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BCJ神戸定期、大雨の中の世俗カンタータ

今日の日中,神戸は本当にすごい雨でしたね。

大雨の中,久しぶりに神戸松蔭でのBCJ神戸定期で,久しぶりのJR六甲道駅でした。

以前は定期3回とゼロビート・シリーズ3回,その他に公開講座でバッハや《ヴェスプロ》ではないモンテヴェルディや,ガブリエリを歌うのに秋冬に8回くらい,年に15回くらいはここに通っていたのですが,2年ほど前からは色々変化があって3〜4回くらいになってしまっていました。

それでも,BCJの演奏を神戸松蔭のチャペルで聴くのは,特にキリスト教宗教作品の場合は他に替えがたいです。

一方で世俗カンタータのシリーズが始まって,《コーヒー・カンタータ》や《結婚・カンタータ》も良かったですが,去年の《農民カンタータ》が演出と踊り?付きがあって,まるで小オペラのように本当に楽しかったこと!

今日は「アウグスト王,万歳!」「アウグスト王はこんなに素晴らしい王様」という,当時の政治状況を踏まえた台本に,バッハが見事に音楽を付けたというプロパガンダ全開のカンタータ2つで,また違った楽しさでした。

(このあたりの作曲の経緯については,有料プログラムの中の西原さん(桐朋大学)へのインタビューに詳しくて,とても参考になりました。なお,215の初演に関して,歌詞のところの編成表などでは,ザクセン選帝侯がポーランド王アウグストIII世として就任した1周年記念の「1734年10月5日」とあり,ウォルフ氏の曲目解説ではやや曖昧に読めるように訳されて書いてありますが,西原氏は「確証はない」とされています。こうした色んな見解をそのまま併記しているのも興味深いところです。2/21追記)

Tまきさんにお会いした時に「楽しいですね!」とお話したら,「歌う相手が違うと全然違う。ロ短調だと責務を感じる」と言われていましたが,なるほどでした。

他に色々印象に残ったことを挙げると,

1)オルガンに近い席を最近は買っているので間近で見て気がついたのは,ペダルのレジストレーションでアシスタントの方が16フィートを入れたり抜いたりしていて,それを優人さんにお会いした時に伺ったら,「ダブルペダルが」のように言われていて,楽譜を確認したらそういうことかと納得。他にもリュックポジティフでも楽章の途中で音色を変更をアシスタントがされていました。これは下で聴いているだけではなかなかわからず,間近で見て初めてわかる面白さでした。

2)BWV215第1曲は《ロ短調ミサ》の中の〈オザンナ〉の原曲で(さらにその元BWV Anh.11があるとはいえ音楽は残っていません),《ロ短調ミサ》とは歌詞ももちろん違うし細かなことも違いますが,何よりもダ・カーポ形式で《ロ短調ミサ》にない中間部分がとても新鮮でした。そして,神に対して捧げるのではなくてザクセン選帝侯という人に対して書かれているという音楽の方向性が違うと,こうも違うものかということを強く感じました。そして,こういう複雑な曲でのBCJの器楽と合唱のアンサンブルは,本当に劇的です。

3)BWV215第7曲のバセットヒェンのソプラノ・アリアは,《クリスマス・オラトリオ》第5部第5曲のバス・アリアとはまるで違って,音域も高いですし,調も違いますし,楽器編成も違いますし,《クリスマス・オラトリオ》の第5部は好きで第5曲も好きですけど,それとは全く違う純粋で透き通った音楽なのに,魅せられました。これをハナさんが見事に歌われました。

4)独唱では,バスのBCJでは私は初めて聴くロデリックさんが素晴らしく、ソプラノのハナさんはいつも通り歌い出した瞬間に会場の空気を変えて見事でした。後半のBWV206にソロがあった青木さんもステキでした。ただ,これまたBCJでは私は初めて聴くテノールだけは,正直小節ごとの拍節感が強すぎるせいか,フレーズやアクセントとしてドイツ語を歌っているという感じに聞こえづらかったのが残念でした。もっとも,これまでゲルトというドイツのネイティヴの,それも素晴らしいレチタティーヴォとアリアを散々聴いてきましたので,それが自分の中の基準になっているのは確かです。

5)器楽と合唱のメンバーが少しずつ違ってきていました。リーダーは今回亮さん,オーボエIIも尾崎さんや前橋さんではなく,ソプラノ合唱もよしえさんはおらず,という感じでした。トラヴェルソは206で3人必要なソプラノ・アリアがありましたが,ここでは日本が誇るトラヴェルソ3人娘そろい踏みで,ハナさんの素晴らしい独唱と相まってとてもステキな1曲になりました。3月の《マタイ受難曲》でも新しい方が何人か登場するようで,BCJも新たな試みが続くようです。

6)この大雨のため,チェンバロのチューニングがなかなか安定せず,相当違っているようにも聞こえました。冒頭のオルガン独奏後の雅明さんのMCで結構たくさん喋られているなぁと思ったら(2F席はとても聞こえづらいのです)チェンバロのチューニングのためだったようです。休憩の時もギリギリまでチューニングをされていました。天候もですが,濡れた方が300人もチャペルに入るので,湿度も(温度も)一気に上昇するでしょうから,弦楽器には大変なコンディションだったと感じました。

曲目は次の順番でした。

《オルガン協奏曲 ト長調》BWV 592(独奏:鈴木優人)

《おのが幸を讃えよ、祝されしザクセン》 BWV 215

〜 休憩 〜

《しのび流れよ、戯るる波》 BWV 206

次のオペラシティでの東京定期の前に録音とのことで,きっとまた神戸定期とは違ったCDになるんだろうなと思っています。

最後に,Facebookでは既にやりとりしましたが,プログラムに1つ疑問が。

「オルガン: 鈴木雅明」

とあったにも関わらず,ソロではもちろん,カンタータでも雅明さんの前にはオルガンはなかったのですが,あれは一体…?オペラシティではどうなるんでしょう?

最後と言いつつ,また気がついたことを追記するかもしれません。

追記:トイレに行っていると救急車の音が。それも段々近づいてきて,まさか神戸松蔭?と思ったら,本当に救急車に乗せられた人が!聞くところでは,雨で滑って足を強打して動けなくなったとのこと。大事ないと良いのですが…。

雨は開演前は本当にすごくて,帰りも駅までの下り15分を歩いたので,靴の中まで見事に濡れました(泣)。

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