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漱石全集を買った日

■ 感想

「漱石全集を買った日」山本善行:清水裕也(夏葉社)P210

先ずも以って表題がすばらしい。漱石全集を買った日に何かあったのか、それとも買ったから何か起きたのか、変わったのか、それとも。想像される広がりだけで楽しく、何が語られていくのか最初の扉を開く前に心はもう持っていかれていた。

古書店善行堂店主・山本善行さんと、お客さんの清水さん。大好きな古書を通して世代も立場も関係なく、ただひたすらに古書を愛する者同士として結びつき、共に本の中へ潜り、本から潜り出て心を通わせる、紙の優しい肌触りに似た柔らかな光景に心解ける。

「”人はいかにして古本病にかかるのか”という、その変遷がよくわかる」という本書は、清水さんがいかにして古書の沼へと惹き込まれていったのかが、羅列する本から目視することもできるつくりとなっていて、巻頭には買った順番に本がずらりと並べて撮影されている。私も自分の思考の流れを読了本と次に読みたい本を通して日記のように記録しているので、最初のページから共感と興奮の大饗宴状態。読んだ順番ではなく、買った順番というのもまさに思考の記録そのもので、その人を発見していくような面白さがある。

本を書く人がいて、作る人がいて、広めてくれる人、売る人、読む人、手放す人、そしてまた新たな読者との出会い。本の周辺まるごと愛おしいことが全編を通して温かに伝わってくる。幅広い古書について語られているので、知らない本や分からない事も当然出てくるが、それがまた愉しい。今は分からない、でも、分からないままに読んでおくことで、いつかの「あの時の!」と線が繋がる邂逅へとなってくれる。

沢山の未来への幸せの鍵をもらったので、心のポケットは歓びで膨らみ、Amazonのカートも新たなる本との出会いで膨らんでいる。「読むな、危険」の魅惑の書。

■ 漂流図書

読んですぐ7冊の本が増えた。この本がまたどれ程の本を呼び込んでくるのか。

ああ、宝くじ当たらないかなあと思い乍ら、宝くじ買うお金で本が買いたい。

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