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妻はマレーシアに行きたくない。意見の食い違いを乗り越えたあの日の朝。

マレーシアの話になると妻は急に不機嫌になる。

中華系、マレー系、イスラム系、さまざまな文化圏がタペストリーのように織り混ざり、絶妙なバランスの上に成り立つグローバル他民族国家。

インターナショナルスクール、ホームスクール、ローカルスクール、いくつもの選択肢が存在する教育国家。

その国は多様性を重んじ、子育て世代には特に生きやすいという。

マレーシア在住の編集者 野本響子さんのVoicyやnoteからはそんなマレーシアの魅力が伝わってくる。

もちろんデメリットもあり、トイレットペーパーの代わりにバケツの水を使ったり(どういうこと?)、トイレに閉じ込められたり(なぜ?)、黒光りする◯キ◯リが多いらしいけど(それはイヤ)、それらを差し引いても、ぼくのマレーシアへの憧れは何年も前から強くなっていった。

マレーシアって他民族に寛容なんだって。

レストランで子供がうるさくても嫌な顔されることないんだって。

自分が周りと違うことで生きづらさを抱えることはないんだって。

ことあるごとに、ぼくは妻にそんな話をしてきた。

初めは妻も興味を持って話を聞いてくれたけど、おそらく2年ほど前から、彼女は嫌そうな顔をするようになった。

去年から「一度家族でマレーシアに旅行に行こうよ」と誘うようになったのだけど、彼女は絶対に賛成しなかった。

私は全然興味ないから。あっちゃんと子供たちだけで行ってきたら?

妻のいない家族旅行なんて楽しめるわけもなく、夫婦の共同体験が失われることで物事への感じ方の差異が広がるだけなので、この話はもうしないことにした。

妻の気持ちははっきりと決まっていた。それは決して分かり合えない悲しい民族間の対立のように、不動のものに思えた。

だけど、僕のマレーシアに対する憧憬の念が消えることはなかった。

ある日の夜、ついぼくはまたこの話しをしてしまった。

他民族への寛容性の話、いくつもあるインターナショナルスクールの話、暖かな気候の話。

話を始めてすぐに妻は不機嫌になり、寝室に引っ込んでいった。

ああ、またやってしまった。この話をするといつもこうなる。いったい何がいけなかったんだろう……?

悶々としながら朝を迎え、ぼくらはいつものようにダイニングテーブルに向かい合って座った。

真向かいに座ると妻に緊張感を与えるため、ぼくは斜め35度から40度の位置にお互いがくるよう、微妙に座る位置を調整した。

妻の後ろから春の柔らかな光が差し込んでいる。今朝の妻の機嫌は悪くない。話すなら今だ。ぼくはそう感じた。

ねぇ、昨日の話だけど、オレがいつもマレーシアの話をすると、君が不機嫌になるのは、オレが移住する前提の話をしてるからなのかな?

君が移住に対して何を感じているのか、どう思ってるのか、そんな話をかっ飛ばして、いきなり移住するにあたっての話をしているように聞こえるからなのかな?

妻は一瞬戸惑ったような表情を見せた。だけど、戸惑いはあたたかな春の日差しの中に溶け、妻は素直な気持ちを話し出した。

わたしは今の仕事が気に入っていて好きなんだ。やめたくないなあって思うの。子供たちも今の教育に困ってるわけでもないし。もちろんあっちゃんが生きづらさを感じてるなら、なんとかしてあげたいとは思うけど……。

思えば、ぼくらはこういった話をしてこなかった。ぼくはいつも見果てぬ南国への憧れだけを妻に話してきた。すぐに具体的なアクションに移るニーズも逼迫感もなかったからだ。

ぼくには妻の気持ちを知ろうとする好奇心が欠けていたんだ。

妻は、自分の人生を勝手に決められる寂しさを感じていた。ぼくからないがしろにされたように感じていた。

とはいえ、ぼくがこの国で生きづらさを感じていることや、梅雨時や冬になると鬱になることもわかってるから強く反対することができなかった。

私はマーレシアに興味がない。別に行きたいとも思ってない。

本当はそうじゃなかった。自分の人生を勝手にコントロールされることに不快感を感じ、メンタル的に不安定になりやすい夫に伝えることに抵抗感を感じていたんだ。

ぼくらの間に存在したわだかまりは春の雪解けのように静かに消えていった。

焼きたてのパン、スクランブルエッグ、ヨーグルト、朝のゆるやかな時間が流れるなかでご飯を食べながら、ぼくらは一つの結論にストンと落ち着いた。

雪解けの水が自然が作り出した用水路を通り抜け、サラサラと川へと流れ込むかのように、ぼくらの話し合いは自然な場所へと落ち着いた。何年も前から決められていたかのように。

ぼくらは近いうちにマレーシアに行く。

それは教育移住のためではなく、単なる旅行として。

以前の妻は「単なる旅行」であっても嫌悪感を示してきた。当時のぼくにはその理由がわかっていなかったんだ。ぼくは結論に行き着くためのプロセスをおざなりにしていたんだ。

だから、妻はぼくの妥協案にも反対をしてきた。だけど、今は違う。妻の気持ちをぼくが受け止めたことが伝わり、大切に扱い始めたことを感じ始めた。

だから、今までかたくなに反対してきた「(マレーシアへの)単なる旅行」に喜んで賛同してくれた。

移住したいなって気持ちはまだあるけれど、それはぼくが勝手に決めることじゃない。ぼくら家族の気持ちを大切に扱いながら決めていくことだ。

まずは、「単なる旅行」を楽しみたいと思う。

この話はポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」でもお話ししています。通勤や家事のおともにぜひ。

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