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「できるコト」と「やってはいけないコト」~「内定辞退率」問題を考える~

 日経電子版の記事【リクルート、焦りが裏目に 内定辞退率データ問題 マイナビと激しい競争】は、「内定辞退率」問題を深掘りした好記事だと思います。



 個々の企業の問題はさておき、一般論として、そもそも「内定辞退率」はどのように使われるのでしょうか?採用する企業の立場になって考えてみると――

「内定辞退率」の使われ方とは?

(1)是非とも採用したいが、辞退する可能性の高い人材を発見して、
  強力に勧誘する、または、有利な条件を提示するなどして勧誘する
  ための施策を検討
する。

(2)「内定辞退率」の高い人材には、自社の事を真剣に考えていない
  相性が悪い、などの可能性を理由に慎重に対応する。

(3)内定を出す出さないは別として、無駄になるかも知れないコストを
  考慮し
、「内定辞退率」の高い人材への積極的なアプローチは控える。
  
(4)「内定辞退率」を考慮して多めに内定を出す

(5)「内定辞退率」が低く、かつ、是非とも採用したい人材の確保を
  確実に
すべくフォローする。



 まだまだ、意外な、想像もつかないような用途があるのかも知れませんが、採用される学生の立場に立ってみると、意に沿わない執拗な勧誘を受けたり、一つでも確保したい内定が駄目になったりと、一般的に見て「内定辞退率」はデメリットが極めて大きいコトは間違いなさそうです。その意味では、就活生の同意の有無にかかわらず、倫理的なリスクを内包したサービスであるとも考えられます。

 もちろん、採用する側の企業が、独自に収集した個人情報に基づいて、個々人の内定辞退の可能性を予測するコトは当然です。しかし、一線を越えて、他社の持つ閲覧情報などを、当事者の了解なく利用する、つまり、就活生の同意なく企業が持つ就活生の個人情報と就職情報サイトの閲覧情報を結び付けて「内定辞退率」を予測するようなサービスは、明らかに個人情報保護に反して倫理的な問題を抱え込むことになりかねません。

 ここには、様々な問題がはらまれているように思われます――

▶「内定辞退率」予測の問題点

(1)就職情報サイトの閲覧情報を、閲覧者に著しく不利になる形で、
  閲覧者に明確な説明のないまま使用しても構わない、そのような
  サービスをデザインしても構わない、と考えてしまうとすれば、個人
  情報に関わる意識が極めて低い
と言わざるを得ない。

(2)採用企業が、「内定辞退率」予測を購入する際、その仕組み、特に
  就活生に十分な説明がなされているか、という点を把握していながら、
  あるいは、その点に思いを致すことなく購入するとすれば問題
である。
  後々問題になるかも知れない、という危機意識、リスク管理が欠如して
  いる。

(3)「内定辞退率」予測は、あくまで予測時点でのデータ、過去データに
   基づいた予測
であり、一方、就活生の意識・考えは時々刻々と変化
  していくはず。例えば、「内定辞退率」をはじき出した後の時点で、
  就活生のその会社に対する意識が変わり、強く就職を希望するように
  なったら、どう対処するのか?

(4)そもそも、「内定辞退率」予測にどの程度の精度があるのか?一個人
  が内定を辞退する確率など、相当広範囲のデータを収集しても、なか
  なか判別は付かないようにも思える……。正確な予測には、全てとは
  いかずとも、数多くの与件を織り込まなくてはならないはずで、
  しかも、個人的な決断に関わる与件は文字通り個人的で多岐にわたる
  と考えられる


(5)「内定辞退率」予測のようなセンシティブな課題にあっては、
  ホワイトボックスであるかどうかが問題となる。根拠のない、または
  根拠のはっきりしない予測に基づいて、センシティブな問題に結論を
  出すとすれば不適切に。



 テクノロジーがどんどん進化し「できるコト」がどんどん増えていった時、その「できるコト」が倫理的な問題をはらんでいないか、「やってはいけないコト」なのではないか、AIなどを使ったITの世界では、個人情報のあり方にセンシティブな姿勢が求められているはずです。①そのようなサービスをデザインしていいのか、②そのようなサービスを使っていいのか、そして、そもそも、③そのようなサービスの信頼性・精度はどれほどのものなのか、慎重な上にも慎重になる事が必要なようです。

 何故なら、この問題には、人間の性質に関わる2つの根本的なバイアスがかかわっていると考えられるからです――

(1)新たに「できるコト」が増えると、人間には、
  そのリスクを軽視して、実行してみたくなる
  バイアスがかかる。
(2)新たなデータが提供されると、人間には、その
  データの精度を勘案しながらも、どうしても、
  そのデータから影響されてしまうようなバイアス
  がかかる(特に、もっともらしく見える化され、
  数値化されているようなケース)。

 


#COMEMO #NIKKEI

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