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【作品】龍のすむ海

龍の住む海

【龍のすむ海】
サイズ:F40号
画材:海漂流ゴミ

「江ノ島の海を、かつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくるくらいキレイにする」

と目標を掲げ活動をされている
古澤純一郎さんという方にお会いしました。

楽しいビーチクリーンや海藻のアマモを海に植える活動をされています。活動期間はなんと18年間。拾っても拾っても、次の日にはゴミが流れ着いている。
このままだと本当に魚の量よりもゴミが多くなると実感したそうです。
 

私が江ノ島を訪れた時、
観光名所は綺麗に整備されていましたが
確かにゴミが落ちていました。

しかし私は過去の江ノ島の海を知りません。
ゴミが多い事で今何が問題なのか、
タツノオトシゴがいる海とはどういう事なのか。
「海藻を植える」という、自然環境に人の手を加える事は果たして本当に正しいのか?
ゴミを拾うだけでどうにかなるのか…
様々な疑問がうまれました。

■海ゴミが抱える問題
海にゴミが多い事で発生するネガティブな要素として
遊んでいて怪我をする、海が濁って海底に光が届かない、生息していた生き物がいなくなる事で生態系が変わる、魚が間違って食べてしまう、江ノ島で生きてきた方々が昔の海の様子と比較して悲しくなる
様々な問題があげられます。

この問題は
海の問題が自分ごとにならないと
共感、アクションが起こりにくいだろうと、感じました。
きっとこれも、大きな問題のひとつです。

■タツノオトシゴがいる海を造る事とは?
目標にされている「タツノオトシゴ」。
昔は生息していたのだそうです。
ダイビングをして見に行きましたが、
私は見つけられませんでした。(仲間のハナタツはいました。)


タツノオトシゴがいる海は、健康な海の象徴であり、海藻類、貝類、稚魚などさまざまな生物が生きる海の事です。

「江ノ島の海を、かつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくるくらいキレイにする」
とは
昔の海に戻す「再生」ではなく、さまざまな生き物が生きる海を「創造」していく
という意味です。

■さまざまな生物が生きる海を造るには
昔の江ノ島は遠浅の岩場でしたが、漁港や防波堤が出来てどんどん砂が溜まりだし、地形も変わりました。
現在の江の島の多くは砂地です。
砂地に変わってしまったのなら、砂地なりのいい環境を創造する。

その創造の取り組みの一つが
アマモを増やす事です。
海の創造には藻場が欠かせません。

タツノオトシゴ類は泳ぎが下手で、尾を何かに巻き付けて生活しています。そのひとつがアマモです。

多くの海藻は、繁殖する時に目に見えない小さな遊走子を遠くまで飛ばしますが、アマモは肉眼で見える大きな卵を海底に落として増えます。大きいため遠くには散っていきません。
そこで、卵を落とす前の母藻を別の場所から採ってきて、再生したい場所に沈めます。すると、袋から成熟した卵が落ちてそこで育ち、藻場が再生されていきます。

また、アマモには遺伝子の多様性があり、
もし植えるなら同じ地域の同じ遺伝子のものにしなければなりません。
相模湾で手に入らないからといって、近くの海から持って来る事はやってはいけません。

古澤さんは、
アマモを増やすため、たくさんの努力を積み重ねてこられました。
今あるアマモからアマモの花を採取。
潮が引いた短時間に採らなければならないため、多くの人手が必要でした。
そこから種を作り、育て、
潮、水深、照度研究を行い海の中に植える。
というのを
4代目までチャレンジされました。
そもそも相模湾の遺伝子を持つアマモが自然界ではなくなってきているため種はとても貴重です。
現地の研究所で保管していた種や
探して探して漁師さんから話を聞いてようやく見つけたアマモから採取し育てられています。
 
それでも育てたアマモがなくなっていたり
なくなったと思っていた2代目3代目のアマモを発見し
ここぞとばかりに魚たちが卵を産んでいたりなど
気が遠くなるほどトライアンドエラーを繰り返されながら
今は5代目に突入されています。

引用http://umisouzou.umisakura.com/#gsc.tab=0
引用http://umisouzou.umisakura.com/#gsc.tab=0




■アマモを人の手で植える事は正しいのか?

古澤さんは、
自分たちがやっている事が正しいのかはわからない。でも放っておけない。やれる事を全力で、でも念入りに、丁寧に、慎重にやりたいと思う。
でも「ゴミ」は確実に無くていいものだから
18年間拾い続けている。
とおっしゃっていました。

人の時間、動物の時間、虫の時間の感覚がそれぞれ違うように
地球の大きな時間の中で人間が行う事は
ほんの一瞬なのかもしれません。
それでも、
「自分の目的のために今やれる事をやる」というのは
美しい事だと感じています。



■100年後の未来

江の島は昔から龍の住む場所と言われており、
江ノ島の1番奥にあるパワースポット龍宮(わだつのみや)には龍の伝説が存在します。

【龍の伝説】
昔々、鎌倉の深沢には森の中に大きな湖があり、五つの頭を持つ五頭龍と呼ばれる龍が住んでいた。
五頭龍は、山を荒らしたり、洪水を起こしたり、田畑を荒らすような悪い龍で、村人は五頭龍に対し、人身御供として泣く泣く子供を差し出し暮らしていた。
ある日、この一帯に大きな地震が起こり、10日間続いたのち、天から黄金の光と共に美しい天女が現れた。天女、弁財天は、空から石を降らせ、海の上に新しい島を造り、そこに住んだ。
一方、五頭龍は弁財天の美しさに一目惚れ。即、会いに行き、求婚を申し出たものの、
「これまでの間、悪行で村人を苦しめ、幼き子の命を奪ってきた、そんなあなたと夫婦になることはできない」
と告げ、弁財天は島の洞窟へ戻った。
これにショックを受けた五頭龍は、翌日改めて島を訪れ、弁財天の前で改心を誓った。それを信じ、受け入れた弁財天は五頭龍と夫婦になった。
五頭龍は誓いに従い、村人に尽くし、やがて村人からも愛される存在となったのだった。しかし、村人のために体力を使い果たした五頭龍の命はやがて尽き果て、最後に五頭龍は、「これからは山となってこの地を守りたい」と告げ、永遠の眠りについたそうだ。
(引用:https://hama-toku.jp/saihakken/03/enoshima/)

今回描いた風景は、100年後海に沈んだ龍宮の裏。
人々の努力で青々と茂った藻場の景色です。水が澄んでいるため光が海底まで差し込み、アマモを含めた植物たちが元気に育ちます。

そこではどんな生き物がいるのか…。
もしかしたら、タツノオトシゴがいるかも…。

この作品は、止められない環境の変化と、人の努力の結果を表現した作品です。

龍は昔から今も、未来も
江ノ島の人々の努力を見守っているはずです。


■絵に込めた想い


江ノ島に行く時、いつも古澤さんは網を持って遊ぼうと誘ってくれます。
目的はありません。

海に流れているゴミを掬ったり、魚を探したり、どこからか流れてきたミカンを掬ったり。

初めてお会いした時も、網を持って遊ばれていました。海に流れているアマモの葉を見てはしゃいでいる古澤さんが印象的でした。

ああ、海が好きなんだなと伝わりました。
そして彼の努力を知り、なぜあんなにアマモに感動されていたのか、納得しました。

今回の風景画には
目立つモチーフは含まれていません。

大きな水の塊
「海」を見て、どこまで感動できるか、楽しめるか、安らぎを感じられるか、厳しさを教わるのか。
感じ方の違いは、自分ごととして接しているかどうかの違いです。

同じように、
目立つモチーフのない平面の作品
「龍のすむ海」を観て、どんな立場の人が何を感じるか
知りたいところです。


 

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