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性癖迷子~ロリコン~

大学時代、現実逃避の果てに海外に身を置いていた時期がある。当時、日本人の海外指向が強かったこともあるが、それ以上に自分の居場所を見つることが出来ない、人と同質化することを受け入れ難い人達が逃げるように海外へ飛び出していった。そこで僕は彼と出逢う。

もし日本で彼と出逢っていたら、僕は決して友達はおろか、話しかけることもなかったであろう。金髪でひょろっとした長身。耳には数えきれない程の穴を空け、ジャラジャラと音が鳴るぐらい多くのピアスをはめていた。一番大きな穴になると指の数本は軽く入った。そして当時とても珍しかった舌ピアス。イギリスのエキセントリックなパンクバンドから飛び出してきたような風貌に相応しく、全身ヴィヴィアン・ウエストウッドを身に纏っていた。
でもそんな極端にパンキッシュな風貌は彼の本質を突いていない。彼の細い身体の中に、どこか得たいの知れない怖さを内包しているのが透けて見え、どろんとした眼が見つめる先がどこにあるのか全く分からなかった。

一方、僕は当時、セットアップのスーツにタイトなTシャツを合わせたり、70年代風のフレアパンツに花柄のシャツを合わせたり、はたまた蚤の市で買ったボロいフェイクファーのコートを着ていたりと、少しだけ変わったファッションをしていた。当時の自分は気付かなかったが、今思えばゲイ感がだだ漏れしていた。
ただ僕はとても平凡な髪型と平凡な顔をして生きていたから、纏っていた空気は彼よりも幾分まともだったと思う。でも見るひとが見れば、とっ散らかった感性は、とてもまともな人間とは言えなかったのかもしれない。それでも彼と違って僕は普段、方向性の全く定まらない狂おしい激情を心の底に終い込み、穏やかで平凡な仮面を被って世の中の端で生きていた。

決して交わることのない二人。だが海外で数少ない日本語を話せる人間。それに一時期、一般人から見れば狂った人間が沢山集まった場所で、僕は長く過ごしたこともあり、人への許容量が大きかったからであろう。気付くといつの間にか彼と話している自分がいた。話してみて直ぐ、彼の見た目の強烈な印象が薄らいだ。彼はとても頭の回転が早く、外見からは全く想像できないが、沢山の本を読んでいた。僕も本が好きだったから、彼とはとても会話が噛み合って面白かった。年は僕の方が上だったこと、彼の知らない本を沢山読んでいたことで、彼は僕にとても懐いた。

そうして少しづつ彼を知り始める。彼はとても異色の経歴を持っていた。高校はまともに行かず、家出して食うに困った先にホストで働いた。今のように華やかさで綺麗にコーティングされておらず、アングラでドス黒い欲望渦巻く世界。時々、昔を思い出し、心に凝りが生まれるのか、僕に語ることでその凝りを解そうとした。

彼と二人、寂れたバーで酒を飲んでいるとき、彼が語り始めた。

「オレね、男のチンポしゃぶって生きてたんですよ。別に男は全然好きじゃない。でも家出して金もなくて、どうしようもなく貧乏で、欲しいものも山ほどあって、だから男のチンポしゃぶりました。」

「そっか・・・」

僕はそれしか言葉が出てこなかった。リアルには全く想像できないけど、それでもやりきれないほど切ない気持ちになった。彼はまた独白を続ける。

「オレ、頭のネジがいっぱい飛んでるから、受け入れられたんですよね。でもやっぱり嫌だったな。だからといって女とするのもスゲエ辛かったっす。だって見るに耐えない醜い脂肪の塊の股にある、黴臭いマンコを延々と舐めるんです。嫌ですよ。でも金が無かったし、腹減ってたし、そうなったら人間なんでもできるんだなって、バリ臭いマンコ舐めてる自分を上から俯瞰して褪めた眼でずっと眺めてました。」

「ずっとホストを続けてたの?」

「しばらくやってたんすけど、親が家出したオレを探し出しちゃって、家に連れ戻されたんす。で、このまま日本にいたらヤバすぎるってことで海外に追い出された、そんな感じっす。」

彼は頭は良いがまだ英語が拙い。拙い英語で、日本よりも危険が多い国に閉じ込めれば彼の考えが変わるのだろうと親は考えたのだろうか。それとも単に彼をやっかい払いしたかったのだろうか。

「で、ずっとこの国にいるの?」

「いや、やっぱりちょっと勉強しようかなって考えてて、大学に行こうと思ってます。」

「日本で行くの?」

「いや、タイの大学に。安いから親が金出してくれそうなのもあるんすけど、今の彼女、タイ人なんで。」

彼はこの国に来てタイ人の彼女を作った。タイ人は小柄な子が多いが、その中でもかなり小柄で細身。しかも若い。彼も20そこそこだが、確か16、いや15歳だったか。

「ショートステイだから国に帰っちゃうもんね。追っかけるんだ?」

「まあ自分の理想からしてみたらちょっと年齢イッてるけど、見た目的に許容範囲だし、バチ気に入ってて。オレってロリコンでしょ? 歳食ってるヤツ、ダメなんですよ。なんか臭いしババアは無理なんで。」

「そうだったね。実際何歳ぐらいが好みなの?」

「若ければ若いほど良いに決まってるじゃないっすか。でもガキは無理だから理想は13歳ぐらいっすかね」

彼は極度のロリコンで好みの範囲が極端に狭かった。子供でない、でも大人でもない、成長途中の芽吹くか芽吹かないかギリギリの青さにしか欲情できなかった。14歳で同い年の子と付き合ってセックスした。そして高校に入り中学生をナンパしてセックスした。ホスト時代も中学生の子を沢山ナンパしてセックスしていた。でも彼も次第に大人になり始めている。ロリコンとして生きていくには難しくなり始める、微妙な年頃だ。

「オレ、この先ヤバいっすよね。だって今だったらまだ世の中的に受け入れられるけど、後10年したら犯罪者扱いだし。変態ってのは受け入れられても犯罪者扱いはやっぱイヤっす。」

「やっかいな性癖に生まれてきちゃったね。」

「ま、しょうがないっすよ。こればっかりは。あぁ、話してたらセックスしたくなってきた。」

思春期の頃、発情する対象が自分より年上の大人の女性だった僕には、中々理解し難い性癖だった。でも彼と出逢った頃から20年以上経過し、少しづつ彼のことを理解できるようになった。彼は大人に目覚めようとしている、まだ誰にも汚されていない青い清潔さが好きなのだと。
彼はボジョレー・ヌーボーだけが好きな人。それ以外の酒は酔えもしないし、そもそも身体が受け付けない。古酒が好きな人間もいれば、フレッシュな酒が好きな人間もいる。性癖なんて詰まるところ、それだけの違いしかないのかもしれない。

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