見出し画像

視点6_購買体験は「O2OからO2E」へ

この記事は、2018年末に室井淳司が宣伝会議より出版した「全ての企業はサービス業になる」の最終章で、書籍の内容を10の視点にまとめた内容を要約した記事になります。

2023年現在からすると5年前の記事ですが、当時から現在までに起きた変化を追うと、社会や消費の流れがどの方向に向かっているのか解りやすいと思いますので是非ご一読ください。

2023年視点からのコメントは後半に記載しています。


以下書籍本文の要約

online to offline、offline to onlineは、顧客が商品をどのようなチャネルで購入するのかという購買段階でのチャネル移動を表した言葉です。しかし、現在の購買体験のフローは、顧客がチャネルを順序よく移動していく購買行動から、よりシームレスにチャネルを行ったり来たりする体験へと変わりました。

さらにそのシームレスな購買体験は、すべての体験がonlineで完結することを前提とし、その中にいかにリアルに商品を確認する機会を設けるかという「online to experience」の視点が必要になっています。

書籍より


 商品を購入してもらうことを目的に顧客との関係をつくってきた時代は、すべてのチャネルが単独で機能することで成立していました。認知を獲得するためのチャネル、販売するチャネル、アフターサービスを提供するためのチャネル。これらのチャネルは独立してそれぞれ機能し、それぞれのチャネル毎に企業の組織はつくられ、それぞれの組織がそれぞれの評価制度のもとでバラバラに動き、場合によってはそれらが社内で競合することすらあったかもしれません。

しかし今はオムニチャネル化が進む中、すべてのチャネルが統合されたサービスを提供しなければなりません。これは、チャネル運営側の効率の理論以上に、顧客が求めるシームレスでストレスのないカスタマージャーニーを提供するためであり、購買の前後も含めて顧客との継続的な関係を維持していくための視点です。

ですから、オムニチャネルとは、online と offline を駆使して、認知から購買、行動、推奨に至るまでシームレスな体験を提供しなければなりません。

 3章で見てきたように、世界中の先進的な企業は、onlineでの購買体験の中に、リアルな商品体験を組み込んだ購買体験をデザインしています。

例えばアパレルであれば、認知段階でインスタグラム等のSNSに付けられたタグからeコマースへ誘引します。しかしeコマースでは商品がリアルに確認できないため、商品をリアルに確認できる販売機能を持たない場を持つか、顧客がリクエストする商品の実物を顧客に送るサービスを展開しています。

これら二つはいずれも、チャネルとして必要性がある訳ではなく、eコマースの購買体験だけでは提供できない購買体験の質を担保するためにとっている手段です。


また、自動車の販売プロセスを見ると、Alibabaがユニークなonline購買テストをしています。

自動車は現段階での購買プロセスにおいて、試乗が欠かせない商品になっています。Alibabaは、その試乗体験のオペレーションをonlineで完結させます。顧客はスマートフォンから試乗したい自動車を選択し、試乗予約を入れます。

Alibabaは特定の自動車メーカーの販売を行うディーラーではないので、様々なメーカーを取り扱うことができ、顧客からするとまとめて別々のブランドを試乗できるメリットもあります。

予約後、Alibabaの試乗ステーションに向かうと、顔認証で施設内に入り、キーボックスから試乗車両のカギをセルフで取り出し試乗することができます。もちろん試乗して気に入ったらそのまま購買へと進むことができます。

これはアパレルの購買体験でいう、商品を確認、試着するためだけの機能に特化した場を持つことと同じ役割を持っています。これにより顧客の購買体験はonlineでの購買体験同様に気軽な体験となり、自動車ディーラーでセールスマンのセールスを受ける煩わしさから解放されます。


同様に家具会社が提供する、居室内に商品を置いてインテリアコーディネートやサイズをチェックするためのARアプリや、一定期間の家具利用サービス、買取権利の付いた家具リースサービス等も、すべてonlineで購買を完結するために付加された、リアルに商品を確認するためのサービスです。

 商品をリアルに確認するためのテクノロジーが進化して、触覚、匂い、鮮度、企業との会話まですべての体験がonlineで自宅にいながら完結するようになると、もはやofflineでリアルに商品を確認するためのチャネルの役割は必要なくなるかもしれません。
 

書籍要約ここまで


2023年から見て

前提:このコラムでのO2Oは、あくまでも購買チャネルとしてのonline とofflineの解説をしています。

ショールーミングストアという業態が定着した様に、シームレスな購買体験は(テクノロジーによる進化進行中体験を除き)一定の成熟に達していると思います。

運営する企業やブランド側も、自社のブランド・商品を顧客が購入するために体験を必要とするのか、またそれは(ショールーミングストアや商品を自宅に送るなどのサービス)事業としてトータルでマネタイズできるのかも含めて、すでに一定期間のケーススタディを終えています。

この書籍を出版した後、私も幾つかのO2Oサービス開発を支援し、実装してきました。例えば日産自動車の販売チャネルのO2O化を実装した「HELLO NISSAN」をご紹介します。

自動車は一般的に購買前に「試乗」という体験を伴います。しかし、他社のユーザーが別ブランドの試乗を行うのは少しハードルが高いものです。

「HELLO NISSAN」では、営業活動を伴わないブランド体験を提供しています。接客するスタッフも「ブランドアンバサダー」という役職で営業活動は行いません。

また、試乗の申し込みもデジタルを利用してシームレスでリアルタイムな体験をデザインしました。一般的な試乗の申し込みは、ディーラーに日程の相談をして返事を待ち、双方に都合の良い日時を確認して申し込みを確定するという、コミュニケーションとタイムラグは発生していました。

しかし「HELLO NISSAN」では、WEBサイトで試乗車の空き時間の確認から申し込みまでシームレスでリアルタイムに行えます。

こういった気軽なブランド(試乗)体験のデザインはユーザーのニーズを捉え、当初神奈川の1店舗で行なった実験施策から、今では日本中のディーラーに取り組みが普及しています。
※HELLO NISSANに関しては後日単体の記事を書くつもりです。


この様に、この数年で様々な企業が様々な「購買前のブランド体験」を実験的に導入し、その効果も出揃っている様に思います。もちろん体験を通じて何を獲得するかという目的は企業によって様々かと思いますが、これから新しく物やサービスを売る時に、どの程度のコストをかけてどの様なプレブランド体験を提供するかを判断するのに十分なケースやメソッドが揃っているのではないかと思います。



この書籍は全ての視点や考察が視点10に繋がる構成になっています。視点10も是非ご一読ください。


僕のNoteでは、感想や質問などをお待ちしています。

頂いた感想や質問は、個人情報は伏せて公開していこうと思っています。業種や職種に限らず、様々な人の考え方を交えていくことで、思考が成熟していくと考えているからです。

全ての感想、質問に僕がお応えしますので、是非気軽にシェア、書き込み、DM等いただけると嬉しいです。

室井淳司