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異文化におもわず共感してしまう瞬間

故郷の味が恋しい

それは、古今東西、老若男女、国籍問わずみな同じ

ペナンの食堂で、ホッケンミー(福建麺)をひとくちすすったら、そんな思いが頭をかけめぐった

知らない遠い昔の異国の人たちが、急に身近な存在になった瞬間だった

15世紀後半から数世紀にわたり、マレーシアに移住してきた中華系移民(ペラナカン)の歴史に触れたとき、なぜか他人事とはおもえなかったのだ

ペラナカン文化との出会い

クアラルンプールで働きはじめて、1年が経った頃、マラッカへ出張する機会があった

せっかくなので、週末に妻とマラッカで過ごすことにした。マラッカは、クアラルンプールから車で2時間半の小さな港町である

1500年代、ポルトガル領だったマラッカは、ヨーロッパとアジアの文化が交差する交易の街だった。今でも、ポルトガルに影響を受けたであろう建築物が点在している

マラッカの街並み

そして、マラッカでもうひとつ忘れてはならないのが、マレー文化と華僑文化が融合して発展してきたペラナカン文化だ

海峡植民地時代のマレーシア、特に、マラッカやペナン、オランダ統治下のジャワ島などに住んでいた中国本土からやってきた人たちの文化風習と土着のそれが混ざり合い生まれたミックスカルチャーだ

極彩色のタイルや食器、ショップハウスのデザインがなんとも美しく、目を惹くものばかりだ

ペラナカンのタイル
ペラナカンのレンゲ
ペラナカン建築の街並み
ペラナカン建築の街並み

ある日、マラッカのペラナカン博物館で、彼らの移民としての生い立ち、現地文化に融合してゆく様を知った

歴史には、興味のないわたしが、なぜか、その話しだけは、食い入るように聞いてしまった

過酷な環境下での移住に対する驚きだけでなく、現地の風習を受け入れて、発展してゆく彼らにシンパシーを感じたのだ

「なんだろう、この妙な親近感」

時代も、環境も、大きく異なるものの、わたしも、ペラナカンとおなじく、東南アジアではたらく移民の1人である

中国本土からやってきて、とまどいながらも、現地と融合していったの彼らの人生に、自分を重ねてしまった

それが、私とペラナカンの出会いであった

ホッケンミーへの共感

つい先日、ペラナカンのもう一つの拠点であるペナンを訪れた

ホテルの近くにあるホーカーズで夕食をとった時にの出来事である

妻とわたしは、それぞれ好きなものを選んで、テーブルにならべた

妻は、ホッケンミーと水餃子、わたしは、牡蠣のお好み焼きみたいなものを注文した

ホッケンミーは、福建省から移住してきた方々によってもちこまれた麺料理

シンガポールやインドネシアのメダン、タイのプーケットでも、その土地の食材と融合したホッケンミーがある

ペナンのホッケンミーは、えびダシでとったスープに、マレー料理には欠かせないサンバル(唐辛子ペースト)をたっぷり入れる

左端:ホッケンミー。サンバルをまぜる

アツアツの中華とマレーがミックスされた濃厚なスープを味わう度に、ホッケンミーが歩んできたであろう物語を妄想してみる

「市場かどこかで、誰かがエビをみつけてきて、福建風のスープをつくったのがはじまりかもしれない。それに、中華麺も手にはいりにくかっただろうから、簡単に手に入るビーフンで代用したのだろうな

それから、福建風のあっさりスープでは、物足りなくて、地元の人がサンバルをたまたまいれたらうまかったので、今に引き継がれているのかもしれない」

などと、妄想しているとあることに気がついた。

目の前にある食材で故郷の味を再現したいという気持ちは、今も昔もそうかわらないのかもしれない、と

そういや、東南アジアに住みはじめてから、私もおなじようなことを幾度となく体験した

バンコクに住んでいた頃、おでんがどうしてもたべたくなった時があった。しかし、当時は、ちくわも、はんぺんもなかなか手に入らなかった

そこで、思いついたのが近所の麺屋でだしている魚やイカ、エビのつみれだった。つみれがどことなくちくわの味に似ていたからだ

麺屋でつみれをおすそわけしてもらい、おでんをつくった。そこに、唐辛子を少し入れてちょっぴりタイ風味してみた。タイと日本の味がまざったおでんは、おいしかった

福建の人たちも、故郷の味が恋しくなり、目の前にある食材でホッケンミーを開発したのかもしれない。それが時を経て、地元の食文化とまざりあってゆく

彼らもきっと、おでんが食べたい私と同じ気持ちだったのだろうな、と

異文化との距離が縮まる瞬間

異国を旅していると、口にしたことのない、全く異なる味覚にでくわす

おいしいと思うものもあれば、苦手と感じるものある

しかし、表面的な見た目や味だけでなく、もう一歩踏み込んで、想像してみれると、見える世界は変わってゆく

そこには、自分の原体験と重なる共通点があったりする

食事に限らず、ファッションや音楽、現地の人たちとのコミュニケーションの中にも、自分との共通点を見出すことができる

そんな時、異文化との距離がぐっと縮まってゆく。そして、それこそが旅の醍醐味のひとつでもあると、私は思う

目の前にひろがるアンダマン海をながめながら、中国からやってこられた方々に、気持ちを重ねる

「遠く福建省からこられた先輩たちも、異国の地で工夫をし、がんばってこられたのだろう。だから、自分がんばろ」

束の間のペナンの旅ではあったが、また、マレーシアとの距離がすこし縮まった気がする

アンダマン海。海は遠く中国大陸ともつながっている

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