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台湾漫画〈日本語版〉リスト2022

2022年は輸入元年!

2022年に日本で翻訳・出版された台湾漫画をリストアップしました。

22年は数多くの台湾漫画が日本語訳され、輸入元年とも言うべき年でした。バラエティに富む台湾漫画を、一緒に追いかけませんか?

注)性的表現が多い一部のBL・成人漫画レーベルは、当文章が未成年にも読まれる可能性があることから除外しております。
23年版リストはこちら(新作が追加され次第更新予定)


『用九商店』

原題:用九柑仔店
著者:阮光民(ルアン・グァンミン)/翻訳:沢井メグ
トゥーヴァージンズ発行/路草コミックス(全5巻)
舞台は台湾の田舎町。昔ながらの雑貨店を祖父から受け継ぐ青年と、近所の顔馴染みたちの物語。迫る開発の中で、変わっていくものと変わらない人の心をじっくりと見つめてゆく全五巻。そのあたたかさに、ずっと浸っていたくなる。

『DAY OFF』

著者:毎日青菜/翻訳:沢井メグ
トゥーヴァージンズ発行/路草コミックス(全1巻)
台北を舞台にしたオフィスBL。エロス成分は薄め。堅物部長に懸命についてゆくワンコ部下。初々しく愛らしい二人は、少し厳しい部長側の人間関係にも真摯に向き合う。さらっと読めつつときめきが大きい。

『T子の一発旅行』

原題:T子%%走
著者:穀子/翻訳:ハネコ(哈捏口推特翻譯)
祥伝社発行/フィールコミックス(1巻まで刊行)
原題の%%は「パンパン」といった感じらしい。日本の男とヤリまくるために来日した台湾の肉食系女子T子は、次々にハイスペックイケメンを捕まえるが……。あけすけで強欲な女子から見た日本とは?爆笑を誘う強烈なスラングの翻訳力にも注目!

『緑の歌-収集群風-』

著者:高妍
KADOKAWA発行/ビームコミックス(上下巻)
村上春樹、ゆらゆら帝国、岩井俊二、そして細野晴臣……日本のアーティストの名前が頻繁に出てくる本作は、大学生の女子の鬱屈と、それを救うバンドマンとの恋を繊細に描く。触れると痛みが走るような感性を、超高精細な絵柄で綿密に描写する。台北のサブカルスポットが描かれているのも必見。

『台湾の少年』

原題:來自清水的孩子
著者:游 珮芸(原作)、周 見信(漫画)/翻訳:倉本 知明
岩波書店発行(全4巻)
原題は「清水から来た少年」。清水は現在の台中市清水区。1930年代にこの地に生まれた台湾児童出版の偉人、蔡焜霖(さいこんりん)さんの伝記として描かれた本作は、日本統治時代、国民党時代を経て現在に至る台湾の歴史に翻弄された、優しい台湾人の苦難の物語。二色カラーのバンドデシネスタイルにも注目。

『綺譚花物語』

著者:楊双子(原作)、星期一回収日(漫画)/翻訳:黒木夏兒
サウザンブックス社発行/サウザンコミックス(全1巻)
二人の女子の関係に幽霊や怪異が関わる「怪異×歴史百合」という、日本にはあまりないジャンル。日本統治時代の台中の短編三点+現代台中の短編という構成。切ない物語が続く最後に「同性婚が法制化された」現代の物語があるということに大きな意味がある。

『蘭人異聞録~濵田彌兵衛事件~』

著者:KINONO/翻訳:黒木夏兒
PICK UP PRESS発行(1巻まで刊行)
鄭成功以前の台湾史として伝わる数少ない事件、江戸時代初期の「浜田弥兵衛事件(タイオワン事件)」とその前後の物語。日本とオランダの貿易戦争に翻弄される台湾原住民を描く。全く異なる文化が入り混じる面白さ、虚実入り混じるエンターテインメント性の高い内容でとても楽しい。

これまでの台湾漫画と日本

22年以前にも日本では、台湾作家の作品が発表されていました。台湾旅行は人気の題材で、台湾漫画のエース・AKRUは『台湾ごはん何食べる? 台湾人・阿米と日本人・美菜の食楽記』を幻冬社から出版。いつもの流麗な絵柄と違う可愛らしい絵柄で「台湾の人が好む」台湾の食を描いています。また秋田書店『いきたいわん! 台湾旅行同好会』の著者・ハヤシも台湾の作家。

古くは1990年代に、鄭問が『東周英雄伝』などを講談社モーニングに連載・単行本化していましたが一方で、台湾で出版された作品を翻訳・輸入する動きは限定的でした。

そのような中で台湾作品の輸入を積極的に行っていたのは、電子書籍サイト「コミックカタパルト」。単行本は(電子書籍限定)各電子書籍ストアでも発売され、『龍泉侠と謎霧人―台湾布袋劇伝説―』(Hambuck)、『オールドマン』(常勝)、『北城百畫帖(カフェーヒャッガドウ)』(AKRU)などの傑作が出版されました。

21年のサウザンブックスによる『綺譚花物語』クラウドファンディングも、台湾漫画出版の機運を高めました。「歴史百合」旗手×「金漫奨(台湾の漫画賞)」常連のゴールデンコンビによる作品の発売決定は、海外漫画好きだけではなく日本の百合好き、または絵柄の美麗さから勘の鋭い漫画愛好家の耳目を集めました。

22年の台湾漫画〈輸入〉事情

そうして22年1月12日、『用九商店』は先陣を切って1・2巻を同時発売。実力派・阮光民の味わいのある筆致で、素晴らしいスタートダッシュを見せました。台湾漫画、面白いのではないか……?

……と期待して台湾漫画を探し始めた方は、肩透かしを食らったかもしれません。実は先に紹介した「コミックカタパルト」が1月13日……『用九商店』発売の翌日に、サイトを休止。同時に各電子書籍ストアのコミックカタパルト配信作品が発売停止となり、多くの良質な台湾作品が入手できなくなってしまいました。

しかしその後も、間を置かずに台湾漫画の出版は続きます。

『用九商店』『DAY OFF』を出版した路草コミックス(トゥーヴァージンズ)は感度の高い作品を産むレーベルとして、漫画好きに知られる存在。クラウドファンディングによる海外漫画出版を行うサウザンコミックス(サウザンブックス)、出版を開始したばかりのPICK UP PRESSなど、新勢力の参戦も22年の特徴。FEEL YOUNGの祥伝社から『T子の一発旅行』、老舗の岩波書店から『台湾の少年』と、独自のチョイスがなされているのも面白いです。

22年の台湾漫画〈連載〉事情

連載作としては『緑の歌-収集群風-』が完全オリジナルとしてコミックビームで連載後、単行本を台日同時発売。またKADOKAWAは台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)と共同で #台湾コミックはじめました を開始。Comic Walkerで、

『機械の国のアリス』(Hambuck)
『殤否 僕らの世界のつくりかた』(Gene)
『猫妖傳』(艾莉柚)
『ヘレナとオオカミさん』(布里斯)

の四作品が翻訳・連載されました。

さらにKADOKAWAはTAICCAと共同で #続きが気になる台湾漫画大賞 を開催。

『僕の声を聞いてほしい!!』(楊基政)
『第九号アリス』(原作/拆野拆替 漫画/胚謎-Pemy-)
『本屋に潜むライオン』(小島)
『3次元男子恋愛攻略』(漫画/灰野都 シナリオ/小杏桃)
『葬送のコンチェルト』(韋蘺若明)
『閻鉄花』(常勝)
『無駄な恋愛相談室』(穀子)
『世界の末日もあなたと一緒』(Gene)

上記八作品の第一話を日本語訳し、Comic WalkerとTaiwan Comic Cityで試読、投票によりComic Walkerでの連載を決定するイベントを行いました。投票の結果『僕の声を聞いてほしい!!』が大賞に。大賞作は「今冬連載開始」とされていましたが、結局23年8月の連載開始となりました。

筆者について:X(Twitter)では「あうしぃ@カワイイマンガ」の他に、台湾漫画の話をするための「あうしぃ@台湾漫画(@auctwcomic)」というアカウントも持っています。以前はそちらに、台湾漫画の日本出版情報を一枚の画像にまとめて紹介していましたが、書影を借りていた版元ドットコムで書影の使用を不可とする出版社が大幅に増え、その活動ができなくなってしまったことから、note+マンガ情報サービス「マンバ」を使用して情報をまとめることにしました。

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