淡雪みさ

夏と珈琲が好きな物書き。 ↓書籍情報や連絡先、他の活動場所など、詳しくはコチラ ht…

淡雪みさ

夏と珈琲が好きな物書き。 ↓書籍情報や連絡先、他の活動場所など、詳しくはコチラ https://lit.link/awaawaawayuki

マガジン

  • 『人魚隠しし灯篭流し』

    怪異が渦巻く島の謎を解き明かす、因習村×和風ホラーミステリー。

  • 『鬼棲む冥府の十の後宮』

    冥府で死者の魂を痛めつける〝獄吏〟として働いていた紅花は、大好きな閻魔王とまた会いたい一心で後宮入りを目指す。 わざと王の車の前に突っ込んで後宮入りを頼み込むが、その結果強制的にやらされるはめになったのは、後宮の汚れ仕事である〝鬼殺し〟。 後宮に入れたとはいえ、最北にある閻魔王の養心殿(私室)とは程遠い南の宋帝王の元で汚れ仕事を続けていた紅花は、やがて【鬼と花の心が読める】という獄吏としては役に立たなかった能力を宋帝王の皇后に買われ―― 冥府の後宮で繰り広げられる、中華風ファンタジー。

  • 『惑ふ水底、釣り灯籠』

  • 『狐と祭りと遊び上手と。』

    玉藻前の生まれ変わりが妖怪の町を変えていく、美しい妖狐たちの初恋の物語

  • 『シザー・フレンズ・バタフライ』

    悲しい恋をする貴方が好きな私の恋も、悲しい恋になることくらい分かってた

記事一覧

「人魚隠しし灯篭流し」第九話

【第一話はコチラ】  帆次がぐいっと文の肩を掴んで引っ張ってきた。 「おい、文ちゃん。そいつが約束を守ると思ってんのか? そいつは怪異なんだろ」 「……分からな…

淡雪みさ
5時間前
1

「人魚隠しし灯篭流し」第八話

【第一話はこちら】  少しだけ銀鱗島の祭りに興味が出た文は、盛り付けをしながら意気込んだ。 「ちょっと怖いけど、祭りまでには怪異をやっつけられるように私も頑張る…

淡雪みさ
1日前
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「人魚隠しし灯篭流し」第七話

【第一話はこちら】  医者は紙とペンを取り出し、ウイルスと細胞の絵を描きながら文に説明し始めた。 「ウイルスが感染する時は、ウイルスの表面抗原と人の細胞の表面抗…

淡雪みさ
7日前
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「人魚隠しし灯篭流し」第六話

【第一話はこちら】 (ご遺体をあのお医者さんのところに持っていけば、研究の助けになるかも)  廊下を進み、びっしりと謎の札が貼られた襖を開ける。  そこには凄惨…

淡雪みさ
11日前
1

「人魚隠しし灯篭流し」第五話

【第一話はこちら】  文は何か目が変になってしまったのかと思って自分の目を擦った。しかし、特に痛みなどはない。 「どうかしたの?」 「……いや。一瞬、色が変わっ…

淡雪みさ
2週間前
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「人魚隠しし灯篭流し」第四話

【第一話はこちら】  庭の石畳の上を歩いて部屋に戻ろうとしていた時、何かがぶつかる音が聞こえた。文は下駄を脱いで廊下に上がり、こっそりと音のした部屋の近くに寄る…

淡雪みさ
2週間前
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「人魚隠しし灯篭流し」第三話

【第一話はこちら】  しばらく橋の向こうを眺めていた千代子は、いつの間にか随分遠くまで来てしまっていたことに気付き、袋を持ち直して早足で市場まで戻った。  市場…

淡雪みさ
2週間前
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「人魚隠しし灯篭流し」第二話

【第一話はこちら】 「……じょうぶ……でしょうか……違うのに……」 「……おそらく……決まるので……形は関係ありません……」 「よかった…………わたくしの血では駄…

淡雪みさ
3週間前
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「人魚隠しし灯篭流し」第一話

 【序章 ある老婆の話】  そこの若い衆。見ぃへん顔やね。どこから来はったん。  東京? 新聞記者?……ああ、あの島か。あの島に行くんは、やめといた方がええ。そ…

淡雪みさ
3週間前
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「鬼棲む冥府の十の後宮」第十二話(完)

 ――……絞首台に立たされ、現世に向かったその時、とっくの昔に譲位した王に懸想していたのは我くらいのものだろう。  ◆  どこまでも続く、はんなりと花咲き春の訪…

淡雪みさ
3週間前

「鬼棲む冥府の十の後宮」第十一話

 それは、一兆九千億年以上も前のこと。  まだ前王が健在だった時代に、庭に桃の木を植えようという話になった。長子は彼のことを父のように慕っていた。子供のように懐…

淡雪みさ
3週間前
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「鬼棲む冥府の十の後宮」第十話

「あらあらあらぁ、奴隷の下に付いている、可哀想な方々じゃない」  長子皇后の侍女たちは、口元を隠しながら一斉に笑い合う。それは明らかに嘲笑だった。 「天愛皇后様…

淡雪みさ
3週間前
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「鬼棲む冥府の十の後宮」第九話

 ■  紅花が去った後、飛龍が帝哀を見て言った。 「意外だったよ。随分紅花に入れ込んでるんだね?」  口元は笑っているがその目は冷たく、面白く思っていないことが…

淡雪みさ
3週間前
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「鬼棲む冥府の十の後宮」第八話

 後日、予想通り天愛皇后から戻ってくるようにとの知らせが来た。  少しの間だったが共に仕事をした庭師のおじさん達は、紅花を「元気でなー!」と明るく見送ってくれた…

淡雪みさ
3週間前
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「鬼棲む冥府の十の後宮」第七話

 帝哀は紅花から視線を外し、部屋の隅の引き出しから小さな木の容器を取り出した。容器の中に入っていたのは、すり潰したような黒い粉だ。 「俺がいつも飲んでいる薬だ。…

淡雪みさ
3週間前
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「鬼棲む冥府の十の後宮」第六話

 ■  紅花が一人前の庭師となるまで、そう時間はかからなかった。最後の方は意地だった。庭師に認められるよう、夜も寝ずに御花園の手入れをした。花たちには『必死ネ』…

淡雪みさ
3週間前
「人魚隠しし灯篭流し」第九話

「人魚隠しし灯篭流し」第九話

【第一話はコチラ】

 帆次がぐいっと文の肩を掴んで引っ張ってきた。

「おい、文ちゃん。そいつが約束を守ると思ってんのか? そいつは怪異なんだろ」
「……分からない。でも、一度は信じてみなければ何も始まらないと思う」

 文たちから見れば殺生の罪でも、虎一郎からすればただ食事をしただけ。その認識の違いをこれから改めていければ、虎一郎と島の人間が共存する未来も来るかもしれない。

「文に触るな」

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「人魚隠しし灯篭流し」第八話

「人魚隠しし灯篭流し」第八話

【第一話はこちら】

 少しだけ銀鱗島の祭りに興味が出た文は、盛り付けをしながら意気込んだ。

「ちょっと怖いけど、祭りまでには怪異をやっつけられるように私も頑張るよ」
「……ええ? 文ちゃんが頑張る必要なんてないのよ? 怪異については家の人達が対処してくれているから」
「実は、私も今夜見張りを頼まれてるんだよね」

 そう打ち明けると、珊瑚の表情が分かりやすく曇る。

「それ、大丈夫なの、文ちゃ

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「人魚隠しし灯篭流し」第七話

「人魚隠しし灯篭流し」第七話

【第一話はこちら】

 医者は紙とペンを取り出し、ウイルスと細胞の絵を描きながら文に説明し始めた。

「ウイルスが感染する時は、ウイルスの表面抗原と人の細胞の表面抗原が合致する必要があります。例外はありますが基本は細胞の表面に結合しないと入り込めないですからねえ。鱗生病の原因となるウイルスの表面抗原が、ある遺伝子を持っている人に感染しやすいような抗原であるとしたら、特定の一族にのみ異常に感染すると

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「人魚隠しし灯篭流し」第六話

「人魚隠しし灯篭流し」第六話

【第一話はこちら】

(ご遺体をあのお医者さんのところに持っていけば、研究の助けになるかも)

 廊下を進み、びっしりと謎の札が貼られた襖を開ける。

 そこには凄惨な光景が広がっていた。

 珊瑚から老婆が死んだ時の状態のことを聞いていたので覚悟はしていたが、想定以上だ。
 畳や布団が血で染まっている。一つの部屋にいくつものむくろが重なっており、顔は綺麗であるのに体はぐちゃぐちゃに荒らされていた

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「人魚隠しし灯篭流し」第五話

「人魚隠しし灯篭流し」第五話

【第一話はこちら】

 文は何か目が変になってしまったのかと思って自分の目を擦った。しかし、特に痛みなどはない。

「どうかしたの?」
「……いや。一瞬、色が変わったように見えて」
「何それ、気のせいだよ。星の明るさが目に映ったのかも」

 あははと笑って返す。
 この島には目の色が人と異なる一族がいて、それは例えば珊瑚や帆次だが、文の目はずっと変わらない黒色だ。

 ふと、この場所よりもずっと向

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「人魚隠しし灯篭流し」第四話

「人魚隠しし灯篭流し」第四話

【第一話はこちら】

 庭の石畳の上を歩いて部屋に戻ろうとしていた時、何かがぶつかる音が聞こえた。文は下駄を脱いで廊下に上がり、こっそりと音のした部屋の近くに寄る。

「人間の子を匿いたいだぁ? ふざけるんじゃないよ!」

 次に聞こえてきたのは金切り声だった。襖の間から中を覗くと、黒い着物姿の年配の女性と珊瑚がいた。彼女は珊瑚と同じく赤い目をしている。
 文はこの屋敷では珊瑚と鱗生病の老婆しか見

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「人魚隠しし灯篭流し」第三話

「人魚隠しし灯篭流し」第三話

【第一話はこちら】

 しばらく橋の向こうを眺めていた千代子は、いつの間にか随分遠くまで来てしまっていたことに気付き、袋を持ち直して早足で市場まで戻った。
 市場には既に珊瑚が戻ってきており、千代子の姿を視界に捉えるなり心配そうに駆け寄ってきた。

「貴女、どこへ行っていたの?」
「ごめん、もう少し遅くなると思っていたから、川の方を歩いていたの。この島は水が綺麗だね」
「なんだ……橋の向こうに行っ

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「人魚隠しし灯篭流し」第二話

「人魚隠しし灯篭流し」第二話

【第一話はこちら】

「……じょうぶ……でしょうか……違うのに……」
「……おそらく……決まるので……形は関係ありません……」
「よかった…………わたくしの血では駄目かと……」

 人の話し声がする。
 う、と短く呻き、目を開く。見知らぬ天井がそこにある。
 呆然とする千代子を覗き込んだのは、艷やかな長い黒髪を一つに纏めた、紅の着物を着た少女だった。赤っぽい、異人のような変わった色の瞳と桃色の口紅

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「人魚隠しし灯篭流し」第一話

「人魚隠しし灯篭流し」第一話

 【序章 ある老婆の話】

 そこの若い衆。見ぃへん顔やね。どこから来はったん。

 東京? 新聞記者?……ああ、あの島か。あの島に行くんは、やめといた方がええ。そもそも行く手段がないしな。この距離を泳げるんやったら別やけど。ここから眺めとる分には近う見えるけど、実際行こうとしたらお船がいるで。
 それに、先の戦争では少しの間戦地になったみたいやけど、元々あそこは立ち入り禁止や。足を踏み入れると二

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第十二話(完)

「鬼棲む冥府の十の後宮」第十二話(完)

 ――……絞首台に立たされ、現世に向かったその時、とっくの昔に譲位した王に懸想していたのは我くらいのものだろう。

 ◆

 どこまでも続く、はんなりと花咲き春の訪れを告げる、桃の林。桃の花の名所として知られるこの場所に、私は何故か毎年足を運んでいた。
 向こうに見える高層ビル群を彩る、雅な桃の木。仕事帰りに寄るにはちょうどいい立地だ。
 暖かい日も多くなってきたとはいえ、まだ空気の冷たいこの時期

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第十一話

「鬼棲む冥府の十の後宮」第十一話

 それは、一兆九千億年以上も前のこと。
 まだ前王が健在だった時代に、庭に桃の木を植えようという話になった。長子は彼のことを父のように慕っていた。子供のように懐き、下手をしたら実父よりも触れ合っているのではないかと思える程だった。
 長子と、長子の両親と、帝哀と、帝哀の両親。六人で計画を立て、後に長子が住むであろう宮殿の横の御花園を、桃の園にしようという話になった。
 幼き日の淡い思い出。長子は侍

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第十話

「鬼棲む冥府の十の後宮」第十話

「あらあらあらぁ、奴隷の下に付いている、可哀想な方々じゃない」

 長子皇后の侍女たちは、口元を隠しながら一斉に笑い合う。それは明らかに嘲笑だった。

「天愛皇后様はもう奴隷ではないわ。生まれがどうであれ、あの方の素晴らしさが分からないなんて、人を見る目がないこと」
「……こちらが節穴だと言いたいの?」

 長子皇后の侍女の一人が、天愛皇后の侍女の言葉にぴくりと眉を寄せた。その顔からは一瞬にして笑

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第九話

「鬼棲む冥府の十の後宮」第九話

 ■

 紅花が去った後、飛龍が帝哀を見て言った。

「意外だったよ。随分紅花に入れ込んでるんだね?」

 口元は笑っているがその目は冷たく、面白く思っていないことが感じ取れる。

「かの閻魔王が、何の後ろ盾も教養もない少女を気に入るなんて非合理的なことをするとは思わなかったな」
「お前も身分の低い女を正妻に迎えただろう」
「人間は嫌いなんじゃなかったの?」
「あいつは他の人間とは違う。歪だが真っ

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第八話

「鬼棲む冥府の十の後宮」第八話

 後日、予想通り天愛皇后から戻ってくるようにとの知らせが来た。
 少しの間だったが共に仕事をした庭師のおじさん達は、紅花を「元気でなー!」と明るく見送ってくれた。紅花のような即席庭師を、技術面でも劣るだろうに歓迎してくれた彼らには感謝しかない。
 宋帝王の区域に戻るための軒車は飛龍が用意してくれた。天愛皇后に迎えに行くよう命じられたらしい。相変わらず便利な道具として使われているようだ。惚れた方の負

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第七話

「鬼棲む冥府の十の後宮」第七話

 帝哀は紅花から視線を外し、部屋の隅の引き出しから小さな木の容器を取り出した。容器の中に入っていたのは、すり潰したような黒い粉だ。

「俺がいつも飲んでいる薬だ。痛みが和らぐ。最初はかなり苦いが、湯で溶かすと呑みやすい。ここに置いておく」

 そう言って部屋から出ていこうとする帝哀を慌てて呼び止めた。

「一人じゃ飲めません」
「は?」
「腕も痛くて手を動かせません。帝哀様に呑ませてほしいです」

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「鬼棲む冥府の十の後宮」第六話

「鬼棲む冥府の十の後宮」第六話

 ■

 紅花が一人前の庭師となるまで、そう時間はかからなかった。最後の方は意地だった。庭師に認められるよう、夜も寝ずに御花園の手入れをした。花たちには『必死ネ』『くすくす』とからかわれた。
 庭師からこれなら送ってもいいと許可が出ると、天愛皇后はすぐに紅花を閻魔王の区域に送り出した。天愛皇后から送られた庭師だと伝えると、鬼の形相をした門番も素直に門を開けてくれた。

 真っ先に向かったのはあの桃

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