高校2年 冬①なにをしたいのかわからない日々
最後の大会が終わった。
そして僕らも日常生活に戻る。
夢のような時間だった。
片道3時間も離れた会場で、しかも1500人とかいるような舞台で僕らは拍手喝采を浴びたのだ。
とは言え、そろそろ受験に向けた準備も進めていかなくてはならない。
僕の通っていた高校は前にも書いたようにちょっと特殊で
高2の夏頃から完全に受験に向けた授業になるために、参考書とかをそれぞれ持ち込んでの受験対策を延々とするスタイルで
クラスもあるんだかないんだかよくわからないような感じだった。
周りが真面目に大学の二次対策とかを始めると、さすがにちょっと焦る。
どうしよう。
一応、国公立文系が第一志望。
でも、舞台の面白さを知ってしまった。
脚本の面白さを知ってしまった。
演出の面白さも知ってしまった。
芸大かぁ。
国公立の芸大ってめちゃくちゃレベル高いんだよなぁ。
それに就職とかないよなぁ。
芸術家ってすごいなぁ。
憧れるなぁ。
でも、なんとなく自分のやりたいことを口に出すのは憚られるような気がして
親にも、クラスの友達にも舞台に関わりたいとかは一言も言わなかった。
部活に関しては、クリスマス公演が迫っていた。
これは一年生が主体となって動く。
上級生は声がかかれば参加するくらいな感じ。
僕にお呼びはかからなかった。
そりゃそうだ。
怖がられてるしな。俺が後輩でも気遣うよ。
そっちのことは任せたぜい。
役割もないのに顔を出すのも邪魔になるので、しばらくはひたすら脚本を書き溜めていくことにした。
今度の舞台はなんにしよう。
秀才だいちゃんたちのように身体を使った表現をがっつりやれるものがいいな。
ダサいヒーローとかも現れちゃったり
頭のおかしい変な人とか出てきたり
人の闇が無意識に外に出てきちゃうのもおもしろそうだ
地元の人しかわからない内輪ネタとかも入れたりしてもいいかもなぁ。
観る人に面白いと思ってもらうのは、とても難しい。
そこで僕はこの頃から、周りで起きた変な出来事をメモしていくことにした。
そうすると、日常に潜む変な出来事がやたら目に付くようになってきた。
授業中、まぁまぁな頻度で山の方から「はいっ、はいっ!」という、おっさんの掛け声がしていること。
普段は物静かな文化部のクラスメイトが、カラオケに行くと顔に血管を浮かせながらポルノグラフィティのサウダージを熱唱し出すこと。
人は何の前触れもなく「ねえ、手を前に出して。んー違うな。そのまま、膝曲げれる?あぁ、そういうことか。それで目を見開いて」とか言われると、なぜか疑いもなくそのままのことを実行して変なポーズをしてしまうこと。
こういう、身の回りの変な出来事を舞台に持ち込んでやろう!と思い立って、日々の観察が習慣になった。
そして、県大会で仲良くなったオガとのメールのやりとりも毎日続いていた。
彼女は女の子だけど、なんか男友達みたいに接することができる数少ない友人だったし、彼氏もいたし、
なんて言うかまったく気を遣わなくていい相手だった。
高校生なんて色恋だなんだという話ばかり。
そーゆーのって人の分は楽しいけど、自分のこととなるとなんだかちょっとめんどくさいと思い始めていた矢先だったから、とても都合が良かった。
別にタイプでもないし、遠いから間違って付き合っちゃうとかもないだろう笑
そんな超失礼な感じで毎日楽しくやり取りをしていた。
オガは毎朝、いつもよりだいぶ早くに登校して図書室にあるPCで僕に近況報告をしてくれていた。
進路は東京の私立大学。
県内トップクラスのオガの高校からすると意外な大学だったが、演劇界の重鎮が教授を務める学部があって、そこで本格的に舞台を学ぶのだそう。
推薦入試を受けるんだと張り切っていた。
将来やりたいことがあって、それを公言してその為の進路に進む姿はなんてかっこいいんだろうと思った。
なにをやりたいのかもいまだにわからない僕は、
夢のために進んだ元カノやオガを本当にかっこいいなと思って振り返りつつ
なにもない自分がとても悲しくなった。
少し前に流行ったCHARAとYUKIの幻想的な曲が、ずっと頭の中をこだましていた。
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