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90°のゆりかご

むか~し…むかしのコトである。
神戸・冬の風物詩《ルミナリエ》が、万人の目にはまだ斬新さと物珍しさが勝っていた‘極みの電飾イベ’だった頃――。

とある家の、とある犬――コイツを“犬”と呼ばずして、ナニを犬と呼ぼうぞ…っちゅーほど‘犬犬した’茶毛のシバがいた。

とある家の、とある友の愛犬(♀)である。

「おぃ、イヌっ!アッチ行けっ!」

犬ギライの…友のお兄に近づこうものなら、かのコロンボ警部が愛犬を‘Dog!'と呼んで愛でるのとは反対に…――本気の〈犬払い〉をされていた。

「…なぁなぁ、鼻…アツないんかなぁ?」

そんな友ンちで、友が指差した先は‘犬'。
ほふく前進体勢で伏せ寝している‘犬'。
鼻先をば、ファンヒーターの温風吹き出し口に射し込み、昼寝をカマしている――‘犬'。

「熱風…モロ!?まぁアツないんやろ?」

ココチよさの基準は十人十色…いや、十‘犬'十色――ニンゲンのソレでは“きっと”ナイのだ――ん…、ナイのかぁ!?

そう――。
生き物の数だけある、ココチよさの基準。

夜、ベッドに潜り込む。

わがアタマを支えるマクラが、一発必中でマッチングすりゃ…ソッコーで夢の奈落へ。

だが、しかーし!

アタマの位置やら角度やら…マクラの配置に反発具合やらがビミョーにズレた夜にゃ、寝落ちをゴールに彷徨うこと…――まさにクノッソスの迷宮。

“あ、ココ!ココ!”っちゅー、ココチよき唯一無二の座標面を探し当てるまで、わがアタマはマクラ表面で右往左往する。

わが身にもあるのだ、ココチよさの基準。

おとついだったか、ガレージの壁に取り付けてある置き配用ボックスを覗き見た。

蓋付きポストより入れ易いからか、たまに宅配チラシがゴッソリと…ね。

案の定、1枚。
[過払い金が戻ってくる!]――今、流行ってるっぽいヤツ。つか、“50万~100万”の過払い金があるってスゴくね?
まぁ、掲載金融会社から借り入れしたコトないジブンにゃ、縁なきチラシさね…。

…ビリッ。

“…んンっ、何やコイツ?”

お呼びでなかったチラシの下、毛羽立ち感と鱗粉感たっぷりに羽を拡げた――ステルス戦闘機の如き…蛾!?

“…しっかしまぁコレほど、ボックス角に…”――…ぴったんこ、とはねぇ!?

真上から見る‘蛾の直角'、‘ボックス角の直角'――その接舷っぷりたるや、まさに神レベル!

自らの意思か?
たまたま、か?

そう――。
生き物の数だけある、ココチよさの基準。

己が身の直角を、完璧に接舷させてくれる〈ボックス角〉。

ふふ、蛾にすりゃ、一等ココチよき‘ゆりかご'――なのかも知れませぬ…ナ?






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