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始まらなかった恋 ⑤/6 「電話」

前回の話はコチラ↓


1995年3月


久我くんと距離を縮める為の勝負をかけた合コンが、なぜかカツラが宙を飛び交うヅラ合コンとなってしまい、私の中では完全に終わったと思った。

合コン後にS美とY子に会った時に、私はS美から謝られた。

S美「アヤちゃんがせっかく勝負かけてたのにごめん。何の役にも立てなかった。ただヅラ被って飲んでただけだったwww」

Y子「でも私、改めてアヤちゃんと久我って合うと思った。なんていうのかな、2人ってちょっと似てるよね」

S美「似てる似てる、確かに似てる。調子に乗る所とか、ちょっと偉そうな所とか」

私「たしかに。久我くんて電話でもちょっと偉そうなんだよね」

S美「アヤちゃんもちょっと偉そうな所あるから、似た物同士じゃんwww」

Y子「わかるわかるーーー」

S美「あれ以来、久我からは連絡無いの?」

私「無いよ。多分無し判定されたんだと思う。だってヅラ女だよ?無しでしょ」

Y子「引越しで忙しいんじゃない?」

私「まぁ、私も明後日からアメリカだしね」

私は短大の入学式までの2週間、親戚のいるアメリカに行くことになっていた。

Y子「いつ帰ってくるんだっけ?」

私「入学式の前日」

S美「アヤちゃんこそバタバタじゃん。まぁ、楽しんできて。帰ってきたらまた会おう」

ということで、私は2週間アメリカで過ごし、その間は久我くんの事なんてすっかり忘れていた。(いつものパターンw)


1995年4月

無事アメリカから帰り、短大の入学式を終えて数日経った頃、夜家で寝ていると、それはそれはけたたましく電話が鳴った。
(ちなみに私の家は1階が両親、2階が私と姉で両親とは別に固定電話をひいてました)

時間は夜中の3時、こんな時間にかけてくるのは私宛に違いない。
電話に出ると、

「アヤーーーーーーーー」

いきなり呼び捨て
呼び捨てするのは一人しかいない

「久我くん?こんな夜中にどうしたの?」

「やっと出たよ。何で電話に出なかったんだよ。何度も何度もかけたのに」

「そ、そうなんだ」
(アメリカ行くの言ってなかったみたい)

「アヤーーー、今から会おう」

「は?何言ってんの?」

「今から会おう、とにかく会おう、迎えに行くから会おう」

ちょっと久我くんどうしたの?
いきなり何?
ってか、多分物凄く酔っ払ってる気がする

「久我くん酔ってるよね?」

「酔ってるよー。今、友達と家飲みしてる。俺、ついに一人暮らし始めたから」

すると、電話口の向こうから
「久我ー、誰と電話してるんだよー」
という声に対して久我くんが、
「え?アヤ。ヅラだよヅラ、あの時のヅラ」

あの時のヅラってなんだよw

ヅラ女―、オイ、ヅラ女―

今日もヅラ被ってんのかー


ああ、タトゥー男も元気そうでなにより


「アヤーーーー、今から、会おうよー」

時間は夜中の3時、会えるわけがない
まぁ所詮酔っぱらいの戯言だ

「久我くん酔ってるよね?」

「酔ってるに決まってんだろーーーー
今から会えないなら、、、明日、明日会おう!明日電話しろ。明日の昼に電話しろよ!わかった?」

「わかったけど、私久我くんの新しい電話番号知らないんだけど」

「そうだっけ?今から番号教えるから絶対に電話しろよ。あとベル番(ポケベルの番号)も教えとくからな。じゃぁ明日な、明日必ず電話しろよ!!!わかったな」

「わかったよ。おやすみ」

「おやすみ」


・・・

何これ?
これは何の電話?
どういう意味の電話?
これはもしかして、久我くんにとって私は「有り」ってこと?

そんな妄想を膨らませながら、私は言われた通りに翌日の昼間、授業が終わったと同時に短大の近くの電話ボックスから、教えて貰ったばかりの電話番号にかけた。

何コールかすると久我くんが出た。

「は?誰?」

ちょっと!!!!

ちょっと!!!!

ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん!
アンタちょっとふざけてんの?

「ちょっと!!!久我くんが電話しろって言ったんでしょ!」

「あー、アヤか」

また呼び捨て
まぁ、いいか

「ごめん全然覚えてない。昨日俺電話したの?全然覚えてないわ」

「相当酔ってたよね」

「酔った。すげー飲んだ。それにしても今何時?」

「昼の1時だよ」

「あー、今日午後から大学行くんだったわ。やべー、頭いてー、行きたくねー」

「昨日の電話は覚えてないんだね」

「全然覚えてない」

会おうって言ってたのに、、、

「そっか、これから学校なんだ。そっか、じゃ、頑張ってね」

ちょっと期待はずれだと思って、がっかりして電話を切ろうとしたら、

「今度さ、ご飯でも食べに行こうよ」

私は耳を疑った。

「え?なにそれ?」

「え?」

「今、何か言ったよね?」

「だからご飯食べに行こうって誘ってんの!何度も言わせんじゃねーよバカ」

「もしかして、まだ酔ってる?」

「うるせー酔ってねーよ」

「え?ちょっと待って。それどういうこと?」

「どういうことって・・・まぁ、そういうことだよ」

ちょっとだけ沈黙が流れた

「そういうことってどういうこと?
ゴハンって、また皆で会うの?また合コン?また私ヅラ被って行くの?」

「いや、そうじゃなくて」

「じゃぁ、どういう」

「うるせーなー。2人で会おうって言ってんだよ、このボケが」

2人で会うと言われても、それでも私は

「2人って何?それって友達として会うってこと?2人で会ってどうするの?ご飯食べてどうするの?久我くんは私のこと、、、」

私が一気に詰めようとすると、

「あーーーー、うるせーうるせーうるせー!友達じゃねーよ、友達だとは思ってねーよ」

「じゃあ、何?」

「あー、めんどくせーーーー。俺はね、俺は電話じゃ言わないの。電話じゃそういう事は言わねんだよ」

「それならさ」

「なんだよ」

「会った時に、なんか、言ってくれんの?」

「言うよ」

久我くんの間髪入れずの答えに、私は電話口で思わずニヤリと笑ってしまった。

「じゃ、電話切るからな。また電話しろよ。ベル鳴らしてくれれば、電話返すから」

「わかった。ベル鳴らす」

「おう、じゃあ」

「うん、バイバイ」


私はそっと受話器を置いた。



ついに、、、
ついにこの私にも春が訪れるかもしれない。
ついに私にも春が、春が、、、

私はこれから先の短大人生が、楽しくて楽しくて仕方のないものになると確信した。
そんな事を思ってしまうくらい、嬉しさでいっぱいだった。

そして私は小さくガッツポーズをして、桜の花弁が沢山張り付いた電話ボックスを出た。

私の頭の中も、桜が舞い上がっていた。






しかし、
私に春は訪れなかった。

この先久我くんと会うことはなかったし、結果的にこの電話が最後になった。

なぜなら、


それから2日後に彼は死んでしまったから。



続く


*次で最後です。
⑥は私がこの話で一番書きたかった部分なので、どうか続けて読んでください。コチラです↓












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