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【絵本レビュー】 『くしゃみ くしゃみ 天のめぐみ』

作者:松岡享子
絵:寺島龍一
出版社:福音館書店
発行日:1968年8月

『くしゃみ くしゃみ 天のめぐみ』のあらすじ:

いびき、おなら、あくび、しゃっくりなど、人間の生理的弱点を素材にした、ナンセンスでユーモアにあふれた大らかなお話が5編。


『くしゃみ くしゃみ 天のめぐみ』を読んだ感想:

昔話はなあと思いながら読んだのですが、いびき、おなら、あくびにしゃっくりとくれば、聞いているだけで笑いがこみ上げてくるようで、絵が少ないにもかかわらずうちの五歳になりたて男児も集中して聞いていました。

「出物腫れ物所嫌わず」

父はよくそう言っていましたが、人前でオナラをすることはありませんでした。わたしが覚えているだけでも一回だけ。しかも「今オナラしたでしょ」と言ったら、ものすごいスの顔で「してないぞ」と言われてしまったのです。その顔があまりにも普通だったので、わたしもうっかり気のせいだと思ってしまい、それ以上追求しませんでした。その夜母とオナラ話になり昼間の出来事を話すと、「パパはママの前で絶対オナラしないよ」とのこと。時々うっかり出てしまうと顔を真っ赤にしていたんだそうです。バカヤローとチクショーが口癖の父の意外な一面を知り、わたしはちょっとびっくりしました。ラッパ吹きみたいにオナラをしまくる母とはとても対照的ですね。

そしてさらにびっくりしたのは、親戚の家の集まりでした。母方の親戚は酒好きで、集まると食べるものよりビールの方が多いくらいというふうでした。父は全く飲めないので、いつもテーブルから離れ部屋の隅に座って眺めていました。乾杯の時にとりあえずコップが渡されましたが、父はただニコニコと受け取って一口も口をつけることはありませんでした。私にも本当は食べて欲しくなかったようですが、子供だった私は大抵父がいることを忘れ、ひたすら食べていました。

伯父も伯母もだんだん酔ってきて声が大きくなるのですが、盛大にゲップをすることに私はとても驚きました。うちではあまり聞かないことだったからです。
「ゲップってしない方がいいんじゃないの?」
子供だった私は躊躇なく聞きました。赤い顔をした伯母が、
「ビール飲むとね、しょうがないのよ。」
と言います。その間にもまた誰かがゲップ。まるでヒキガエルと食事をしているようです。小さな私はその音の大きさにただただびっくりしました。

日本では食べるときの音が食事を味わうことの一つともなっていますよね。熱いお茶をズズッと飲めば口に入ってきた時には少し冷めているし、ラーメンだって同じ。冷たいざるそばを勢いよくズルズルとして喉越しを楽しむ。うちの母はスパゲティを箸で食べて喉越しを楽しんでいましたっけ。

ところがヨーロッパでは音を立てて食べることをとても嫌がります。こちらのカフェで出てくるコーヒーはとてもぬるく、運ばれてきた時すぐに飲まないと冷たくなってしまいます。運ばれてすぐだってかなりぬるいのでゴクゴクとあっという間に飲めてしまって、本を読みながらゆっくりなんていうこともできません。家の近所に日本のラーメン屋さんができて早速言った時、スープがすごくぬるくて友人と思わず顔を見合わせました。「すする」ということをしない/できないヨーロッパ人用にスープはぬるめに作ってあったのでしょう。でも熱い食べ物に慣れている私たちにはかなり物足りないラーメンとなりました。それはさすがにガッカリだったので、お店のレビューに「スープがもっと熱いと良かったな」と書いたら、その次行った時は結構熱めになっていました。ラーメン屋さん、あれ、私です。でもやっぱり誰もすすっては食べません。とても静かなラーメン屋さん、想像がつくでしょうか。

うちでも食べる時には音を出さないよう教えていますが、日本へ行ったら音を立ててもいい食べ物があるっていうことを息子に教えなくちゃなりませんね。お店で誰かがゲップをするのを聞いたら、彼はきっと大爆笑することでしょう。もしかしたら「エッパレ〜!!」って叫んじゃうかもしれません。これは彼と旦那とのゲームです。ゲップやオナラをしたら「エッパレ〜!」と叫びます。した本人の照れ隠しという目的と、してしまった人が居心地悪くならないようにという旦那なりの配慮、と私が勝手に解釈していますが、本当のところはたださらに笑いを取りたいだけなのではないかと、最近疑いを持つようになってきました。

「エッパレ〜!!」
日本でこんなことを言う子供の声が聞こえたら、笑って返してやってください。


『くしゃみ くしゃみ 天のめぐみ』の作者紹介:

松岡享子
1935年、神戸生まれ。翻訳家、児童文学作家。慶應大学図書館学科卒業後、アメリカで児童図書館学を学び、ボルチモア市立図書館に勤務。帰国後公立図書館勤務を経て、松の実文庫を主宰。現在公益財団法人東京子ども図書館理事長。大社玲子氏との仕事に「みしのたくかにと」(福音館書店)、「なぞなぞのすきな女の子」(学研)などがある。絵本、創作、翻訳作品などロングセラーの著書多数。



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