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【絵本レビュー】 『ふしぎなたけのこ』

作者:松野正子
絵:瀬川康男
出版社:福音館書店
発行日:1966年9月

『ふしぎなたけのこ』のあらすじ:

山奥の村に住む男の子たろが、たけのこを掘りに行くと、上着を掛けておいたたけのこが突然伸びはじめました。たろがとびつくと、たけのこはたろをのせたままぐんぐん伸びて、雲より高くなります。村の人たちは、たろを助けるために、たけのこを切り倒し、倒れたたけのこをたどっていきました。するとたろが倒れていたそばには初めて見る海が……。

『ふしぎなたけのこ』を読んだ感想:

昔話にあまり興味のないうちの4歳児が、この何日かこの絵本を見たがります。たけのこがぐんぐんと勢いよく伸びる様子と海を発見した時のみんなの様子が興味深いようです。そういえばうちの息子、まだ海を見たことがありません。初めて海の水が口に入った時のショックって特別ですよね。どんなリアクションをするのかちょっと楽しみです。

子供の時住んでいたところの近所には、ポツポツと笹竹林がありました。子供の時は竹林と思っていたけれど、今考えるとどれも七夕の時の笹のように細かったので、笹竹だったのでしょう。家の建っていない場所で笹竹がぼうぼうと生えている場所が何箇所かありました。道からではその広さもわからないほど密集していて、中を覗くと薄暗く、夜バス停から降りてそこを通るのが怖くて一個先のバス停で降りることも多々ありました。周りは普通の住宅地で真横にはバスも通るような場所なのに、そこへ来ると時間が止まったようなふしぎな静けさがあり、中の方からは笹の葉がサラサラと揺れる音もして、誰かがいるのか、もしくは別の世界なのか、なんともいえない不思議な感覚が身体に感じたのでした。

うちの裏庭にも大人が腕で抱えられるくらいの小さな笹竹林があったのですが、父に「竹は根がしっかり張っていて土を抱え込んでいるから地震に強いんだ。地震があったら竹のそばにいればいいんだぞ」と聞いてから、私はその竹やぶを地震の時の避難場所と勝手に決めていました。「きっとこの竹たちが私たちを守ってくれるはず」と信じていたのです。

ある時近所の友達の家の近くで遊んでいた時、その子の家のそばにある笹竹林に入り込んでみました。友達と一緒だったこともあって勇気も出たし、勢いがついていたのであまり深く考えずについて行きました。「たけのこがあるんだよ」と友達に言われて興味を持ったのです。見ると確かに細っこいたけのこの赤ちゃんがそこかしこにあります。これが八百屋で見たあんな大きな筍になるんだあなんて感動していましたが、全く別なものと知ったのはお恥ずかしながらつい最近です。それでもその時は楽しくて、友達と二人でポキポキと折り始めたんです。袋も何もなかったので手に持てるだけ持って、Tシャツをめくり上げてそこに入るだけいれて藪から出てきました。外はびっくりするくらい明るくて暑くて、それでやっと私は今までいた場所がすごく静かで涼しかったことに気づいたのです。

友達はせっせと竹の皮を剥いています。中からたけのこの赤ちゃんが出てきました。「ほら見て!」それを見て私も横に座って皮を剥き始めました。黄緑色のひょろっとしたミニ筍が並んでいます。でも私たちはそれをどうしたらいいかさっぱりわかりませんでした。なので、私たちがしたのはおままごと。他の葉っぱやら花と一緒に料理をするふりをして遊びました。でも今インターネットで見ると、地域によってはこれはれっきとした食べ物なんですね。一体どんな味がするんでしょう。

もう10年近くこの場所に入っていませんが、きっと笹竹林も開拓されて家が建っているのではないかな。あの不思議な空気は子供だったから感じられたものなんでしょうか。父や母がそんな話をしているのを聞いたことはありませんでした。大人になってしまった私には感じられないものなのでしょうか。いづれにしてもそんな場所がどんどん消えていってしまうのは、なんだか寂しい気がします。

『ふしぎなたけのこ』の作者紹介:

松野正子
1935-2011 早稲田大学でコック文学を専攻。のちコロンビア大学大学院図書館学科に留学、児童図書とのかかわりをもち、創作活動に入る。主な作品に『思い出のマーニー』『時の旅人』『ギルガメシュ三部作』(いずれも岩波書店)、『ふしぎなたけのこ』(福音館書店)、『りょうちゃんとさとちゃんのおはなし』(大日本図書)などがある。


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