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親愛なるジュンコへ 5/8話


5 純子の変化


前回の話はコチラ↓

 私は、純子からのメールも電話も全てシャットアウトすることにした。子どもを産んだばかりの私にとって、4回も堕胎した純子のことがどうしても許せなかったからだ。

どうして純子はそうなんだ?
どうしてそんな事が出来るのか?
わからない
わからない
わからない

地元では、私と同じ時期にミカもメグも出産したと聞いた。
ミカなんてアメリカから帰ってきてから相当荒れたのによく更生したなと思った。その後ミカとメグはそれぞれ3人の子どもを産んでいる。なのに、なぜ純子は、なぜ純子だけがそうなのか?

純子からのメールや電話を何度も無視しているうちに、私の携帯には「純子」の表示はなくなっていった。


6年が経った

2009年、33歳になったばかりの夏だった。
私は2度の流産を乗り越え、2人目の子どもをベビーカーに乗せて近所のスーパーで買い物をしていた。

「アヤP・・・」

後ろから声をかけられた。
振り返ってみると、その声の主は随分と大柄な女性だった。

「え?誰ですか?」

顔を見ても全く身に覚えのない人だったから、私は失礼を承知で聞き返した。

「アヤP、ごめん!わからないよね?純子、純子だよ!」

え?????

一瞬、何がなんだかわからなかった。
私の中での純子は、手足が折れそうな程細くてスレンダーで、美人で・・・

え????

目の前にいるのは純子?え?純子なの?
私が挙動不審な動きをしていると、

「アヤP、ごめーん。わからないよね?
私太っちゃってさ!今80キロだよ。笑っちゃうよね。
バセドウ病って知ってる?甲状腺の病気。その病気の影響でさ、顔も浮腫んでパンパン!もうアンパンマンって言ってよ。キャハハハ~」

それにしても本当に純子なのか?
なんだか口調も変なんだけど。

「病気の影響でさ、呂律が回らないのよ。ごめんねー、こんなんで。
アヤPまた子ども産まれたんだ。かわいいねー」

あー、純子だ。
目の前にいるのは、顔も身体もずいぶん変わってしまったけど、紛れもなく純子だった。
私の挙動不審な動きを見て、大きなリアクションで笑う純子は、昔の純子のままだった。

純子は、6年前に英語教材の営業の仕事で多大なストレスを抱えたせいで、バセドウ病を発症したと言っていた。バセドウ病は人それぞれ色んな症状があって、食べても食べてもどんどん痩せて眼球が飛び出してしまうのが特徴と言われているが、純子のように食べたら食べた以上に太って、薬の影響で顔が浮腫んでしまう人もいるようだった。

純子は病気を発症して数年間は、なかなか社会復帰できずに過ごしていたが、最近また喫茶室ルノアールでのバイトを始めたとの事だった。
ある日、私は子どもを親に預けて純子のバイト先のルノアールに行った。
純子は休憩を取ってくれて、そこで一時間程話をした。

話してみると、見た目は変わってしまったけどノリの良さは昔の純子のままだった。

純子が語った「俳優を目指しながらAV男優のバイトをする友達の話」に、私はお腹を抱えて笑った。すると純子が、
「アヤPは相変わらず面白いね。2人の子どもがいて、優しそうな旦那さんもいて、本当に幸せそうだよね。私も結婚してみたいな。まぁ、その前にこの80キロから痩せないとって感じなんだけどね」と笑って言った。

それから私と純子はまた、ちょくちょく会うようになった。

純子は若い時に苦労して大変な思いをした。
4回も堕胎したことを聞いた時は私から離れてしまったけど、バセドウ病という辛い病気でも、明るく元気でいる純子の事を私は心から応援しようと思った。

そんなある日、私は純子から報告を受けた。
「高校の先輩から男性を紹介してもらう事になった。埼玉県で農業してる人だって。農業ってちょっと興味あるから楽しみ!また報告するね」

私たちは34歳になっていた。
相手は一つ年上の35歳で、実家の農業を継いでいる人だと聞いた。
私は「いいんじゃない?自然の中で生活するのは、病気にもいいことだと思うよ。前向きに考えていける人だといいね。いい報告待ってるよ」

数週間後には、農家の彼と付き合う事を決めたというメールが来た。

「結婚を前提に付き合って欲しいと言われた。このまま結婚するかもしれない」

やはり純子はモテると思った。
どれだけ太ろうが、どれだけ顔がパンパンになろうが、モテる要素だけは失われていなかったと思った。私はこのまま純子が幸せの階段を上っていく事を心から望んだ。

だがしかし、だんだんと純子からのメールがおかしくなっていくことに私は不安を覚えた。

「彼氏が競馬好きでやめて欲しいと言ったけどやめてくれない」
「このまま農家の嫁が務まるのか心配」
「やっぱり別れようかと思ってる」
「別れてもこの先自分を貰ってくれる人なんて現れない」
「どうしたらいいかわからない」

ほぼ一方的にメールが来ていた。
私は当時小さな子どもの世話と、2世帯で暮らす母が交通事故で大怪我を負って入院していたこともあって、純子に付き合える余裕が無かった。
何度も純子のメールを無視してしまっていた。

純子はこのまま別れるだろうと思っていた時にメールが来た。

「結婚することになりました。名前は黒田になります。住所は埼玉県〇〇市・・・」

随分と簡素なメールだと思ったが私はすぐに「おめでとう」と返信をした。
すると

「子どもが出来た。もう降ろすことは出来ないから」

と返ってきた。




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