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セロトニン系移住か、アドレナリン系移住か 元移住促進プロジェクトプランナーのオランダ人パートナーとの移住先探し記2

日本の移住(定住)先探しを始めることにしたわたしたちは、早速「九州移住ドラフト会議2022」にエントリーをし、移住のマッチングサイトであるSMOUTにも登録した。

ここまでのなりゆきはこちら▼

SMOUTに登録して関心がある取り組みに対して「興味がある」というボタンを押すと、ほどなくしてその取り組みを行なっている自治体(から委託を受けた)の人たちからメッセージが届いた。

そのほとんどは「ありがとうございます!聞きたいことがあったらいつでも気軽に聞いてくださいね」といった内容のものだったが、そのうち一つの地域はその地域の情報が分かるウェブサイトを紹介し、「ぜひ一度話をしてみませんか」とのメッセージをくれた。

興味があるというボタンを押した先ではなかったがそうやってより具体的にアクションをしてくれるということはたとえそれが多くの人に対してだったとしてもそれだけ移住受け入れに積極的なのだろうと感じ、話をしてみることにした。

それが新潟県三条市だ。

三条市はものづくりのまちとして工業を中心に発展をし、アウトドアを楽しむ環境も豊富でスノーピークの本社もあるまちだという。

教えてもらったウェブサイトも美しく、そこから予算をしっかりつけて移住の受け入れを行なっているのだということも感じた。

自然が好きなパートナーも「素敵なまちだね!ぜひ行ってみたい!」ととても前向きな反応を示していた。

そんなこんなで早速新潟県三条市の移住コンシェルジュの人と話をした。

幸いなことに移住コンシェルジュの人が英語が堪能で日本語と並行して英語でも説明をしてくれたのでまちのことやまちとしての取り組み、どんな人の移住を望んでいるかなど様々な話を二人で一緒に聞くことができた。

三条市では移住検討者向けのツアーがあり、交通費や宿泊費の補助をしてくれるそうだ。

長年続いているものづくりの企業が多い(しかし今は働き手・担い手が少ない)ということで市としてやはりある程度の資金があるのだろう。


過疎化や高齢化なんて、日本の田舎ならどこも悩んでいて、結局、人口の奪い合いにしかならない。
移住者を呼びたいのはどの田舎町でも同じ。お試しで居住する企画をやっている町も珍しくはない。結局、一時的な解決にしかならない。社会に大きな変化を持たせることはできない。

これは、約10年前に移住促進プロジェクトのプランナーだったわたしが考えていたことであり、わたしを含めそのときのプロジェクトの参加者や企画者をモデルにした短編小説の中に出てくる、わたしの心の声だ。

「騙して人を集めた女」というのがわたしがモデルになっている女性の話▼


このときの考えは今でも大きくは変わってはいない。

放っておけば高齢化は起こっていくし、人を集めようとすることは本質的な解決策ではない。

いかに、市として、まちとしての経済構造および関係性の構造を変化させ持続可能なシステム(流れ)をつくっていくかというのが移住促進の根底にあるテーマであって、だからこそ近年では関係人口(地域と多様に関わる人)を増やすことに取り組んでいる地域が増えているのだろう。

ダーウィンの進化論でも知られている「変化するものが生き残る」という考えに対して、近年、実は「多様な共存関係を持っているものが生き残った」という見方も出てきていると聞く。

「あなたたちは誰とどんな関係をつくろうとしているのか」というのが、今人口減少に直面している地域に突き付けられた問いの一つだろう。

それは同時に、移住を検討していようともいまいとも、わたしたち一人が突き付けられている「生き方」に対する問いなのだとも思う。



話を聞く限り、三条市はすでに外国人の移住者・定住者も多いということでパートナーも良い印象を持ったようだった。


その翌日、今度は「九州移住ドラフト会議2022」のエントリーの面談があった。

こちらは取り組みの内容等を聞くということがメインになりそうということもありわたし一人でオンラインでの面談に参加をした。

「九州移住ドラフト会議2022」はさまざまなイベントを通じて九州の12の地域の人たちと出会うことができるが、参加費が30,000円かかる。

三条市の取り組みを知ったパートナーは「あっちは交通費や宿泊費を補助してくれるのに、こっちはお金を払うんだね」と笑っていた。


面談後に「お酒は飲みますかって聞かれたよ。九州の人はお酒を飲むのが好きな人も多いから、お酒の席がコミュニケーションの場にもなるんだろうね」と彼に告げると、「僕は自分が好きなときにお酒を飲みたい」と顔をしかめた。

オランダには「飲み会」的な文化はあまりないと聞く。
外食費は高いし、何よりも「仕事が終わったら(以前だったら)さっさと家に帰って家族との時間を過ごす」というのがオランダ的な幸せな時間の使い方だ。

お互いの人となりを知るためにイベントのようなこともあるらしいと伝えると、今度は「ファストデイティングみたいだね」という言葉が返ってきた。

「お互いを急いで知ろうとしたカップルはだいたい長くは続かない」らしい。


彼の言葉はなかなか辛辣だが、一理あると思った。


今回、約30分という短い時間の中で聞くことができたのは取り組みの本の一つの側面であり、わたしが受け取ったものはそれにさらにわたし自身のバイアスがかかったものだ。

わたしたちが想像しうる以上に取り組みは深く設計されており、だからこそ何年も続く取り組みとなっているのだと思う。

そんな前提を持ちつつ、誰かを傷つけたり非難したいわけではないという断りをした上で敢えて、「イベント」という特性について言葉にしておくならば、「イベントはわたしたちの気持ちを盛り上げる効果がある」ということだ。

気持ちが盛り上がると普段の冷静な自分では選択できないことにも「えいやっ!」と飛び込むことができる。

だからこそイベントにするのだ。

盛り上がっているイベントに参加するときに感じる感覚は、言わばアドレナリン系の高揚感だ。

この高揚感はとても心地よく、それが移住にまつわるもろもろ大変なことを乗り越える後押しになる。


しかし、すでにいろいろな国に暮らしてきたわたしたちにとっては「えいやっ!」という勢いは必要なく、日々の暮らし(今は旅が暮らしのようになっている)の延長で「長く暮らすのに良い場所」を見つけたいと思っている。

言うなれば、わたしたちは、落ち着いたセロトニン系の移住をしていきたいのだ。


そう思うのは自分が歳を取ったからだろうか。


刺激や変化を求めるための移住もあれば、何かを静かに育んでいくための移住もある。

だからアドレナリン系がいいか、セロトニン系がいいか、はたまたまた違った形がいいか、何が合うのかは人それぞれだろう。

今回のわたしたちのように実際に話してみてその速度感や得られるものの違いに気づくということも往々にしてあるだろう。

それでも、徒労になるかもしれなくても多くの人にオープンに開いている地域や機会、イベントがあるというのは本当にありがたい。


次の滞在予定先がコスタリカであり、日本との時差の関係でオンラインのイベントへの参加が難しい可能性が高いこと、何よりイベントの趣旨や価値とわたしたちの求めているものが合致しないことから、「九州移住ドラフト会議2022」は参加を見送ることになりそうだ。



「これまでの旅も、自然と宇宙が次の扉を開いてくれたよね。これからもそうしていったらきっと、良い場所に出会えるはず。旅を続けながら、日本の人たちと話すことも続けていこう」


日曜の昼下がり、打ち寄せる波を二人で眺めながらそんなことを話していた。

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