MTT/サテライト等でのコール過多な相手に対するAoF戦略とCritical Call Frequency (CCF)


はじめに

Bubble Factorの影響の大きい状況でのAoF戦略は、一般にpusher側はかなり広く、caller側はかなり狭く入れるのが均衡解となる。特に、サテライト等ではしばしばAny Twoでのpushが均衡解となり、それに対して数%程度でしかコールできない状況が頻繁に発生しうる。しかしながら、実際には均衡よりも広くコールされてしまうことが多々ある。
このような相手に対して、こちらのEVを最大化するにはどのような戦略を取るのがよいだろうか?特に、相手に合わせてこちらはオールイン頻度を下げるべきだろうか?この問いに対する一般的な答えを出すのは困難であると考えられるが、本記事では簡略化した上で1つの目安を示す。

面倒くさい計算部分

簡単のためにBvBのAoFを考える。SBのpush頻度をp、BBのcall頻度をqとし、SBがfoldした時のSBのprize EVをF、SBがpushしBBがfoldした時のSBのprize EVをS、SBとBBが衝突した時のSB勝率をF(p,q)、勝った時のSB prize EVをW、負けた時のSB prize EVをLとする。
F(p,q)は本来p,qのみからは定まらず、具体的なレンジから定まるものであるが、簡略化のために無視する。またチョップも考えないものとする。

qを固定し、SBのEV E(p)を計算すると
E(p) = (1 - p)F + p((1 - q)S + q(F(p,q)W + (1 - F(p,q))L))
となる。E(p)を微分可能と仮定してこれを微分すると
E'(p) = S - F + q(L - S) + qF(p,q)(W - L) + ∂F/∂p(~)
となり、最後の項はNLHEの場合十分小さいのでゼロとすると
E'(p) = S - F + q(L - S) + qF(p,q)(W - L)

同様に、S_B等をBB prize EVとして、pを固定したときのBBのEVの微分はE'_B(q) = p(W_B - F_B - F(p,q)(W_B - L_B))

p_0, q_0を均衡解の頻度とする。0 < q_0 < 1とする。
p = p_0のときE'_B(q_0) = 0であるからF(p_0, q_0) = (W_B-F_B)/(W_B-L_B)であり、SB AIに対してBBの受けるBubble FactorをBFとするとこれは1/(1+BF)に等しい。従って、再びF(p,q_0)とF(p_0,q_0)はほとんど等しいことから
E'(p) = S - F + q(L - S) + q(W - L) / (1 + BF)
一般にS-Fは正の値、L-S+(W-L)/(1+BF)は負の値となるため、E'(p) = 0となるqの値をq_cとすると、

  • q > q_cのとき、SBはオールイン頻度を下げた方がEVが高くなる見込みがある

  • q < q_cのときはオールイン頻度を上げたい

ことがわかる。
q_cを具体的に計算すると、

q_c = (F - S) / (L - S + (W - L)/(1 + BF))

となる。

具体例

前節の結論から、相手のコール頻度が概ね

q_c = (F - S) / (L - S + (W - L)/(1 + BF))

を超えているかどうかでこちらがオールイン頻度を下げるべきかが変わるだろうということが分かる。算出仮定でだいぶ雑な近似をしているため、どの程度参考になるか具体的な状況で1つ計算してみよう。

3人通過サテライトで残り5人全員スタック12BBのとき、均衡上はSBオールイン頻度100%、BBコール頻度9.8%である。また、このときq_c = 16.2%となる。

BBコール頻度を均衡からずらしてそれぞれ12.7%(A6o+/A2s+/JJ+)、14.3%(ATo+/A5s+/KJo+/K9s+/QTs+/JTs/66+)、14.5%(A6o+/A5s+/55+)、16.0%(ATo+/A5s+/KTo+/K9s+/Q9s+/JTs/55+)とし、SBオールイン頻度をそれぞれ100%、90%、70%、50%(レンジ省略)としたときのSBのEV(サテライト通過率期待値)を計算すると以下のようになる。BB側の12.7%と14.5%のレンジは極端にAに寄っているが、14.3%と16.0%のレンジはそうではないようにすることで、BB側の具体的なレンジ構成の影響の簡単な検証も兼ねている。

    12.7%  14.3%  14.5%  16.0%
100%   59.3%  58.6%  58.6%  58.1%
90%  59.2%  58.6%  58.6%  58.2%
70%  59.1%  58.7%  58.7%  58.4%
50%  59.0%  58.8%  58.8%  58.6%

表のとおり、q = 14%付近を境界として、q < 14%のときはオールイン頻度100%のままの方が、q > 14%のときはオールイン頻度を下げた方がEVが高くなっている。q_cは実際の境界値と10%程度異なるものの、目安程度にはなっており、実際に相手のコール頻度が概ねq_cを超えているかどうかで戦略が変化することがわかる。
※追記:たぶんq_c=(F-S)/(L-S+(W-L)/(1 + BF) - 0.08(W - S))とした方が(この場合q_c = 13.1%)精度がよくなると思います。

筆者の知る限りではこの値に名前は付いていないため、適当にCritical Call Frequency (CCF)と名付けておくことにする。
サテライトなど、SB側が均衡上ではAny Two Pushとなる状況でこれが役に立つことがあるかもしれない。特に、Bubble Factorが極めて大きくて負けたときのEVが0になるとき(バブル等)ではq_cは近似的に
q_c = 1 - F / S
となるため、FやSの何かしらうまい概算方法があれば実戦でも適用できるかもしれない。

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