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白昼夢~心の服を脱ぐ~

あかりちゃんは生意気だ。
仕事で何かにつけて食ってかかってくる。的はずれな時も無いではないが、でも大体が大人が無くした大切な何かを気付かされることが多く反論しようとしても、その反論が自分が汚い大人だということを突きつけられて、つい「うっせえ」と言いたくなる。
でも好奇心旺盛で、時々目を輝かせ「それやってみたいな」と純真な目を向けて嬉しそうに言ってくる時はとても可愛い。

彼女には隠し事がある。僕は人よりも繊細で敏感だから気付いてしまった。ふとした瞬間にスカートからすらりと伸びた脚の皮膚の下に義足が隠されていることを。

僕はあかりちゃんと同じ会社で働いている。おじさんなので一応管理職的なポジションだが、偉くもないし、貫禄はもっとない。

時々、僕は女の子に全部任せニヤニヤして様子を眺めてることがある。トラブルになりかけそうなギリギリまで助けない。意地悪だけどケツは持つし、失敗しても怒らない。管理職なんてつまるところ、会社に貰った給料の分だけキツく怒られる、それだけの役割。

久しぶりにあかりちゃんが仕事をしている事務所を訪れた。僕が新しい仕事をしていると、あかりちゃんがキラキラした目で「それやってみたい」と寄ってきた。
「いいんじゃない?やってみなよ」と僕も返す。飽き性だが逆に言えば新しもの好きな女の子。新しいおもちゃを与えられて楽しそうに戯れている彼女の姿を見るのが僕は好きだ。

時々、あかりちゃんはオタクで僕の知らないことを聞いてきてはマウントしてくる。

「ローゼンバーグ・ナンテオランの書いた本知ってる?」

僕が知らないと分かると滔々と語り始める。直ぐにでもググりたくてウズウズして我慢できなくなった僕にとびっきりの笑顔を向けて、彼女はゆっくりと作者名を一音一音区切って言った。

「ローゼンバーグ、なんておらん」

だまされた!と気付いた時のしたり顔は生意気で、でも得意気で、可愛くてキラキラしていたから、怒るよりもつい見とれてしまった。

昼休みの終わり際、あかりちゃんが立ち上がったとき事務スカートの下の足が見えた。カバーを全部外して義足を剥き出しにしていた。隠していたものをさらけ出して生きていた。
しかも片足だけだと思っていたが両足だったことに気付いた時にはさすがに衝撃が強すぎた。

彼女は今、心にひた隠していたものを、剥き出しにして生きている。とても自由で伸びやか。でも人の心をキュッとしめつけ、一人一人がぼんやりと持つ人間としての心の有り様に鋭い刃を突きつけてくる。

心に着ていた重たい鎧のようなコートを脱ぎ捨てたあかりちゃんは、春の風のようにとても軽やかだった。

これは夢で出逢ったあかりちゃんの話。
また夢の中で逢えるのを願いながら布団に潜り込む。

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