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#10 兼業生活「豊かさを<中庸>から考える」〜大高健志さんのお話(4)

お金には色がついている

室谷 ところで、大高さんは外資系コンサル会社の社員時代、どんなふうでしたか。バリバリ働いていたんですか。

大高 それはさすがに、首を切られるリスクもあるし、バリバリ働いていました。その中でバリューを出せたプロジェクトもあれば、成果を出せないで迷惑を掛けたプロジェクトもある。

室谷 社会人になりたてのころは、仕事の仕方がわからなくて失敗するものですよね。

大高 ただ、最初から「トップを取るぞ」という気持ちで入った人は、全然違う。入社前から勉強してOB訪問もきっちりして、必要な知識や社内政治まで身につけていて……。そんな同期がいるとも知らず、僕は「社会勉強しにきました」という空気がプンプン漂う徒手空拳の新卒で。キャッチアップしようと、寝る間も惜しんで働きました。

自分にとって、初めての職場でプロフェッショナリズムを叩き込まれたのはいいことだったと思います。病気になろうと何があろうと、自分が決めた仕事をやるのは自分だし、できないなら誰かに道筋をつけておく。それを妨げる要因は事前に潰しておく、というのが職場の常識でしたから。

クリエイティブ系の仕事を見ていると、口が上手くて責任感を持たない人の仕事を、同じチームの中で黙って巻き取っている人が結構います。資本家と労働者の“縦の搾取”はよく問題にされますが、企業の社員同士の“横の搾取”も実は結構起きている。プロフェッショナリズムってマッチョに見えるけど、そういう搾取が起こりづらい点ではいいんじゃないかと、一周回って今は思いますね。

室谷 「口が上手くて責任感を持たない人」が仕事しなくても平然としていられるのって、プロフェッショナリズムの欠如だけじゃなく、権威主義も原因ではないですか。文化やアカデミアの領域では権威が幅をきかせているから、周りが何も言えなくなる。

大高 それはありますね。文化領域って反権威主義的な世界のはずなんですが、内情を知るとめちゃくちゃ権威主義なクラスタもありますよね……。それは不思議です。

室谷 そういう意味では、ビジネスの世界はドライな分、平等さがあったりしますよね。もちろん現場には性差別をはじめさまざまな差別が残っていますが、結果を出せば、年齢や性別に関係なく評価してもらえる組織も多い。経済合理性の追求と裏表なので気をつけなければいけませんが、「ウェットな権威主義よりこっちの方が楽でいい」とも思う。

大高 そうですね。僕はスタートアップだからかっこいいとも思ってないし、むしろ大企業が時間をかけて積み上げてきた経験値や知恵から、学ぶべきことは多いと感じます。そういう意味では、やりたいことがある人でも、いったん大きめの組織に入って社会的なスタンダードを身につけるのはいいことでしょうね。

とはいえ、気づいたら社畜になっていたということもあるから、最終ゴールを意識しておくのは大事です。大谷翔平のマンダラチャートって、話題になったじゃないですか。

室谷 すみません、知らないです。

大高 これなんですけど。

大高 確かにこの方法なら、目的と手段が混同しません。最初は目的があっても、いろんなプロセスを経ているうちに「そもそも、何のためにやってるんだっけ」となることがあるじゃないですか。マンダラチャートはそうならないように、目的からスタートしてやるべきことを分解しているんですよね。しかも、この真ん中にくる目標が曖昧だと成り立ちません。

夢なんて途中で変わっていいし、僕はもともと夢なんてある気がしないけど、でも具体的な目標はある。それを分解しながら今やるべきことをやる。

室谷 大高さんにとって、クラウドファンディングがお金儲けの目的になっちゃうと、人生がおかしくなっちゃう。そこがぶれないのが、大事なのかもしれないですね。そろそろ時間ですが、大谷翔平のマンダラチャートで終わっていいですか。

大高 それはそれで、ちょっと違うかもしれない(笑)。

室谷 じゃあ、最後にお金について伺いましょうか。クラウドファンディングはお金を扱う事業ですが、大高さんは「お金」ってどういうものだと捉えていますか。

大高 お金かあ……(沈黙)。いや、お金って難しい。でも選択肢ですよね。選択肢を広げるための手段。

自分が考えていることだから同じ話になっちゃうんですけど。さっきの「観客数×価値観が変わった角度」で映画の公共性をはかれるかもなという話と同じで、稼いだ金額と稼ぎ方は長期的に紐づくと思っています。つまり、「稼いだプロセス」がその人にとってのお金の価値になる。

だから、「お金には色がない」という人がいますが、僕はそう思いません。「悪銭身につかず」じゃないですけど、変な稼ぎ方をした人は使い方も刹那的に見えます。だからあくまでお金は手段であって、目的にはならない。かといって、ないがしろにもできないですが。

室谷 面白いですね。クラウドファンディングで集めるお金も、支援者の気持ちがこもった「色があるお金」といえますね。

大高 本当にそうだと思います。こんなお話で、大丈夫ですかね。

室谷 はい、お忙しい中ありがとうございました。

取材後記

気づきとして大きいのは、放っておけば二極化する世界の中で「大資本に巻き取られるか、抵抗するか」の二択ではなく、「中庸でがんばる」やり方があるという点です。
今回のインタビューで出て来た2つの方程式「観客数×価値観が変わった角度」と「稼いだ金額×稼いだプロセス」は、どちらも「経済」と「人が生きること」を掛け合わせて考える大高さんの思考が現れていて面白いと思いました。そして名言だなと思ったのは、「お金には色がある」。これから預金残高を見るとき、「これは誰を喜ばせて稼いだお金だ?」という自問とともに、必ずこの言葉が頭をよぎると思います。

そして、私はリトルプレス『大人ごはん』を自費出版する際にMotion Galleryでお金を集めましたが、あれは「兼業生活」の第一歩だったなとも思いました。「増やす」ことを前提にしない資金集めで、好きなことをやる。資本主義からちょっと外れたお金の集め方・使い方をしてみると、見えてくることが多いです(この辺り、もうちょっとこのnoteでも突き詰めたいところ)。

経営者としての日々の仕事以外にも、映画やまちづくりなどのさまざまな企画に関わり、熱烈ロッテファンとして野球を見続け、超多忙と思われる中、個人的なインタビューに時間を割いていただき、本当にありがとうございました。

(この回はこれで終わりです)

※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudioによるものです

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