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誰も見向きもしなかったものが、言葉の力でみんなに注目されるようになった話

みなさん、「町中華」はお好きですか?

ここ数年、ちょっとしたブームですよね。私は大好きで、町中華でラーメン、チャーハン、餃子にビールとくれば、これ以上ない至福の時間が過ごせます。

しかし、よく考えてみれば町中華って商店街に昔からある、何の変哲もない中華料理店なんですよ。お店の存在は以前から知っているし、確かに美味しいけど、並んで行くほどでもない。そんな店に光が当たったのは何故なのでしょうか。

私は、懐かしさと親しみがこもった「町中華」という言葉の力が大きかったのではないかと思います。

人間は、目や耳から情報が入っても「自分にとって意味がない」情報はスルーしがちです。
例えば、パーティーの会場で、ガヤガヤとした周囲の話し声は、通常は全く耳に入ってきません。しかし、その会話の中に自分の名前や、興味のある事柄が入っていると途端に会話の中身が聞き取れるようになります。

人間の脳は、外界の雑多な情報の中から必要なものだけを選ぶようにできているのだとか。これを「カクテルパーティ効果」と呼ぶそうです。

パーティー会場に限った話ではありません。
日々の暮らしのなかで、名もなき雑多な情報はスルーされますが、聞き手にとって意味があると思えば、その情報が目に留まります。伝えたい情報には、何かしらの意味づけをすることが重要なのですが、その際に分かりやすいのが「引っかかりのある名前」でしょう。

商店街の中華料理店の存在は、誰もが昔から認識していたのに、ずっとスルーされてきました。いわば、人々の意識の中で「雑多な情報」ボックスに入れられていたのだと思います。
しかし、そんな平凡な中華料理店をカテゴライズし、「町中華」というネーミングをつけて新たにジャンル化したことで(2016年に刊行された町中華の書籍がブームの起点と言われています)、人々がその魅力に気づいたわけです。
町中華という3文字を聞くだけで、近所の人が集うアットホームな雰囲気、店主のあたたかい人柄と美味しい料理が、自然と脳裏に浮かびます。思えば、町中華は絶妙なネーミングでした。

町中華と同じく、ちょっと懐かしい感じの飲食店に付けた印象的なネーミングが「絶メシ」です。聞いたことがある、という方も多いのでは。
「絶メシ」とは、地元に愛されてきた個人経営の飲食店のメニューのこと。こうしたお店は、時代の流れとともに消滅しかかって、放置するともう二度とその料理を味わえないかもしれない。そうした飲食店を救おうという試みです。

ただ単に「地元の飲食店を救おう」という話だけであれば多くの人の心に刺さらなかったでしょう。しかし「絶メシ」というカテゴライズとネーミングが共感を呼び、大きなムーブメントに成長し、ついには『絶メシロード』というテレビドラマにまでなりました。

自分の伝えたい情報が伝わらない、という悩みをお持ちの方は「町中華」や「絶メシ」を参考にしてみては、いかがでしょうか。

(担当:池田剛)

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