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短編の文学賞に挑戦を

 いらしてくださって、ありがとうございます。

 小説の書き方関連の記事はしばらくお休みのつもりでしたが、もうすこしだけ書かせていただきます。よろしければいますこし、お付き合いくださいませ。

 毎年この時期は、北日本文学賞という公募文学賞のホームページをチェックしております。
 一次~四次選考と最終選考それぞれの通過者の筆名・作品名がWEB上で発表されるので、そこに知人の名前を探すためです。
 現在、二次選考通過者までが発表されており、昨夜そこに彼女の筆名を発見。もっと先まで! と胸のうちでエールを送りつつ、これから小説公募に挑戦をとお考えの方に、短編公募の種類などについてお伝えしたいと思ったのでした。

 北日本文学賞は、富山県の北日本新聞社が主催。作家の宮本輝氏が選者をつとめておられ、地方からの新人作家発掘を目的としていますが、『短編小説の登竜門』として今年も全国から1000編近くの応募がありました(昨年の受賞者は東京都の主婦の方です)。
 
 原稿用紙30枚規定の受賞作は、元日の北日本新聞に全文掲載。賞金はかなりの高額で、受賞者は宮本輝氏と懇談し、小説を書く心得を伝授していただけるという、すばらしい公募短編文学賞(毎年8月末締切)です。

 
 以前の記事で、自分の書く小説がどれくらいのレベルか(小説になっているか)を確認するには『公募に挑戦するのが最善の手段』で、ある作家さまはまず短編の公募に挑戦、そこで結果を得てから長編に挑戦し、デビューが決まったことをご紹介しました。

 すでに「小説を書けている」方は、長編の公募、それも受賞作が出版され、かつ、歴代受賞者に現在も活躍中の作家の名前がある文学賞に挑戦したほうが、より早いプロ作家デビューにつながるはずですが、まずはレベル試しからという方は、短編の公募からとお考えになるでしょう。

 では、どんな短編公募を選べばよいのか、それらを探す手段の一つは、WEB上で文学賞公募などと検索すること。まとめサイトがたくさん表示されますので、その中から自分に合ったものを選んでいく。
 けれど、中にはどなたかの作った記事を転載しただけで確認もしないため、募集要項が最新でないもの、間違っているものも見受けられます。

 個人的にオススメしたいのは、公募ガイド社から発行されている『公募ガイド』という雑誌です(定価780円)。
 かつては月刊でしたが、現在は1・4・7・10月の9日に発売され、書店の文芸誌や月刊誌、あるいはパズル雑誌のコーナーに置かれています(すこし探しづらいので、店員さんに尋ねるのが早いかも)。
 
 この公募ガイドという雑誌、亡き小説講座の講師から「公募にチャレンジするなら必読ですよ」と十年ほど前に勧められ、以来、勉強になる記事が多いことから、小説を書いていない間もずっと購読しています。

 公募ガイドという誌名だけあって、アートや写真・動画のコンテスト情報のほかに、文芸関連だと「ネーミング・標語」「川柳・俳句・短歌」「詩・手紙・体験記」「エッセイ・童話・小説・脚本」など、各種公募の募集要項が数百件、掲載されています。

 小説公募のページでは、「締切日」「規定枚数(原稿用紙○○枚以内など)」「賞金額」「前回の応募数」「ジャンル(ホラー・SF・ファンタジーなど)」などの内容が一覧表記してあるので、短編の文学賞だけ、締切が近いものを、といった探し方ができます。

 これらの情報は、公募ガイド社の掲載基準(「主催者は原則として法人、入賞作品には賞金など特典が与えられる」など)のチェックを経ているため、信頼度も高いです(受賞したら出版できるといって募集しつつ、実は自費出版の集客だったとか、そもそも審査するつもりもなく出品料を要求されただけ、といった悪質な公募もあるのでお気をつけください)。

 そして特集記事、これが毎回読みごたえがありまして。
 最新号(秋号2023/vol.433)では、生成AIを使った小説の作り方を特集。アイデアの生成からキャラクター、プロット、本文の生成まで、順を追って実際の作成文例が掲載されていて、正直、AIがここまで出来てしまうのかと空恐ろしくなりました。
(★公募文学賞では、AIの使用を禁じているもの、認めているものとありますが、ほとんどが禁止、受賞後に使用していたことが発覚した場合は受賞取り消しと明記しているところもあります)

 このほかに、原稿用紙5枚の短編作品による誌上コンテスト『小説でもどうぞ』という企画もございます。
 選考委員は高橋源一郎さんのほか、回ごとにゲスト選考委員(最新号は凪良ゆうさん、次号は篠田節子さん)をお招きし、お二方が応募作を講評、最優秀賞は誌上に全文掲載かつ、Amazonギフト券一万円分が贈られます。

 また、「文章の書き方 基礎編」というページでは、原稿用紙と記号の使い方などが、「応募マニュアル」というページでは、応募原稿のワープロ書式について、文字のポイントや字送り、余白の設定などの詳細を説明していますので、初めて公募文学賞に挑戦する方には、このページだけでも保存版として参考にしていただけると思います。

 原稿用紙の使い方なんて、小学校の作文で習っているしとお思いになるかもしれませんが、たとえばセリフのあとに書いてしまいがちな「…」という記号、三点リーダーといいますが、これは原稿用紙なら2マス、つまり2文字分「いやよ……」と書くのが文芸的には正解(「いやよ…」ではなく)。「─」も同様で、「だって─」ではなく、「だって──」になります。

 また、!や?で文章が終わるときは、句点(マル。)は省略します(そうだったのか!。 ではなく、 そうだったのか! でよい)
 けれど、!や?の後につづく文章があるときは、「どうしたの?おかあさん」と詰めずに、「どうしたの? おかあさん」のように、記号の後を一文字分、空けます。
 
 こうした書き方の決めごとは、正直、文庫などの表記を見るに出版社によって差があったりもしますが(そも、正解はないとも言えますし、単純に校正ミスかもしれません)、新人賞の選考にあたっておられる作家さまのなかには、これらがきちんと守られていないと、「基本的な原稿用紙の使い方もできてない」(しっかり推敲もできていない)と判断され、応募作を「読む気にもならない」、と仰せになる方もおいでです。
 自分は出来ていると思っておられる方も一度確認なさると、意外に思いこみで違った書き方をしているところがあるかもしれません。
(小説講座の亡き講師は、最初にこれらの基本を徹底的にご指導くださいました)

 それと、「小説を独りで書いているけれど、小説講座にも興味がある」という方には、公募ガイド誌の通信講座の一覧も掲載されていますので、ご自身に合った内容と金額(「時代小説講座」「超初心者向け小説講座」「はじめての童話講座」などなど)の講座に出逢えるかもしれません。

(童話は書き方にいろいろと「お約束」があるそうで、独学でそれを会得するには指南本を読むか、こうした講座で習うのがオススメだと、童話賞の受賞経験のある知人から聞いたことがあります)

 ちなみに。
 短編の文学賞は「宮古島文学賞」「仙台短編文学賞」のように地方主催のものが多く、それらは受賞しても作品は小冊子になるだけで(ならないことも)、本として書店に並ぶことはほぼありません。
 けれど、受賞すれば現地での授賞式に招待され、いろいろと素敵な経験ができることも──。

 もう十年近く前ですが、原稿用紙80枚の短編で大賞をいただいたときは、現地の授賞式に出席し、壇上で受賞の言葉のスピーチをして賞金目録を受け取り、新聞社の取材も受け、美味しい食事を御馳走になり、現地各所を案内され駅まで車で送迎、往復の新幹線代は先方負担で名産品のお土産まで持たせていただくという、このうえない経験となりました。
 また、別の短編賞では大賞ではなかったため、旅費と宿泊代は自己負担でしたが、授賞式とその後のパーティーで選考委員の萩尾望都さんと夢枕獏さんとお話しでき、夢のようなひとときを過ごせました。
 小説講座のお仲間は、ある賞で佳作の数年後に大賞を獲られましたが、授賞式から戻られて「大賞とそれ以外とでは、扱いが天と地だったわ~。もうお殿様になった気分で最高だったわよ~」と仰せでした。

 一方で、『女による女のためのR-18文学賞』は原稿用紙30~50枚の短編賞ですが、新潮社主催ということで、たとえば『52ヘルツのくじらたち』で本屋大賞を受賞された町田そのこさんは、ここでの受賞作をもとにした短編集でプロデビューを果たしています。

 原稿用紙30~100枚までの短編が対象の『オール讀物歴史時代小説新人賞』は、募集要項のページに『プロ作家への登竜門!!』と大書されているように、こちらも文藝春秋主催で、受賞すれば編集さんから今後についてアドバイスもあるようです。

 賞によっては、受賞はならずとも最終選考に残れば、選考委員の作家さまの選評がいただけるものもあります。そこでは自分の小説の何がよくて、何が足りなかったかが指摘されているので、とても役立ちます。

 短編といっても、原稿用紙5枚~100枚というように、募集要項にはずいぶん差がありますので、ショートショート的な物語(オチのつけかたなどが大変ですけれど)が得意な方、あるいは300~400枚の長編はまだ挑戦できないけれど80枚くらいなら書けそうだという方など、どの賞に応募するかは枚数で決めるのもありかと思いますし、好きな作家さまが選考委員をつとめておられる賞や、締切までの日数、賞金額、プロデビューへの近さなど、好みの基準で応募先をお決めになるのもよろしいかと。

 どの賞に応募されるにしても、まずは締切日(既刊最新の『公募ガイド秋号』をこれから購入される方は、締切がすでに過ぎているものがありますのでご注意ください)など、募集要項をかならず、よく、ご確認ください。
 
 地方主催のものでは、その土地の住民か、そこに勤務か通学をしている者しか応募できないという制限があるものもございますし、その土地にちなんだ風物を取り入れた作品、学生のみ、という縛りがあるものも。
 
 そうしていざ、短編公募にチャレンジを始めると、締切に間に合わせるという目標ができたことで執筆にも力が入りますし、応募を済ませたら、一次選考通過~受賞連絡までの間、ワクワクしながら過ごすことができます。
(こまめに予備選考通過のたびに連絡をくださる賞もあれば、受賞作が決まってから落選通知が郵送されてくるものも)

 落選するとしんどいですが、最終まで残っていれば選評がもらえますし、 小説仲間のある方は、毎月コンスタントにどこかの短編賞に応募し、毎月当落の連絡がくるようにして落選のショックを軽減しておられました。

 WEB上で作品を公開し、感想をいただくのも楽しいことですけれど、公募は「作品を読む力」のある選者が評価してくれますので、上達はこちらのほうが早いかもしれません。

 もう一つの効用として、北日本文学賞や太宰治賞のように、WEB上で予備選考の通過者が発表されるものは、毎年見かけるお名前を覚えてしまうもので、「あの人は昨年は一次どまりだったけど、今年は二次通過してる」といったことがわかるようになり、自分も負けられないというモチベーションアップにもつながります。

 私自身、長編に取り組もうと思いつつ、結局一行も書かずに何年も過ごしてきましたが、先日来の小説関連の記事を書きながら、公募に挑戦していた頃のワクワクを思い出し、またやってみようという気持ちが高まっています。
 プロデビューに直結しなくとも、入賞すれば自信がつき、賞金をもらえればラッキーですし(額によっては還付になるケースがほとんどですが、確定申告が必要なのでお気をつけください)、せっかく小説を書いておられるのなら、WEB公開だけでなく、ぜひとも公募にチャレンジされることをオススメいたします。
(★WEBを含めた「公開済」の作品の応募は認めない、としているところがほとんどですので、そうした公募には未発表の作品を)

 最後に念のため申し上げておきますが、私は公募ガイド社とは何の関係も御縁もございません。
 初めて公募に挑戦する方には、原稿の書き方から特集内容、応募先まで、痒い所に手が届く内容がわかりやすく網羅されており、私自身、ここに掲載された中から選んだ短編賞で受賞していますので、みなさまにもオススメする次第です。

 
 とはいえ、賞によっては、とてもレベルが高いものもあります。過去の受賞者の中にプロデビューされている方がいる、プロへの登竜門的位置づけで、腕に自信のある方が多数応募している、というような。
 それらはWEBで公開されている過去の受賞作や受賞者などを確認するしかないのですけれど、何年チャレンジしても一次選考にも残れないときは、一度、他の賞に切り替えてみる(ジャンルの好みがあったりもしますので)、あるいは小説の書き方指南本を読んだり講座に通ってみたり、または信頼のおける読み手に読んでもらって、どこがダメなのかを聞いてみる、などの対策も検討されるとよいかと思います。

 ひっそり公開している記事ですが、お読みくださって反応をくださる方々が、望む作品を書き上げられますように。そしてぜひとも公募にチャレンジされて、結果を出せますよう御健筆をお祈りしております。

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 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 各紙に掲載された伊集院静氏の追悼文を読んでおりますが、これまでのところ、桜木紫乃さんに勝るものはないかと。
 日経新聞に以前掲載されていたエッセイも、選ぶ言葉、まとめ方の素晴らしさに毎回、ああ、いいなぁと思っておりましたが、実は小説作品は未読なのです。作品紹介などによれば、どれも男女の性愛がらみと思われ、それらが苦手なものでどうしても手が出ず。
 けれど今回の追悼文の素晴らしさから、やっぱり桜木紫乃さんの文章はいいなと感じ、小説も読んでみようと思ったものの……さて、どれが読むべき一冊かと迷っております。
 桜木紫乃作品をお好きで何冊かお読みになっておられる方、ご面倒でなければ、おすすめ作品などご教示いただけますと大変助かります<(_ _)>
 やっぱり一冊目は直木賞受賞作のホテルローヤルあたりでしょうか。

 今日の当地、陽射しがぽかぽかで心地よいです。
 明日から師走でなにかと慌ただしくお過ごしの方もおいでかと存じますが、どうぞみなさまご無理なく、佳き日をお過ごしになれますように。

 

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