見出し画像

農家のおばちゃん

私の父の家系の墓は、畑の中にある町営墓地にあった。

父が生きている時は父に連れられて、祖父の墓参りに行っていた。だから、子どものころからなじみのある場所だった。

あたり一面、ビート畑。お盆時期に行くと畑で作業している農家の人がちらほら。トラクターもたまに動いていた。が、基本的には人はほぼいない。

父が死んで一年ほど経った時、母がその墓地に墓をたてた。納骨をする日、菩提寺の僧侶が来て、お経をあげてくれるという。
薄曇りの8月。北海道の夏の朝はそれほど暑くなく、母、私、妹、母方の祖母の4人でお墓の前に立ち、僧侶の読経を聞いていた。

墓地の奥にちょっとした林があり、そこからカラスの鳴き声がしていた。そして、手を合わせている私の耳に、畑で働くおばちゃん達の会話が聞こえてきた。

(うるさいな〜、めっちゃ喋ってるな、おばちゃんたち、読経が聞こえないやん)そう思いながら目をつぶり、手を合わせていた。

無事に納骨も終わり、僧侶は車で帰っていき、私達はお墓の前で再度手を合わせてから、車に乗り込んだ。

「いや〜、うるさかったよね。農家のおばちゃんたち」
と私が何気なくぼやくと祖母がきょとんとしている。
「なにが?だれもいなかったよ。」と言う。
「・・・いやいや、またまたー、いたでしょ、おばちゃん二人でしゃべってたじゃん、ねぇ」って妹に言うと
「いや、誰もいなかったけど、なんにも聞こえなかったよ・・・お姉ちゃん」と冷静に返された。
母の方に向くと「誰もいなかったけど・・・なにか聞こえちゃった?」と。

まじかよ・・・と背筋が凍りつきながらも、動き出した車の中で、あのおばちゃん達、何話してたっけ?と思い出そうとした。

が、会話の内容が何にも思いだせないのだ。

ただただ、うるさい。甲高い声で、がちゃがちゃとしゃべっているのだ。考えてみると、畑とお墓の距離もそこそこあるし、読経が聞こえないほど、うるさいなんてことはありえない。そして、人がいたら視界に入っているはずなのだ。視界を遮るものはなにもないし。

もしかすると、他の墓にいた、あの世にいるおばちゃんたちなのかもしれないし、その時はまだ、隣の墓に父の姉たちの骨があったから、幼くして亡くなった父の姉たちだったのかもしれない。

その墓地は、車じゃないといけないし、私も妹も地元を離れていて、道もさだかじゃない(案内看板がないので、勘?みたいに母が農道に入っていくのだ・・・)ことから、2年前に墓じまいして、今は父の骨は菩提寺の納骨堂にある。隣にあった父の家系の墓も父の兄が引き取って今は札幌にあるらしい。

なので、もう行くこともない畑の中の墓地。
その墓地の林の反対側に父が生まれ育った旧家があった。今は取り壊され跡形もない。

もう数十年前の話になってしまったが、今もたまに変な声が聞こえるのは、あの時にチューナーを合わせるスイッチが入ったからなのかもしれない。。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?