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【文フリ出品までの記録2】自分がその本をつくる意味

文フリに出品したい人が集まるサークルに参加していることは前回の記事で書きました。サークルの例会では、それぞれの出品予定や進捗をプレゼンしあいます。

そんな例会で出されたひとつのお題…「類書とどう差別化するか」。
ぼんやり「翻訳を出したいな」としか考えていなかった私には、いきなりの難題です。


どう差別化する?人のプレゼンを聞きながら考える


たしかに、文学フリマの規模の大きさを考えると、差別化は重要そう。

東京はもちろんのこと、それより小規模な京都でも、1日で周りきれないほどのブースがあるといいます。そんな中で、目に留めてもらう/手にとってもらうには、何かしらの目を引く工夫がいるでしょう。

例会で、プレゼンの順番を待ちながら自問自答します。

「翻訳して出したい作品は、まだ日本語で紹介されていないものだし、それ自体が差別化になるのでは?」

「いやいや、そんなこと、外から見ても分からない。 むしろ、なじみがなさすぎて、誰の本?何の本?ってなるはず」

「他にはないものだってことを、パッと見てわかってもらえるような、見せかたを考えないと…」

こんなことを考えているうちに、他のメンバーがどんどんプレゼンしていきます。

「こういうものを作りたい」という各人のプレゼンに対して、私物のZINEや自費出版本を見せて「こんなやり方や作り方もあるよ」と教えてくれる人もいて、それぞれのアイデアがどんどん膨らんでいきます。

見せてもらった自費出版本は、自分で作るからこその自由さに満ちていて、「え、これ本なの?」というものもたくさんありました。使っている紙もいろいろだし、大きさもまちまちです。ポスター大の本もありました。冊子ですらない本もありました。マッチ箱に巻紙が入ってるとか。

そういう自由な本を見せてもらっているうちに、私も感化されていきました。

当時の掲載雑誌のビジュアルを再現するのは?


翻訳したい作品は、もともと雑誌に連載されていたものですが、その雑誌自体がとても凝っていて、今でも通用するデザイン性を持っています(と私個人は思う)。

掲載誌≪Чудак≫, 1929年発行, 第4号, 8−9ページ。
同、12-13ページ。当時(1920年代)のソビエトでは、こうしたジャンルの雑誌だけでも200くら
い発行されていたようです。


こういう、掲載誌のビジュアル/雰囲気を再現してみたらどうだろう? 面白いんじゃないか? 他にはないものになるんじゃないか?

誌面を見せつつ、このアイデアをプレゼンで話してみました。

直前に思いついただけの、何の根拠もないプランだったのですが、聞いてくれた人たちが、その場で次々と実現するためのアイデアを出してくれたのです。

「当時の雑誌の誌面をそのまま使って、日本語の文字を載せていくという方法はどうか?実際にやった人もいるよ」

「見た感じ、当時の印刷方法はリトグラフと活版の組み合わせっぽい。今だと、リソグラフの多色刷りで、似た雰囲気を出せるのでは?」

「タブロっていう、タブロイド紙の風合いを再現した紙もありますよ」

「せっかくなら、当時の雑誌サイズも再現すると面白いのでは?」

ものすごく具体的、かつ、魅力的…

一瞬、アイデアをもらっただけで、もう実現したつもりになって、うっとりしてしまいました。

推し作家をよりよく理解するためにも


じつは、今回翻訳したいと考えている作家自身が、雑誌や印刷と縁の深い人たちでした。

印刷所の寮に住み込むところからはじめ、新聞の校正係から記者を経て、やがて雑誌の企画・創刊に関わるようにもなった、という経歴を持つ人たちなのです。

当時の編集部の様子。写っているのは別の作家です。

自分たちで印刷用紙を切り分けたり、全紙(全判)に印刷された作品の文字数を数えたりと、印刷がらみのエピソードも多く残っています。

当時の雑誌を再現する行為は、彼らのやっていた仕事や、彼らが生きていた時代を、よりリアルに想像することにつながるのではないか。

そういう点でも、誌面の再現って素晴らしいアイデアなのでは?

たとえ再現しきれなかったとしても、再現を試みるプロセスの中で推し作家をよりよく理解できるのなら、(文学フリマでの出品はさておき)私の中には大きな成果が残ることになります。

うん、それだ。やろう。やることにします。

「自分の出品物をどう差別化するか」から始まった思案が、「当時の掲載誌ビジュアルの再現」というアイデアを経て、最終的に「雑誌再現のプロセスを通して、自分なりに作家の理解を深めよう」にたどりつきました。

作りたいものが見えてきました。ようやくスタートラインに立った気持ちです。

次は当時の雑誌をリサーチだ! 

(【文学フリ出品までの記録3】へ続く)

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