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本物の絵は人の心を遠慮なく表現する〜心に残る仕事

少女から大人になる子たちが1つのグループでアイドルソングを披露する。写真に収めたその画は、キメ顔で、完璧な笑顔。

しかし、その画を絵に収めると、「なぜ私がセンターじゃないの?」「お前、今、間違えただろう。」「私の方が可愛い。」そんな声が聞こえるかのように、
顔が赤や青、様々な色で描かれたり、体の半分が闇に吸い込まれていたり、
画家が見たモデルの心が色や形に現れてくる。

この様に絵は写真と異なり、心を描いているから、見た者の心に残る。
……………
上野にある美術館に行くのは久しぶりで、とても楽しみにしていた。大好きな画家の絵も来ているから、期待も膨らんでいた。

溢れんばかりの人が入口に群がる。そこに紛れて入ったが、私の心には1つの絵も、残らなかった。
綺麗に描いた絵の中の女性たちは、良い顔で上手な笑顔だった。
しかし、その絵は誰かに頼まれて描いたのか、売却目的だったのか。そう思わずを得ないほどに絵の中の人が生きていなかった。色にも、線にも、形にも心がいない。「一緒にいる=仲良し」との固定観念に基づいて表情が作られているのだ。

この絵は何を伝え残したいのだろうか。
私は、美術館内を立ち止まることなく、早足で去った。
…………………
今日行った、パナソニック美術館は命の扉のように、目に入ってくる絵、全てに魂が籠っていた。

どの絵から見ればよいか分からないほどに、全てから熱が感じられた。

家族が一緒にいる絵でも、母親は自分だけを見ていて暗い。子供は満面の笑み。母親の心の行方を気に留めないかのように。父親はそんな二人を見ている佇まいであるように私には見えた。

三枚の絵に収まっていたのは同一人物で、心の闇が風景を曇らせていた。

それらは写真ではなく、まぎれもなく絵だった。
……………………
仕事をしていてもよく思う。

この上司は自分をよく見せるために、称賛のために、働いていると。彼の仕事は形に拘った業務説明はAIが書いたような構文であった。


他方でこの人は、人の意識を変えたいのだなと。大事なところを見落としていないのだと。彼女の仕事は、濃淡つけた説明に納得し、実践したいと思うような仕事であった。

注文に沿って、上手にこなした形だけの作品は抜け殻のように、箱として展示される。
誰も見ない、誰にも残らない。
次の世代に残すもののない空箱に人生をかけて、嘲笑混じりの褒め言葉だけを受け止めどうするのかと思う。

他方で、心に訴えたものは、消えない。それはたとえ不完全でも。
伝えたい、分かってもらいたいと願う技術契約書締結時の説明のように。
…………………
形と見栄に拘ったかたちばかりの仕事は、絵画における技術の見せ場のように自己満足にとどまり、誰の足も止めない。知名度の高さから入場者数は多いが、皆が早足に去る。

隣のメンバーを、憎しみ込めためた目で見ているアイドルを可愛らしい顔で描いても、
それは望まれた仕事をしただけで、
誰もが嘘と簡単に見抜く。
描いた行為へ称賛を与えてもそこには
注文者への媚に対する嘲笑が混じっている。

こうやって完成させた残らぬ仕事に費やした時は帰ってこない。為すべきものも、遂げるべき者も喪失した、貴方の仕事が哀しい。

長くともに働いた人へ、サヨナラの前夜に。

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