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[カマタマーレ讃岐 2−1 FC岐阜]の試合を終えて(戦術分析編)

はじめに

香川県のPikaraスタジアムで行われたカマタマーレ讃岐とFC岐阜の一戦は、2-1で讃岐が競り勝ち、2020年10月以来となる連勝を飾った。岐阜は今季絶対避けなくてはならない「連敗」をここで喫してしまった。前節後半のような自分達がボールを保持できるが、中々シュートまで運べなかった展開から改善し、この試合は序盤から積極的にシュートを放つなど違いを見せたが、また相手にワンチャンスを決められて失点。4試合連続で先制点を許す形となったが、この試合も前半終了間際に石津大介の豪快なミドルシュートで同点に追いついた。後半は序盤に訪れた再三のチャンスを決め切れず、流れを失いかけたところで、コーナーキックのポジショニング争いからフレイレがレッドカードで退場。これで流れを完全に失い、終盤に失点。痛すぎる連敗となった。この試合もそうだが、徐々に岐阜のポゼッションサッカーは「攻撃的なスタイル」から「ただ回すだけ」のサッカーになってきてしまっている。その原因については、【戦術面から試合を振り返る】ところで分析する。これで6試合を終えて3敗、苦しい展開が続くが、ゴールデンウィークということもあり、ここから連戦が続く。中3日で今度は藤枝MYFC戦が待っているだけに、切り替えて、1勝ずつ積み重ねていくしかない。
 
讃岐戦で感じた課題などを厳しく述べているが、決してただ戦術批判をしたいだけではない。岐阜がJ2の舞台に復帰し、その後にJ1という舞台にたどり着くことを同じように強く願っている。だからこそ、今この苦しいタイミングでもう一度立て直してほしいからこそ、課題を整理していきたい。

スターティングメンバーについて
[両チームのスターティングメンバー]

岐阜はここ2試合続けてきた4-2-3-1の形から4-4-2に戻してきた。GKは桐畑和繁。4バックの右に舩津徹也、左に宇賀神友弥。センターバックはフレイレと藤谷匠が入った。中盤ボランチに庄司悦大と柏木陽介。サイドハーフの右に好調の窪田稜、左に藤岡浩介が3試合ぶりに復帰。2トップは山内寛史と移籍後初スタメンとなった石津大介が起用された。ベンチには、ンドカ・チャールスも戻ってきた。
 
一方の讃岐は予想通り3-4-2-1のフォーメーションを組んできた。GKに高橋拓也。3バックは前節同様に伊従啓太郎、西野貴治、遠藤元一の3人。ボランチに長谷川隼と今季初出場となる鯰田太陽。ウィングバックの右に川崎一輝が復帰、左には渡辺悠雅。2シャドーは好調の青戸翔と後藤卓磨。1トップには、ここまで3得点を決めている松本孝平が起用された。

戦術面から試合を振り返る

戦術的にこの試合を見ても、「完敗」の一言だった。これまで同様に岐阜がボールを握り、讃岐ディフェンスの隙を窺うパスワークを続けたが、ここ数試合ポゼッションサッカーが効果的に働いていない。【はじめに】でも述べたように、「攻撃的なスタイル」から「ただ回すだけ」のサッカーになってきてしまっている。こうなってしまう要因はいくつかある。

[讃岐戦 ポゼッションサッカーを展開する上での課題]

ここでは、以下の3つのポイントに分けて述べる。

①    選手間の距離が遠いため、パスを回しても、テンポが上がらない
②    センターバック間の横パスのスピードが緩いため、讃岐の横へのスライドが間に合ってしまう
③    FWの一角が降りてきて、そこにロングボールを供給しても、全体の押し上げが遅い

まずは①について話すと、再開試合となった富山戦あたりから徐々に感じるポイントがこの讃岐戦で一気に浮き彫りになった。選手間の距離が遠く、自然と間延びしてしまい、サイドに入っても、バックパスが増えていた。ポゼッションサッカーをする上で、決してバックパスが悪いわけではない。サイドに展開してからバックパスを使って、逆サイドに展開する動きで相手ディフェンスのチェックを剥がすパスワークも必要だ。ただこの讃岐戦でのバックパスはその意味合いよりも、出しどころがなく、後ろに下げ、逆サイドへの展開も遅いため、讃岐を揺さぶることができていない。それに繋がるのが②だ。
 
センターバック間での横パスのスピードが緩く、全体を横に動かしても、讃岐ディフェンスの横へのスライドが間に合ってしまうので、サイドバックにボールを出しても、もう一度戻すしかパスコースがない。ポゼッションサッカーで何より慎重にやりたいのが、この横パスのスピードと正確性と感じる。受け手の選手の利き足にスピードが落ちないように出す。左右にスライドするパスが出た後は、他の選手がみんな受け手として準備する必要がある。短期間でこの動きを整理することは難しいタスクではあるが、岐阜としては、もっとプレーのテンポを上げなくてはならない。
 
時折、2トップの一角の石津が何度もトップ下のエリアに落ちてきて、そこにフレイレや藤谷から効果的な縦パスやロングボールが供給された。石津が上手さを見せて前を向くものの、全体の押し上げが遅いため、テンポが上がらない。こういったところで、ボランチが近い距離で受け手となって、石津を前線に上げる。サイドバックも上がってきて、サイドで人数をかける。この動きがないと、いくらポゼッションをしていても、相手にとってそこまで怖さを感じないパス回しになってしまうだろう。
 
次に、松本山雅戦から感じた課題点が、サイドバックの攻撃参加についてだ。この課題を感じるのが、特に右サイド。縦へのドリブル突破が持ち味の窪田は、富山戦でその持ち味を存分に発揮。3試合連続でスタメンの座を勝ち取ってきた。松本戦も前半終了間際に縦への仕掛けからアシストを記録。だが、松本戦の後半は、松本も対策を打ってきて、縦へのドリブルコースを消されてしまった。「カマタマーレ讃岐戦試合前考察」で述べたように、窪田の盾への仕掛けは相手にとってかなり脅威となるため、これ以降も相手が対策を打ってくることは予想がつく。つまり、窪田の突破力を活かすためには、周りの選手の関与が重要になってくる。ところが、この讃岐戦も、右サイドにボールが渡った後、周りのサポートが少ないため、対峙する讃岐の渡辺も縦への警戒を強め、中々完全に突破するところまでいけなかった。
 
窪田の突破力を発揮するためには、サイドバックや中盤の選手がサイドに流れ、パスコースを作る動きや、窪田を追い抜く動きで、ディフェンスをひきつけてほしい。サイドからの崩し、そしてポゼッションサッカーをするためには、サイドバックの運動量がより求められる。
 
ただ課題もある中で、試合開始序盤は、全体的な連動性があり、讃岐の懐に進入し、そこにボールが入るなど、流れは良かった。その序盤に、パス回しでまさに上記のように、左から右に、右から左に両幅を使いながら、讃岐のディフェンスをスライドさせることができた動きがある。それが前半2分のシーン。

[前半2分 両サイドを使った良い攻撃シーン]

宇賀神から縦パスを受けた石津が前を向き時間を作り、右サイドの窪田へパス。この左から右への動きで讃岐をスライドさせ、ギャップを作る。ここで効果的だったのが、サイドバックの舩津が中にポジショニングをとり、ボランチの間に入り込んだことだ。パスを受けた舩津へパス。この動きに対して、相手ボランチが2枚ともに舩津に寄せられ、バイタルエリアに3人入り込むことに成功。ここから良い距離間で藤谷、宇賀神とつないだ。庄司から舩津、舩津から藤谷、藤谷から宇賀神、宇賀神から柏木へのこの4本のパスはツータッチとワンタッチで生み出されたもの。やはり、このエリアで近い距離で少ないタッチ数で回すことができれば、相手のディフェンスの並びを崩すことができる。テンポ良くパスが回ったことで、サイド宇賀神に対して、川崎が飛び出してチェックに行かなくてはならなくなり、その裏に大きなスペースが生まれた。一度鯰田に弾かれたが、その後、まさにその川崎の出た裏のスペースに柏木と藤岡が入り込み、クロスまでつなげることができた。ボールを受けてから考える時間をなくし、全体が連動して、ツータッチ以内でパスを回し、テンポを上げることができれば、サイドの裏やバイタルエリアにスペースが生まれる。そして、それを「90分」通してやり続けたい。この前半2分のシーンは、多くの人数が関わって両サイドを使いながら、崩した良いシーンだった。
 
ここまでポゼッションサッカーでの選手間の距離、オフザボールの動き、パスのスピードについての課題と良い点を述べた。ただ、課題は他の点にも表れていた。それが監督の選手交代を含めたマネジメントの部分だ。

選手交代について

この試合の選手交代はほとんどが悪手だったと言わざるを得ないだろう。実際に交代策がほとんど機能しなかった上に、これまで機能していた部分も消してしまった。
 
まず57分に、右サイド窪田を下げ、畑潤基を投入した。ここも1つ疑問という交代。上記に述べたように、讃岐は窪田の右サイドの縦突破を警戒していて、思うように窪田が縦に行くことはできなかった。ただ窪田は柔軟にポジショニングをとり、反対サイドからのクロスに対して、ゴール前に飛び込むなど、ドリブルではない部分でも相手の脅威となっていた。そして後半早い時間にフレイレからのロングボールからサイド突破を図るなど、コンディションの良さは十分見せていた。56分には早いリスタートでサイドにスペースがある状態からマイナスへのクロス、その直後にはサイド深い位置からフワリとしたクロスで藤岡に合わせるなど質の違うクロスを組み合わせてチャンスを演出。そのタイミングで交代となった。この交代の意図がよく分からなかった。ここから中3日で連戦が続くことを考慮して、窪田の疲労を溜めない、畑の試合感を戻す意図があったのだろうか。だとするならば、明らかにこのタイミングではなかったはずだ。1-1の同点の場面で、機能していたサイドの「早い時間」での選手交代は、窪田も納得がいかないだろう。タイプの少し異なる畑を持ってきたことで、サイドでボールを保持しながら、崩す形を持ってきたが、この試合57分に入った畑とンドカは明らかにトップパフォーマンスでなかった。
 
69分の交代ももっと工夫ができたはずだ。フレイレの退場により、センターバックの投入が必要となり、岡村和哉の投入を余儀なくされた。これはしょうがないことだが、ここで下げたのが、前線で機能していた石津だった。もちろん石津も疲労により、少しずつ精彩を欠いてきていたが、左サイドに入っていた藤岡も同じく疲労が蓄積していた。コロナの影響もあり、3試合ぶりの出場となった藤岡の方が、メンタル的にも疲労が見てとれた。この試合得点も奪い、メンタル的な部分を考えると、石津を残す方が得策だったのではないだろうか。84分の交代もボランチ2枚を同時に交代したことで、中盤のバランスを再構築する間に失点を喫してしまった。 

さいごに

昇格をするためにも必ず避けたい連敗だったが、6戦目にして起きてしまった。J3は決して簡単なリーグではない。経験のある選手が複数いることは昇格に向けて大切だが、若い選手で編成するチームも多いJ3では、プレーでの細かい部分などが遅れてしまう。また大きな違いが「勝利への泥臭さ」。讃岐や沼津のように、若い選手が強敵・岐阜を破りたいという高いモチベーションで90分間ハツラツとプレーしていることが見て取れる。流れが悪い状況でボールウォッチャーになってしまうこと、デュエルの部分で一歩寄せが遅い。精神論で全てを語るのは良くないが、明らかに今の岐阜には、勝利への執念が他クラブよりも足りないと感じる。昇格という大きな目標がある中で、失点を重ねることは、メンタル的なダメージが大きいのは事実だが、ここでしっかりと立て直したい。そして、岐阜に今最も必要なのは、「連勝」。連勝を掴む上で重要なのが、泥臭く戦い続けること。苦しい時間帯でも高いモチベーションを維持して、勝者のメンタリティーをつけたい。こういった部分で浦和レッズから来た宇賀神、柏木あたりがチームを押し上げてくれるはずだ。中3日で藤枝MYFC戦が来る。首位の松本山雅と1試合差で勝ち点9離されてしまったが、ここからもう一度立て直し、まずは1試合ずつ泥臭く勝利を追い求めていきたい。必ず上昇気流に乗れるタイミングが来るはずだ。

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