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「とりあえずブレスト」の前に。Think Differentは孤独を受け入れるところから

昨日公開した前編に続き、「Sansan Innovation Project 2019」内のセッション「Think Differentとは何か?」のレポートをお届けする。

前編で石川善樹は、歴史上もっとも偉大な日本人である松尾芭蕉から抽出した「日本的Think Different」のフレームワークを、①まずアップデートし、②その後アップグレードする──という2段階のモデルとして表現した。

しかし、フレームワークというからには、それを用いることで芭蕉のような一部の天才だけでなく、私たち一般人にもThink Differentができなければ嘘ということになる。

石川からバトンを受けたSansan DSOCの西田貴紀が挑んだのは、まさにこの問いだった。私たちはどうすればこのフレームワークを実践し、芭蕉のようにThink Differentできるのか。

西田貴紀
Sansan株式会社 DSOC R&D Group研究員 
一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。専門は計量経済学、労働経済学。在学中、非正規労働者の教育訓練に関するデータ解析に取り組む。ビジネスネットワークのデータを活用し、労働移動に関する研究などに従事。

「黒の衝撃」の衝撃

西田は無類のファッション好きという自身の趣向を活かしてこの問題に取り掛かる。ファッション業界におけるThink Differentの代表的な例といえば、日本発の世界的ブランド「コム デ ギャルソン」が挙げられるという。1982年のパリコレで同ブランドが発表した作品は業界を震撼させ、のちに「黒の衝撃」と呼ばれることになった。

「黒の衝撃」の何が衝撃だったのか。西田によれば、それまでのパリコレでは黒を使うことはタブーとされてきた。コム デ ギャルソンのデザイナー川久保玲はそのタブーを破って全面的に黒を使った。また、当時考えられていたエレガンスの基準からすればありえない、ほつれやかぎ裂きなどの「ボロルック」を初めて取り入れたことでも知られる。

そうしてファッションをまずはまったく新しいものへとアップデートし、その上で当時のエレガンスを考慮してデザインを整えた。その結果生まれたのが「黒の衝撃」だと西田は言う。つまり、石川の言う「①まずアップデートし、②その後アップグレードする」という2段階を川久保もまた踏んでいることになる。

独立心とクリエイティビティ

では、どうすればわれわれ一般人に「黒の衝撃」のようなイノベーションを起こすことができるだろうか。西田はこの問いを解くのに、まずは服そのものを見ることから始めた。

コム デ ギャルソンのいわゆるメッセージTシャツには「MY ENERGY comes from freedom and rebellious spirit」とある。日本語に訳せば「自由と反逆精神が私のエネルギー源」という意味だ。あるいは川久保自身のインタビューを読んでみると、「強い信念を持った人が好き」という言葉も残っている。西田はこうしたことから、「強い信念、独立心のようなものがThink Differentのために必要なマインドセットなのではないか」と考えた。

ジョンズ・ホプキンズ大学で行われた「独立心とクリエイティビティ」に関する研究に、それを裏付ける結果が出ているという。2つのグループに対して「地球外生命体の絵を描け」というタスクを課すことでクリエイティビティを測ったところ、「グループで作業するように」と指示されたグループAの人よりも、「あなたはグループから拒否されたから、一人で取り組むように」と指示されたグループBの人のほうが、クリエイティビティが高いという結果が出た。

この結果は私たちの直感に反するものと言えるのではないか。「アイデアを出せ」と言われたら、私たちはとりあえず「みんなで知恵を寄せ合って......」と考えがちだ。研究の結果が示すのはその逆。たった一人、なおかつグループから拒否までされて、強い信念を持ってやり抜いた人のほうがクリエイティブだというのだ。

脳の3つのモード

さて、このようにして何かのアイデアについて考える時、脳はどのように働いているのだろうか。

西田は考えるプロセスを「アイデアを生成する」「アイデアを選定する」「アイデアを評価する」の3つからなるとモデル化する。わかりやすく言えば、まずはなんでもいいからアイデアを100個くらい出す、というのが「生成」。それを分類したり共通点を持つもの同士をつなげたりして2、3個くらいにまで絞り込むのが「選定」。最終的に1つに決めるのが「評価」というイメージだ。

脳科学の研究によれば、「生成」「選定」「評価」のプロセスでは、それぞれ「Default Mode Network」「Salience Network」「Executive Network」と呼ばれる脳の異なる部位が活性化することがわかっているという。

凡人の脳はこの3つのネットワーク同士の結びつきが弱いのに対し、天才の脳では3つが強く結びついている。つまり、凡人はせいぜいどれか一つしか得意ではないが、天才は必要に応じていろいろなモードを切り替えることができる。

凡人が天才のように脳を使うにはどうすればいいのか。西田によれば、アイデアの生成に必要な「Default Mode Network」は一人の時に活発になりやすい。一方、アイデアの評価に必要な「Executive Network」は複数人でいる時、外に注意が向いている時に活発になりやすい。

「であれば、一人の時にアイデアの生成や選定を行い、複数のアイデアを結びつけるような内省のプロセスをしっかりと踏む。その上で複数人のミーティングに参加するようにすればいいのではないか」。これが西田のパートの結論だ。

これは先ほどのマインドセットの話とも合致する。われわれは「アイデアを出す」というとすぐに複数人でのブレストなどを思い浮かべるが、そうではなく、まずは独立心を持って一人で考える時間を大切にすること。「それがThink Differentの第一歩ではないか」と西田は言う。

TEXT BY ATSUO SUZUKI
SLIDE IMAGES BY COURTESY OF TAKANORI NISHIDA
EVENT PHOTOS BY ATSUSHI YAMAHIRA, TAKU YAGINUMA
※この記事は、Sansan株式会社のオウンドメディア「BNL」に2019年4月8日に掲載された筆者執筆記事をサイト閉鎖に伴い転載したものです

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