あらきさんの編集覚え書き

修行中の人文・翻訳文芸編集者です。アジア文芸ライブラリーの中の人。出版にかかわるいろい…

あらきさんの編集覚え書き

修行中の人文・翻訳文芸編集者です。アジア文芸ライブラリーの中の人。出版にかかわるいろいろな立場の人がお互いの仕事を理解し、風通しがよくなるように、という思いで書いています。自分でもはっきり分かっていなかったことをまとめていますので、間違いやご指摘があれば優しく教えください。

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自己紹介

あらきともうします。本名はともかく(探せばすぐ分かると思いますが)「あらきさん」と呼んでもらえるとうれしいです。 春秋社という出版社で人文書と、海外文学の編集をしております。似たような名前の出版社が他にもいくつかありますが、週刊誌でスクープを飛ばしているところではありません。 経歴 平成生まれです。都立戸山高校を中退した後、無職やフリーターをして、専門学校で鍼灸師の国家資格を取得しました。 なぜか専門学校卒業前に突然、大学進学を決意。国際基督教大学で文化人類学と歴史学

    • 『恋愛しない私でも『源氏物語』は楽しめますか』(西原志保)編集後記

      西原志保さん(東北大学大学院助教、専門は日本文学)による新刊『恋愛しない私でも『源氏物語』は楽しめますか』の編集を担当しました。 光源氏を中心とした恋愛にスポットライトがあたりがちな『源氏物語』ですが、この本では異性間の恋愛のみならず、恋愛を指向しない人物や、性愛/恋愛とは限らない同性や異性との関係も様々に描かれた『源氏物語』の世界を紹介するとともに、恋愛を前提とする社会での生きづらさとか、仕事とプライヴェートの境界で悩む現代の人々へのヒントを『源氏物語』から読み解いてみよ

      • 『わたしたちが起こした嵐』(ヴァネッサ・チャン著/品川亮訳)についての書評・記事・イベントの一覧

        シリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の3作目として2024年6月に刊行されたヴァネッサ・チャン著、品川亮訳『わたしたちが起こした嵐』は、イギリス植民地時代と日本占領期のマラヤ(マレーシア)を舞台としたスリリングな戦争文学です。書評やイベントなどを一覧でまとめます。(随時更新。最終更新日:2024年8月28日) 編集後記として、以下のnoteで個人的な紹介記事を書きました。 1)書評・紹介記事・番組1. 『ふぇみん』2024年8月15日号書評 最初の書評は『ふぇみん』(ふぇ

        • 『花と夢』(ツェリン・ヤンキー著/星泉訳)の記事・書評・イベントの一覧

          最終更新日:2024年9月15日 シリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の一冊目のとして2024年4月に刊行されたツェリン・ヤンキー著・星泉訳『花と夢』はチベットの都会で、さまざまな事情によって性風俗業に従事する女性たちの姿を綴ったシスターフッドの物語です。 編集後記として、以下にわたしによる個人的な紹介noteを書きました。 また、訳者解説の一部は以下の「じんぶん堂」の記事でお読みいただけます。 1) 書評・紹介記事・番組1. TBSラジオ「荻上チキ・Session」

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          『南光』(朱和之著/中村加代子訳)についての書評・記事・イベントの一覧

          シリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の2作目として2024年5月に刊行された朱和之著、中村加代子訳『南光』は日本統治時代の台湾に生まれた写真家、鄧南光の生涯を描いた伝記小説です。以下では本書の書評やイベントなどを一覧でお知らせします。(最終更新日:2024年8月28日) 春秋社のウェブマガジン「web春秋 はるとあき」で訳者の中村加代子さんによるあとがきが全文公開されています。おまけにモデルとなった南光さんによる写真も紹介しています。 また、編集後記として、以下のnoteで

          『南光』(朱和之著/中村加代子訳)についての書評・記事・イベントの一覧

          【編集後記】ヴァネッサ・チャン『わたしたちが起こした嵐』品川亮訳

          アジア文芸ライブラリーの3作目として、ヴァネッサ・チャン著、品川亮訳『わたしたちが起こした嵐』が6月27日に発売されました。 作品についてこの作品は2024年1月にアメリカのMarysue Rucci Books(Simon & Schuster)、イギリスのHodder & Stoughtonから発売されたVanessa Chan, The Storm We Madeの日本語訳です。 舞台となったのはイギリス植民地時代と日本占領下のマレーシア。当時はマラヤと呼ばれていま

          【編集後記】ヴァネッサ・チャン『わたしたちが起こした嵐』品川亮訳

          〈アジア文芸ライブラリー〉についての記事・報道・イベントまとめ

          2024年4月、春秋社でアジアに特化した海外文学のシリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の刊行を開始しました。わたしが企画立ち上げと、ほぼすべての作品の編集を担当しています。このシリーズとその収録作品についての記事・書評・イベントなどをまとめてご紹介します(随時更新。最終更新日:2024年8月29日)。 1) 春秋社の発行物〈アジア文芸ライブラリー〉内容見本(リーフレット) 三つ折りのリーフレットを作成しました。書店で配布しているほか、オンラインでも公開されています。デザイン

          〈アジア文芸ライブラリー〉についての記事・報道・イベントまとめ

          【編集後記】朱和之『南光』中村加代子訳〈アジア文芸ライブラリー〉

          「日本で一番高い山ってどこだと思いますか?」 わたしの恩師のひとりである東洋史の先生は、学期の授業のはじまりに、こんな質問を投げかけて学生たちをキョトンとさせていました。 ああ、あれのことね、とすぐにピンときた方もいらっしゃるかと思いますが、「富士山」以外の答えを思いつかない方は、ぜひこの本を読んで答えを探してみてください。 朱和之『南光』について アジア文芸ライブラリーの第二作目として、朱和之『南光』(中村加代子訳)が5月15日に発売されました。 この作品は鄧騰煇

          【編集後記】朱和之『南光』中村加代子訳〈アジア文芸ライブラリー〉

          【編集後記】ツェリン・ヤンキー『花と夢』星泉訳 〈アジア文芸ライブラリー〉

          シリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の最初の一冊として、ツェリン・ヤンキー『花と夢』(星泉訳)が4月18日に発売されました。担当編集者として、本作の企画の経緯や魅力を書き残しておきたいとおもいます。 『花と夢』について 舞台は00年代のラサ。ナイトクラブでセックスワーカーとして働く4人の女性たちを主人公に、それぞれの人生と共同生活を描いたシスターフッドの物語です。急速な都市化、農村の困窮や、伝統的な性別役割分業や家父長制、ミソジニー、性暴力、などを背景にそれぞれが事情を抱え

          【編集後記】ツェリン・ヤンキー『花と夢』星泉訳 〈アジア文芸ライブラリー〉

          #アジア文芸ライブラリー ができるまで

          〈アジア文芸ライブラリー〉という、海外文学の新たなシリーズを立ち上げます。アジアの同時代の文学作品を翻訳して、書籍と電子書籍で出版するシリーズです。わたくしがシリーズの企画立ち上げから、ほぼすべての作品の編集を担当しております。勤務先である春秋社より、2024年4月より刊行されます。 3月中旬に発表があってから、SNSでは多くの反応をいただきました。これまでも多くの出版社から、アジアの現代文学は数多く出版されてきましたし、ここへきてわざわざシリーズとして立ち上げることに、意

          #アジア文芸ライブラリー ができるまで

          【編集後記】内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』

          今月(2024年2月)に発売される、内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』の編集を担当いたしました。 もともと福島の『日々の新聞』で内山田さんが連載されていたものに、加筆修正を加えて書籍化しました。著者の内山田さんが連絡と取ってくださったことからはじまって、最初は難解でよく分からないなあ、どうしようかなあ、などと思いながら原稿を読んでいたのですが、100頁を超えたあたりから俄然面白くなってきて、これは是非とも本にしたい!と思って企画を通しました。 簡

          【編集後記】内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』

          高卒フリーターの「僕」が一流商社の支社長代行として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した話

          仕事で石川コフィさんの『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画——そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』という本をお手伝いしました。 この本は副題にあるとおり、著者の石川さんがひょんなことから某一流商社の支社長代理(社内では支社長代理の扱いだが、厳密には現地採用の契約社員)として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間のことをまとめた回想録です。内容は(多少の表現の誇張は含むかもしれません

          高卒フリーターの「僕」が一流商社の支社長代行として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した話

          あの記号やあのアクセント記号を入力する方法(mac編)

          àとかÉとかüのようなアクセント記号のついた文字や、¿や« ギュメ »のような記号類をmacのJISキーボードで入力する方法をまとまておこうと思います。 A. 基本編まずはmacの文字入力に備わっているいくつかの機能をご紹介しておきます。以下の3つをおさえておけば、文字・記号の入力で困ることはほとんどないのではないかと思います。 ① アクセントメニュー 欧文のアクセント記号を入力する場合に最も簡単なのがアクセントメニューを表示するという方法。たとえばキーボードの「A」を

          あの記号やあのアクセント記号を入力する方法(mac編)

          論文に「本稿」「拙稿」は使っていいのか問題

          「稿」とは未完成の文章という意味合いがあるので、論文に「本稿では〜」と書いたり、既発表の論文を「拙稿」と書くのは適切じゃないのではないか、という趣旨のツイートをして、ちょっとした議論を巻き起こしてしまいました。 まず、言葉の使い方というのは一義的に正しい/間違いと決められるものじゃなくて、状況や媒体、文脈、使い手の個性、など様々な要素で決まるものだと思っています。 言葉の使い方の「正しさ」にはさまざまな基準があって、何が正しいと客観的に決められるものではありませんが、その

          論文に「本稿」「拙稿」は使っていいのか問題

          洋書に印刷された数列「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」の謎

          洋書の著作権表示のあるページに、以下のような謎の数列を見たことがないでしょうか。 場合によっては「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10」という順だったり、 「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」という不思議な順番だったりします。 これはPrinter's Keyとかnumber lineとか呼ばれるもので、数列のなかにある最小の数値がその本の「刷」を表します。つまりその本が、何回目に増刷(重版)されたものであるかを示しています。たとえば、 と書かれていれば、そ

          洋書に印刷された数列「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」の謎

          新連載「文字の渚」(岩切正一郎)によせて——担当編集者より

          フランス文学者・詩人・戯曲翻訳家であり、わたしの母校・国際基督教大学(ICU)の学長である岩切正一郎先生による連載「文字の渚」が春秋社のウェブマガジン「web春秋 はるとあき」で始まりました。わたしが編集を担当しています。 * * * まずはどうしてこの企画に至ったのかを書いてみます。 わたしはあまり本を読む子どもではありませんでした。本格的に読書をするようになったのは、中学生の頃、それも受験に忙しくなったころだと記憶しています。進路とか世間とか人生とかいうものを考える

          新連載「文字の渚」(岩切正一郎)によせて——担当編集者より