象を受ける。

セーヌ川の近くという、観光地の割にはとても静かな場所にあったことを覚えている。ただし、長蛇の列で私は中に入ることを諦めた。

そうして、博物館など寄り道をしながら、いちばんの舞台、モンマルトル地区にたどりついた。

交通費をケチったので、ノートルダム大聖堂からモンマルトル地区までで、すでに3kmほど歩いている。真冬のパリを3km。

手が凍えて死にそうで、ついでに言うと、途中でお金を降ろそうとしたATMで、なぜかお金がおろせなかった。そのときの所持金10ユーロ、約1,300円。

–アメリが働いていたカフェ。

モンマルトル地区にあるアメリの舞台といえば、八百屋さんとカフェだ。

アメリは家を出たあと、とあるカフェで働きはじめる。クリームブリュレがおいしくて、ピンクの壁が可愛いカフェ。そして、一人暮らしの場所として選んだマンションに、同じく住んでいる住人の職場。それが八百屋(コリニョン)だった。

わたしはこのカフェと、八百屋に行きたかった。カフェは行ったのだけれど、とても高かった(サンドウィッチとコーヒーで13ユーロ。1,600円くらい……。)。

けれど、外観はとてもかわいかった。ピンクの壁はそのままで、カウンター席とビンテージのようなテーブルがある。見れたことは嬉しくて、ひとまずカフェをあとにした。


八百屋は本当に、アメリに出てきた八百屋のままだった。

壁一面にアメリのポスターが貼ってあって、ところどころ破れている。そして、映画の舞台ということもあってポストカードなんかが売っているけれど、おしつけがましくない。本当に端っこにポストカードのくるくる回る、サビついた棚が置いてあるだけで、それ以外はすべて野菜だった。

八百屋だから当たり前なのだけれど、パリの想像以上に、観光地を前面に押し出した騒がしいおみやげ物屋さんしか見てなかった私は、妙に落ち着いた。

しばらく外観の写真を撮ってポストカードを眺めていると、店から1人のお兄さんが出てきた。

「寒いでしょ?」と言ったあと、「アメリが好きなの?」

「うん、パリにくる前にアメリを見たことを思い出して、ここに来たの。」

「そう。日本人?韓国人?」

「日本人だよ。」

「ああやっぱり。アメリでここにくるのは日本人が多いんだよ。」

お兄さんは野菜を並べながら教えてくれた。しばらく話をして、「寒いから、いつでも中に入ってもいいからね」と言ってくれた。

結局中には入らなかったのだけれど、そのやりとりだけで私はなんだかホッとした。

フランスは、すこし冷たかった。

人は道なんかを聞けばやさしいのだけれど、なんだか発展度合いとともに、コミュニケーションの回数は減っていた。

アルゼンチンや南米が、道を歩くだけで現地の人と、仲よくなったからかもしれない。日本だって、きっと同じような感じなのだ。けれど、人懐っこい人の多い途上国から来た私は、なんだか寂しかった。

そうやって、アメリの聖地巡礼を終えてゲストハウスのドミトリーの部屋へ帰ると、下のベッドのお姉さんがちょうど帰ってきた。

「ねぇ、ワイン飲む?」

「え、いいの?飲む!」

「じゃあ、あげるよ。といっても、グラスがないんだけど。」

そう言ってお姉さんは細長いプラスチックの、フタのようなものを渡してくれた。

ワインを飲むと、もっと暖かかった。

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