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永遠の虚空

 ふっと人の指を離れて空中に滑り出したあと、しばらく経ってから、紙ヒコーキはようやく自分が空を飛んでいると知った。それまでは自分自身の存在さえも認識していなかったから、飛んでいるという意識さえなかった。
 空を飛んでいる自分。彼女にとってはそれが知る限りのすべてであり、当たり前のことになっている。
 紙ヒコーキになる前の、単なる一枚の紙だったころの記憶はないし、もちろんその前の、まだ紙にさえなっていなかった素材の段階など想像することすらなかった。同時に、いずれ自分が飛ぶことをやめて地に落ち、紙屑となって再び何者でもない素材へ戻ることもまた想像できずにいた。
 向かい風を受けて少しずつ上昇する紙ヒコーキは、ふと地表に目をやった。地面に張り付くようにして人々や生き物や建物が広がっているのを眺め、何とも奇妙な連中だと思った。
「どうしてあんなところに張り付いて生きているんだろう」
 飛んでいる状態があまりにも当たり前すぎて、紙ヒコーキには飛ぶことのできない者たちのことが、どうしても理解できなかったのだ。

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