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問われているのは役職ではなく存在理由。パーパスの時代における究極の自己紹介とは?

3月14日、15日に都内で開催されたカンファレンス「Sansan Innovation Project 2019」から今回は「自己紹介のイノベーション」と題されたセッションの内容を前後編でお届けする。

自己紹介になぜイノベーションが必要なのか。誰もが当たり前に行う自己紹介という行為だが、「実はそんなに簡単なものではない」と登壇者の一人・横石崇は言う。

そもそも人はなぜ自己紹介をするのか。古今東西さまざまな自己紹介の実例と文献に当たったという横石が出した結論は「自分が平凡だから」。非凡な人はわざわざ自分を紹介しなくてもすでに十分に知られている。だから自己紹介をする必要があるのは凡人だけ。だがここに一つのジレンマが生じる。平凡な自分を紹介したところで何にもならないという矛盾だ。

それでも凡人たる私たちは自己紹介をしなければならない。では凡人にとっての自己紹介とはどうあるべきか。これがこのセッションのテーマである。

横石崇
&Co.,Ltd.代表取締役/Tokyo Work Design Week オーガナイザー 
国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」代表。テレビ局・雑誌社・ポータルサイトをはじめとするメディアサービス開発を手がけるほか、企業の組織開発や人材育成など、さまざまな場の編集に携わる。「六本木未来大学」アフタークラス講師を務めるなど、のべ500以上の講演やセミナーを実施。鎌倉にオープンしたコレクティブオフィス「北条SANCI」のプロデュースおよび支配人。編著に「これからの僕らの働き方〜次世代のスタンダードを創る10人に聞く〜」(早川書房)がある。

プロフィットからパーパスへの価値創造のシフト

いま、世の中では大きな「価値創造のシフト」が起きていると横石は言う。これまではプロフィット(=便益)こそが第一に求められていた。だが、最近はプロフィット以上に「パーパスを大事にしていこう」ということが言われるようになってきている。

パーパスは、日本語に訳せば目的や存在意義ということになる。ハーバードビジネスレビューの最新号の特集テーマもこのパーパスだ。「会社が何のために存在するのか」とか「あなたはなぜその会社で働くのか」といったことがしきりに問われるようになってきている。それだけで雑誌の特集が組まれるほどになってきている。

これまでも「企業にはビジョンやミッション、あるいはバリューが大切だ」ということは言われてきたが、パーパスは、それらすべてを定義するための根幹となる概念であるとされている。

パーパス(目的、存在意義)に関しては古今東西のさまざまな偉人が言葉を残してもいる。

アインシュタインは「『手段』はすべてそろっているが、『目的』は混乱している、というのが現代の特徴だ」と言っている。あるいはフェイスブックの創設者マーク・ザッカーバーグはハーバード大の卒業生に向けて「(これからの時代において)大切な課題は、『誰もが人生の中で、自らの存在意義を持てる世界』を創り出すことなのです。今後は、さまざまな組織と社会を『パーパスの実現の場』にする必要があります」とスピーチした。

このように「価値創造のシフト」は進んでいる。いまやパーパスなしには企業も個人も立ちゆかなくなってきている。であるならば、自己紹介のあり方もまた変わらなければならない。

これまでの自己紹介は「自分が相手に対してどのようなプロフィットをもたらすことができる人間なのか」が問われていた。しかしこれからは違う。「自分のパーパス、つまりは存在意義や人生の目的をいかに相手に伝えられるかが求められている」と横石は言う。

たった5分で人生の目的を知る方法

相手にパーパスを伝えるためには、そもそもパーパスを持っており、またそのことに自覚的でなければ始まらない。では、自分のパーパスはどうやって見つければいいのか。

まさにそのことをテーマにした動画がある。TED Malibuにおける映画プロデューサー、アダム・ライプツィヒによるスピーチ「How to know your life purpose in 5 minutes」がそれだ。

詳しくは動画を見てほしいが、このスピーチの中でライプツィヒは、5つの簡単な質問に答えるだけで、誰もが自分の人生の目的を知ることができると言っている。5つの質問とはすなわち、「自分は誰なのか」「何をするのか」「誰のためにするのか」「その相手は何が欲しいのか、必要なのか」「結果としてどんな変化を生んだか」である。

実は、後述する横石発案の「理想の自己紹介の型」は、この動画の内容が元になっている。上記のような質問を自分に対して行えば、それが自らのパーパスを発見する手助けになるし、そのやりとりを他者との間で行うことができれば、それがすなわち、自らのパーパスを相手に伝える理想的な自己紹介にもなる、というわけだ。

「What do you do?」と問われてどう答えるか

しかし、多くの人にとって自己紹介とは、他人から「あなたは何者か?」と問われて初めて行うものであるから、独りよがりにただ語るだけでは不十分だ。どうすれば自然な形で自らのパーパスを伝えるような自己紹介ができるだろうか。

初対面の人同士の会話はどのようにして始まるか。かのピーター・ドラッカーは誰かと新たに出会えばすぐに「What is your business?」と尋ねるのが常だったという。より一般的には「What do you do?」から始まるコミュニケーションが多いのではないか。

これらの質問は日本語では一般に「あなたは何の仕事をしているのか?」と訳される。だから例えば「I am an English teacher(私は英語教師です)」などと職業や所属、役割を名詞で答えるのが自然に思える。だが、こうした答え方では掛け合いはここで終わってしまう。「自らのパーパスを伝える」という理想の自己紹介の最終目的地にたどり着かない。

そもそもドラッカーが「What is your business?」という質問で尋ねているのも、単にその人の職業を聞いているわけではない。彼が意図しているのは「あなたの目的は何なのか」「あなたは何のために生きているのか」。すなわちパーパスを尋ねているのである。

では、改めて「What do you do?」という最初の質問に対してはどう答えるのがいいのか。そもそも動詞で尋ねられているのだから、回答も動詞で行われるのでなければならないと横石は言う。「I am an English teacher」ではなく「I teach English」のように。

だが、先ほどのライプツィヒの5つの質問に立ち返るなら、これだけではまだ理想の回答とは言えない。この回答には「誰のためにするのか」という視点が欠けている。「働く」とはすべからく「誰かの何かを助けるよう働きかける行為である」と横石は言う。そう考えれば、ここで用いるべき動詞は「teach」ではなく「help」。「I teach English」ではなく「I help children learn English」のようになるだろうということだ。

What→How→Whyに対してHelp→Do→Believeで答えよ

「What do you do?」という最初の質問に対してこのように答えると、相手が次にする質問は自然と「How?(=どうやって?)」になるはずだ。ここでの理想的な回答は「I do that 〜」。すると続けて「Why?(=なんでそんなことを?)」と聞かれるはず。これに対して今度は「I believe that 〜」と答える。この回答がすなわち自分のパーパスになっている。

例えばアップルという企業を例にとれば、「What?」という最初の質問に対しては「私たちは、50億人に向けて、人類史上もっとも愛されるコンピュータを作っています」。すると続けて「How?」と尋ねられるはずで、それに対する回答は「プロダクトを美しくデザインし、操作をシンプルに、取り扱いを簡単にすることで、革新に挑戦しています」。

そうして最後に尋ねられるのが「Why?」だ。ここまでくれば満を辞して「他人と違う発想をすることが、世界を変えて、人生を素晴らしくしてくれるからです」のように自分たちの信条、すなわち、かの有名な「Think Different」の思想を伝えることができる。そこから「じゃあ1台触ってみませんか?」という話になる。

つまり、What→How→Whyの順で投げかけられる質問に対し、Help→Do→Believeという動詞で答えることで、自然な形で自らのパーパスを相手に伝えることができる。これが横石の考える理想の掛け合い、理想の自己紹介の型というわけだ。

イギリスのコンサルタント、サイモン・シネックは、多くの企業はWhat(例えば自社の製品のどこが優れているかなど)を伝えることに躍起でWhyを伝えないが、人の心を動かし、意思決定を促すのに本来一番重要なのはWhyであり、HowやWhatはそれに付随して決まるものに過ぎないと言っている。「The Golden Circle」と呼ばれるこの理論を耳にしたことのある人は多いのではないか。

だが、こと自己紹介においてはいきなりWhyから始まるというシチュエーションは考えにくい。What→How→Whyという質問順で最終的にパーパスにたどり着くよう、Help→Do→Believeという動詞を使った回答で誘導していく。これが「究極の自己紹介」ではないか、というのが横石によるプレゼンテーションである。

5月下旬には、このテーマについて書いた横石の新著刊行も予定されているという。

TEXT BY ATSUO SUZUKI
SLIDE IMAGES BY COURTESY OF TAKASHI YOKOISHI
EVENT PHOTOS BY ATSUSHI YAMAHIRA, TAKU YAGINUMA
※この記事は、Sansan株式会社のオウンドメディア「BNL」に2019年4月15日に掲載された筆者執筆記事をサイト閉鎖に伴い転載したものです

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