【昔話】It‘s a shameな男(2500字)
たまに昔話を書きたくなります。
「It's a shame」The Spinners
この曲を聴くと思い出す人がいます。
その人はこの曲が大好きでした。
アフロで、長身の痩せ型で、顔はBOOMの宮さんに似て、、、
その人は地元の宮沢です。
宮沢とは小中学生の時に同じ学校で、高校を出てからも25歳くらいまで付き合いのあった友達です。今ではどうしているかわかりませんが、私にとっての男友達というものは、生涯通じてコイツだけだったのかもしれません。
そんな宮沢との、何十年経っても忘れらないエピソードを書きます。
あの日も確か、この曲が車の中で何度も流れていて…
*
20歳
当時短大生だった私はマルチ商法に騙されて、友達を失い、借金を負い、肌は荒れ、10キロも太り、デブでブスな引きこもりの日々を送っていた。
ある日の夜に電話が鳴った。
酒に酔った宮沢からだった。
「今近くの先輩ん家にいるんだけど、これから車で迎えに来れない?ちょっと話したいこともあるし」
引きこもりで卑屈になっていた私は、
「なんで私がアンタを迎えに行かないといけないのよ。私は彼女でもなんでもないし、明日学校もあるし、行かないから!」
強めの口調で返したら、
「うるせんだよブス!いいからお前は俺を迎えに来ればいいんだよ!」
宮沢は、酔っても酔ってなくてもいつもこんな風に無鉄砲で強引だった。
私はなんだかんだ言いながら車で宮沢を迎えに行った。
宮沢は高校を卒業して引っ越したので、当時住んでいたのは私の家から車で30分程の所だった。
顔を見るや否や「おー、相変わらずブスだな」と挨拶がわりに言われたから、私も「うるせーよ」といつものように返した。
車の中ではたわいもない話をした。
74分のカセットテープからは「It's a shame」が流れていた。
宮沢は「俺この曲好きなんだよ」と言って、歌詞を口ずさみながら小刻みに身体を揺らしていた。
宮沢と会うのは半年ぶりとかそんな感じだったと思う。ちょうど私がマルチに夢中になっていた時に会ったのが最後で、その時から少し距離を置いていた。
車が宮沢の家のマンションの駐車場に着いたので「じゃあね」と別れようとしたら、
「平山お前、ヤバイことしてんだろ」
いきなりぶっ込まれて、私はしどろもどろになった。
「何言ってんの?何にもやってないよ。いいから早く帰んなよ。もう遅いから早く帰ってよ」
時間は深夜の1時を回っていた。
「うるせー、俺は帰らないよ。お前から話を聞くまで俺は帰らない」
私は話をしたくなかった。
自分がマルチ商法に騙されて、友達を失って、借金を負って、心も身体もボロボロになって、何もやる気がなくて、引きこもって、ふさぎこんで、毎日菓子パンを死ぬほど食べて、死ぬほど吐いて、そんな日々を送っているなんて言いたくなかった。
すると宮沢は、
「わかってんだよ。どうせアレだろ?マルチだろ?俺は半年前にお前に会った時に、コイツ絶対何かヤバイことしてるって気付いたんだよ。なんで気付いたか教えてやろっか?」
いつになく真剣に話す宮沢の話を、遮ることなく聞いていた。
「お前ってさ…俺がこんな事言うの本当に悔しいんだけど、独特の「雰囲気」があるんだよ。あ、カワイイとかじゃねーからそこは勘違いするなよ。そういうんじゃなくて、お前にはちょっと人と違った独特の雰囲気があるんだよ。
それがさ、この前お前に会った時は無くなってたんだよ。お前から、その「雰囲気」が無くなってたんだよ。
俺、その時マジでがっかりしたから。
わかる?俺の気持ちわかる?
俺のがっかりした気持ちわかる?」
宮沢はそれから切々と私たちの友情について語った。私に対して失望した事を嘆き、悲しみ、そして怒り出した。
「お前をマルチに誘った男の名前と携帯を教えろ。呼び出してボコボコにしてやるから。お前がやらないなら俺がやってやる。いいから早く教えろ!」
宮沢は酔っていて気が立っていたし、もしかしたら誰かを殴りたい衝動があったのかもしれない。興奮して止められない状態だった。
だけど私は、自分が傷ついたのはその男のせいだけではないし、自分の弱さ故の事だと思っていたから「どうしても言いたくない」と言った。
押し問答のような時間が続いた。
74分のカセットテープは一回りして、2回目のIt's a shameが流れていた。
そして、
「わかった。言いたくないならもう言わなくていい。だったら関わったヤツ全員と手を切れ。今ここで全部の携帯番号を消せ。俺の前で消せ。いいから消せ。そうじゃないと俺はこのまま車から降りない。平山、俺本当に降りないよ」
こうなると宮沢は本当に降りない。そういうヤツだ。
私はマルチで関わった人の携帯番号を全部消去した。宮沢の前で。
そして約束した。もう宮沢のことは絶対に裏切らないと。宮沢をがっかりさせるような事は二度としないと。
正直、心強かった。
宮沢は、強引で、バカで、ホラ吹きで、女ったらしで、金にダラしなくて、いつも何しでかすかわからないヤツだけど、すごく熱くて頼もしくて心強かった。
私は宮沢に救われた。
宮沢も私を救ったと後々ずっと言っていた。
そして別れ際に、
「平山、これでも見て元気出せよ」
と言って、宮沢は私にエロビデオ2本を押し付けてきた。
「先輩に貰ったんだけどお前にやるよ。元気出せよ!じゃあな」と言って去ろうとしたから、
「ちょ、ちょ、ちょ、要らないんだけど。私エロビデオとか見ないんだけど」と言ったら、
「遠慮するなよ、俺からのプレゼント!」
と笑顔で言って、宮沢は車から出て行ってしまった。
ちょ、ちょっと…
結局そのまま車にエロビデオを置いておく訳にもいかず、仕方なく家に持ち帰った。
数日後、ふと思い立って、貰ったエロビデオを見てみると…
女装した男とマッチョな男のゲイビデオ
シリーズ1と2
宮沢、あの時はありがとう
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