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なぎさボーイについて考える。その1

1 今回はマケインおやすみ

今回はマケインはおやすみ。マケインの参考にと思って「なぎさボーイ」について書き出すと全然まとまらない。とりあえず全3回くらいの予定だけど伸びるかも。

「なぎさボーイ」は氷室冴子作の少女小説(ここあとでテストで出すよ)。
1984年9月コバルト文庫。
続編(厳密にいえば違うがそれはあとで)の「多恵子ガール」は1985年1月同じくコバルト文庫。当初から連続して出す予定だったのだろう(なぎさのあとがきで多恵子が予告されている)。
なお、このあとだいぶたってから3作目の「北里マドンナ」が1988年11月に単行本としてでている。

すでに文庫は絶版で電書という形態でしか販売していない。図書館で借りていただいても古本で入手していただいても僕が何かいう筋合いではないが、一つだけ。

2 ラノベのはしり(本文とイラストの幸福な出会い)としての「ボーイ」

「ボーイとガールのカバーと挿絵は渡辺多恵子じゃないとだめ!」と声を大にしていいたい。
読めばわかるが、この渡辺多恵子の絵のキャラじゃないと、本文が生きない。ラノベが売れるも売れないも絵師次第とよくいうが、そういう意味ではまさにこのシリーズこそラノベのはしりといっても過言ではない。
なお、この時期渡辺多恵子はマンガ家としても円熟期あるいは転換期にきていて、それがこの「ボーイ」「ガール」にも微妙に影響しているのではないかと僕は勝手に思っているのだが、これはまたあとでふれる。 

ちなみに、3作目の「北里マドンナ」も元々単行本では渡辺多恵子のカバーイラストだった。だがこれはもう古書というかたちでしか入手不能(僕の記憶では本文の中に挿絵はない)。詳しくは次をみてください。

3作とも、書評は今でも優れたものを多くのかたが書いているので(シミルボンのフカイさんという方のものは特によかった)、僕は当時の印象とマケインとのつながりめいたことをざらっと書く。最小限のあらすじつけて。

が、そのまえに。

3 氷室冴子 少女小説の双璧


今の若い人は氷室冴子がどういう人か知るまい。
そもそも活動の舞台としていた集英社のコバルト文庫もよくしらない人が今では多いかもしれない(知ってて「マリみて」くらいか)。
『どういう人』とはもちろん、北海道のどこそこで生まれ、生涯独身、とかの伝記ではない。業界における立ち位置のこと。
たぶん、今の若い人たち、30代以下だと、知識としてジブリの初テレビアニメ「海がきこえる」の原作者として認識している程度ではないか。
あるいは、花とゆめで連載された「なんて素敵にジャパネスク」シリーズの原作者。

コバルト文庫そのものがどういう存在だったかは、このサイトを参考にしてもらって。

氷室冴子は、1980年代コバルト文庫の双璧といっていい存在だった。
双璧というのは、僕が中学高校のころの少年サンデー(大昔)で例えれば、あだち充か高橋留美子かという感じ。氷室冴子も時代的にはちょうどあう。少年マンガと少女小説というジャンルの違いはあれ、その巨人ぶりをあらわすには適切だろう。
当時はどんな片田舎の本屋にもコバルト文庫のコーナーがあり、全国津々浦々の少女たちが氷室冴子の本を読んでいた。
また、小説がよく売れていただけでない。前述の「海がきこえる」はテレビドラマになったし、1985年には出世作「クララ白書」が実写映画化されている。

少女小説の双璧のもうひとりは誰かといえば、新井素子(「星へ行く船」シリーズの中高生への浸透度はかつてのハルヒ以上)。
ただし、彼女はあくまでSF作家なので、コバルトで作品を出しても少女小説メインとしてとらえられることもなかったし、熱狂的なファンは男性のほうが多かった。コバルトを男性が読むという風潮は彼女が作った部分が大きい。実際作風もライトなものから重いものまで多岐にわたっていた。

氷室冴子はそういうわけにはいかない。隔月刊の雑誌コバルトに新作を載せ続けて極端にいえば少女小説業界を支えていた。彼女(あと新井素子や赤川次郎)がいて雑誌が一定売れたから、新人の作品がどんどん掲載されて文庫デビューし、そして他者の編集者から見出されて最終的には少女小説の世界から旅立って一般文芸に進出していった。いちいち名をあげないが、大きな文学賞を受賞しえらくなった人も多い。

さて、ともかくそういうコバルト、もっといえば少女小説を代表する存在だったことを納得してもらい作品に入る。

4 なぎさと仲間たち

ア 雨城なぎさ(うじょうなぎさ)

名前だけだと性別がまぎらわしい男の子。北海道空知の人口2万人規模の蕨町に住んでいる。
小説の開始時点では中学3年生( なおここで紹介する他人物もみな同学年)。
身長165センチ、女顔の童顔。子どものころから女の子と間違えられてきたこと、彼のことをアイドル的に溺愛する母親のとっぴな行動を苦にして、「男は泰然としていなければならぬ」みたいなアナクロな男性観をモットーとし、周囲には「下の名前で呼ぶな、名字で呼べ」というが誰にも相手にしてもらえず「なぎさちゃん」「なぎさくん」と呼ばれている。ただ一人の例外をのぞいて。陸上部所属だが中学では棒高跳び高校では身長による限界を感じ長距離に転向。

イ 森 北里(もりきたさと)

なぎさの幼稚園時代からのくされ縁。
幼稚園の先生がなぎさのことを女の子と間違えて紹介したときに「およめさんにしたいで ーす」となぎさのトラウマをつくった元凶のはずだが、なぜか無二の親友となる。なぎさもまんざらではなかったのだろうか。女装にたとえると、なぎさが可愛い系の美少女だとすると北里はお姫様、気品に満ちた美女になる。日本舞踊分家家元の子息であり、女舞をする。
「北里マドンナ」の主人公だが先行する2作からややキャラチェンしている。


ウ 原田多恵子

なぎさといつも喧嘩している少女漫画によくいるおせっかいタイプの女の子。美人ではないが人気者で三部作内でも彼女にいいよる人間はあとをたたない。陽気でお
調子ものを演じることが多いが(嘘というわけではないが)実際は思慮深く、闇も抱えている。なぎさのことをただひとり、「雨城くん」と呼び続けていた。
「多恵子ガール」の主人公。

エ 麻生野枝

北里の従姉妹で多恵子の親友。
クールビューティー。性格は辛辣で男嫌い。ただ弱い者にはそれなりに優しいようで、三四郎へのあたりは悪くない。
北里のことは本家(北里)と分家(野枝)らしくさんざん悪くいうが、同年代のいとこ同士としては仲がいいほうではないだろうか。
なぎさに対する感情は複雑であり、多恵子がなぎさのことを好きなのは当然承知しているが、それを積極的に応援するつもりにはなれない。それは別に自分もなぎさが好きとかではなく、なぎさの考え方に幼いものを感じるからかもしれない。

オ 上邑三四郎(うえむらさんしろう)

「三四郎の名字なんだっけ?」と「なぎさボーイ」読み返したけどみつからない(急いでたからね、たぶんどこかにある)ので、「蕨が丘物語」読み返してきた。

彼はグループの中では一番めそめそしていて、弱虫で、多恵子のことがずっと好きだったんだけど、多恵子となぎさが相思相愛なのわかっていたので(ああ、書いちゃった)じっと我慢しているという健気だけどちょっといらっとする子だった。
その彼が、進学予定の高校の文化祭で知り合った2つ年上の女子高生に恋をして、猛アタックするのが「蕨が丘物語」の「純情一途恋愛編」及び「なぎさボーイ」の第一話「俺たちの序章」。その第一話で、三四郎がなぎさに多恵子とのことで自分に遠慮しなくていいというのがなぎさと多恵子の関係に一つの区切りになる。
したがって、第一話ではとても重要な役というかゲストヒロイン(男だけど)なんだけど、小説全体としてはその後出番もほとんどないので(作者も持て余したため?)年上の彼女と幸せにしていると思われる。

5 第一話と第ニ話のあらすじ

この小説の白眉は誰もが認めると思うが第三話からなので、第一話第ニ話については超簡単あらすじにとどめる。

ア  第一話「俺たちの序章」あらすじ

三四郎に好きな人ができて告白するというので色々と心配したなぎさでしたが、相手は多恵子ではなく別人なので安心しました。
三四郎からは俺に遠慮なんかするなといわれました。
なぎさと呼ばれるの嫌だと常々周囲に言ってたので、義理堅く「雨城くん」と呼び続けてた多恵子に「これからはなぎさと呼んでいいよ」といいました。


イ 第二話「俺たちの革命」あらすじ

多恵子の弟の陰謀で松宮くんという恋のライバルが登場しますが、しょせんなぎさの敵ではありませんでした。なぎさくんは松宮くんと弟をなぐってやっつけました。多恵子はなぎさがやきもちを焼いてくれたということでうれしかったみたいです。
とまあ、なぎさと多恵子は正式につきあい出したわけではないが、けっこういい感じになって高校受験に突入したわけです。

6 高校進学早々なぎさは鬱に

第三話「俺たちの乱世」で、なぎさたちは無事蕨町高校に合格する。
しかしなぎさは高校に進学してから憂鬱な日々が続いている。登校拒否になりそう。

原因その1。入学式で新入生代表としてあいさつするなぎさを溺愛する母がビデオ撮影していて、声援までしたものだから学校中に恥をさらすこととなった。

原因その2。恋敵?松宮くんも同じ高校に進学するが(まあ小さな町だし)、なぜかなぎさに友情を感じて毎日なぎさの家まで出迎えにくる。しかも仲良しグループは別クラスなのに彼だけ同じクラスでうざいことこの上ない。事情をしらないクラスメートは大親友だと信じ込んでいる。

そして最後の原因その3。
それが槇 修子(まき しゅうこ)
(画像は著作権の問題なしに引用できるか自信ないので検索してみてください)。
受験終了後、人混みの玄関の中からでも一瞬でなぎさが横顔を見つけた人。
なぎさが「生まれて初めて、心から美しいと思った」横顔の持ち主。

彼女は今なぎさと同じクラス、そして隣の席にいる。
そして昔の約束を守って、入学してから1ヶ月たった今も、なぎさのことを無視している。なぎさも彼女に話しかけない。
いったい、ふたりの間には過去になにが。それは・・・

というわけで、次回は槇修子という女を徹底解剖していきます。


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