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美容室と抜毛症

一昨日、2か月ぶりに髪を切りに行ってきた。「今回で椎名林檎は最後でお願いします」と言ったら「最終林檎かしこまりました」と言われて、今回もしっかり椎名林檎になってきたwww

この美容室にはかれこれ10年以上通い続けているが、毎回私の望み通りの髪型に仕上げてくれるから本当にありがたい。

こんな風に、米倉涼子だの椎名林檎だの言いながら気楽な感じでショートヘアに出来るのは、美容師の腕は勿論のこと、もう1つは私が自分の髪を何も気にせずに差し出しているからだと思う。

なぜなら、タイトルからお察しの通り、私は長いこと抜毛症に悩んでいたから。

抜毛症とは?
自身の毛髪を抜くことを繰り返し、それにより毛髪が喪失することにより特徴づけられる。

抜毛症を発症したのは忘れもしない、今から30年前の短大1年の5月だった。遡ることその2か月前、受験が終わり、とある短大の合格発表を見に行った帰りのこと。(その頃は既に合格発表を掲示板で見に行く風習は少なくなり、郵送で合否を確認するものだったが、その日は暇だったし、なんとなく行ってみたかったので行った)
無事合格を確認して、1人原宿を歩いていた時に、20代前半の男性に声を掛けられた。第一声は、

「ナンパじゃありません」

何度も何度も「ナンパじゃないんです。決してナンパじゃありません」と念を押されて、「じゃあなんなんですか」と返したら、

「髪を切らせてください」

との事だった。男性は美容師の卵で私にカットモデルになって欲しいと言ってきた。当時の私はショートカットが少し伸びた状態だったので、タダで髪を切ってくれるならラッキーと思って承諾したら、後ろ髪を刈り上げられるベリーショートになってしまった。

まあ、意外と似合っていた

その後、髪が伸びた頃に美容師の卵から電話が掛かってきたので、また私は2回目のベリーショートになった。それが確か5月頃だった。

前置きが長くなってしまったが、きっかけは刈り上げた襟足のジョリジョリを触るのが気持ちよかったことだった。最初はそれを触るのがなんとなく気持ちいい、そんな感じだった。ただ、そのうち襟足の毛が伸びてきて、ジョリジョリしている感覚が無くなってきて、なんか気になって気になって襟足ばかり触るようになっていた。それから今度は、伸びてきた襟足の毛が邪魔になって仕方なくなっていった。あのジョリジョリが気持ちよかったのに、その毛が伸びて気持ちよくない、全然気持ちよくない、この毛は邪魔だ、この毛は邪魔なんだ、と気付いたら私は襟足の毛を意識的に抜くようになっていった。私の服の背中部分には、いつも短い毛がバラバラと付いていた。襟足の毛を抜くのは、やめられなくなっていった。

人からそれを指摘されたのは2人だけで、1人は元カリスマ美容師の母だった。「また襟足の毛抜いてる。それ癖なの?やめなさい」何度言われてもやめられなかった。もう1人は3歳上の姉だった。「あーちゃん、背中に髪の毛いっぱい付いてるよ」それでも私はやめられなかった。それをやるのは家の中だけだと思っていたが、どうやら短大の授業中や通学時や塾のバイトの最中でも襟足の毛を抜く行為をやっていたらしく、バイトで着ていた白衣に短い毛が付いているのを見て、変な癖が付いてしまったと思った。なるべく外や人前ではやらないようにしなきゃとは思いながらも、家で1人でいる時はひすら私は襟足の毛を抜いていた。

そうなると、もうショートカットは出来なくなって、その頃の私の髪型はずっとセミロングだった。ただ、セミロングとはいっても襟足の毛だけが極端に短いツーブロックのような状態だったので、それを隠すためにセミロングにパーマをかけた髪型にしていた。

一番酷かったのは短大の2年間で、その後も襟足の毛を抜く癖は10年以上も続いた。結婚しても、出産しても、その癖はなかなか治ることがなかった。

だから美容室に行ってもだいたい毎回初回で終わり、リピートする事は無かった。美容師が私の極端に短すぎる襟足の毛を見て、毎回怪訝そうな顔をするのを見るのが嫌だったから。次にリピートした時に「襟足がザン切り」になっているのを見たら、おかしいなと思うだろうから、私はそう思われるのが嫌だったから、毎回行く美容室を変えていた。

後にこれが抜毛症という精神障害だと知ったのは、ネットが普及し始めた頃だった。10代の女の子の1~2%、強いストレスが引き金となって起こり得るものと知った。
当時を振り返ってみると、高校から短大に進学し、それまでとは違う人や環境に多少なりともストレスを感じていたのではと思っていたが、私にとっての大きな要因はやはりあの事だったのかなと思った。(始まらなかった恋参照)

私は昔から自他共に認める、明るくて元気でバカで、何事も前向きでポジティブに生きる人間だと思ってきた。しかし、実際の私は襟足の髪を抜くことをやめられない、長いこと抜毛症に悩む、心がとんでもなく弱くて、ちっぽけな女である事がわかった。多分、誰も私がそんな女だったなんてきっと知らないだろうけど。

「はい、最終林檎出来上がりました」

一昨日、私は2ヵ月ぶりに椎名林檎の髪型になって、いつものように美容師から後ろ姿を鏡で見せて貰った。そこにはスッキリと綺麗に切り揃えられた襟足が映っていた。それを見て私は思った。

辛かったんだな、でもよく頑張ったんだな


「高島さん今回もよく似合ってますよ。いつもありがとうございます」

こちらこそありがとうございます

抜毛症は治る、そして心もいつか安定する






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