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ふらっと文学フリマに行ってみたら新しい目標ができた

最近文章がひと段落し、平坦な日常になりつつある。今まで張ってた糸がぷつりと切れたようなそんな感じか。なんとなくで一日がすぎていく。

これじゃいかん。何か刺激がほしい。そんなことを思いながらツイッターを眺めていると、気になるものが目に入った。

「文学フリマ」だ。同人誌即売会ってやつか。


同人誌即売会の思い出

同人誌即売会、行ったことがあるだろうか。僕はコミケに行ったことがある。あそこはなかなか強烈な魔境だった。今でも最初にホールに入ったときの光景が、カネスチックで貼られた材木のように脳裏に残っている。

あの日、目の前で人が熱中症で倒れる光景にビビりながら会場に入った。そこで最初に目にしたのは「オードリー春日の同人誌」。同人誌というとアニメの二次創作を想像していたので、予想もしない方向性の作品と世界の広さに思わず身体を小さくして通りすぎた。しかしコミケに逃げ場はない。その先で「嵐」の薄い本に待ち構えられ、世界の広さを知ったのだった。

その体験から一つ言えることがある。同人誌即売会は、「刺激がもらえる」という点では間違いない。

こうして、文学フリマに行くことを決めた。


いざ文学フリマ

ゆりかもめに乗り、羽田空港に向かう浮かれた空気に揺られながら流通センター駅で降りる。

会場はすぐそこだ。雰囲気はコミケと似ている。小さいブースが並びテーブルでそれぞれこだわりの一品を紹介する人、人、人。たくさんいる。コロナで長らく見ていない景色がそこにはあった。

さて、いざ参るか。でも、踏み出した足が止まった。ちょっと気おくれ。なんてったって、最後に行ったコミケは5年以上前だ。そこで、まずは友人のブースに顔を出して雰囲気をつかむことにした。最初はロムれってやつだ。

挨拶をして最初の一冊を買った。これで文学フリマデビューだ。

それから20分後。話を聞き、会場を歩き回りようやく文学フリマがわかってきた。

出展のハードルはコミケより低いこと。たまにおもしろ記事を書いている大物(?)が紛れこんでいること。ブースの行列はほとんどなく出展者との距離が近いこと。つまり、興味のある本を見つけたら作者の話を聞くこともできるってことか!


本を買おう

さて、そうと決まればいよいよブース巡りだ。もう最初にコミケに来た小鹿のようなあのころとは違う。今日は刺激をもらいに来たんだ。異文化だったらそれに飛び込んでやろう。

そんなことを考えながら人をかき分けてブースの間を進んでいると、異物を見つけた。

屋外にある「バスタブ」の写真が並んでいる。

どうやらそれ専門の写真集を作っているらしい。そうそう、こういう訳のわからないものを待ってたんだ。もしケモミミがついていたらぴくぴく動いていたところだ。

「こういうのってたくさんあるんですか?」

せっかくの作者がいるのだから、ジャブを打ってみた。

「たくさんありますよ! ほらこんなに」

いそいそとページを開いて何か見せてくれた。よく見ると、その手に持つのは「愛知県にたくさん点がプロットされた地図」ではないか。どうやら愛知県にある屋外のバスタブを何十か所も撮っていると。

正直にいおう。たまらん。井戸を掘ったら温泉が出てきたみたいな。想像の何倍もの熱意が返ってきた。

「これください」

思わず新刊を買った。ちなみにその本はほとんど解説もなく、ひたすら屋外のバスタブを写した写真集だった。しかも発行日は2014年。10年近くも撮り続けているってことか。

なるほど、これが文学フリマか。来てよかった。


続々と現れる濃い人たち

それからはあっという間だった。狂気と執着と熱意に感心しながら気になる本を袋に入れていく。

「民俗学」について書いている人がいた。この間調べた「江戸時代のキツネダンス」は、どうやら「民俗学」というジャンルに当てはまるものだったらしい。たくさん出していたのでとりあえず三冊買った。

どこでも見かけるマルフクの看板を集めている人。郷土資料館を訪れてオススメの施設を紹介している人。ぶどうをひたすら食べ比べてその品種を記録に残そうとしている人。きぬた歯科の看板を撮っている人。各地のタヌキケーキを食べて回っている人。

「好き」を7zファイルにまとめたような、そんなあまりに濃厚な空間だった。


新たな目標

回ってみて、とんでもなく楽しかった。刺激をもらえた。KOされたようなふらふらした気分で会場を出る。すぐに帰るのがもったいない気がして、ちょっと離れた駅まであることにした。

ぐるぐる渦巻く脳内で、一つの声が聞こえた。

「自分でも作ってみたい」

そうだ。そういえば、僕は前から本を作ってみたいんだった。

大学時代、広報誌を作る委員会で雑誌を作った。組版の基本を叩き込まれた。

卒業し、自分でも同人誌を作ってみたいと思った。でも、自分の中には何も題材がなかった。だからHPを始めた。ガジェットを調べてまとめ、あわよくばいつか本にまとめようという野心があった。

でも、コロナでタイミングを逃した。その時期におもしろ記事を書く楽しさを知った。オモコロ杯を通して人間関係もできた。いつしか本を作りたい思いは池の底に溜まる土のように忘れられていった。

でも、今日、池がかき混ぜられた。そうだ、同人誌を作ってみたい。そして今の自分は、あのころとは違う。

ネタは、いくらでもある!

力を入れて調査した記事は両手に収まりきらないほどある。一つ一つが書こうと思えば十数ページにもできる内容だ。だから、その中から自分がやりたいことを選べばいいのだ。

思わず歩きながら手を強く握った。よし、新しい目標ができた。これで再び代わり映えのない日々とはサヨナラだ。


文学フリマ、ありがとう。次はできれば、作る側として参加したいな。

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