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『妻が椎茸だったころ』読了

 いらしてくださって、ありがとうございます。

 中島京子さんの作品は、『長いお別れ』、『夢見る帝国図書館』(いずれも文春文庫)、『かたづの!』(集英社文庫)を読んできましたが、著者の作品リストのなかの『妻が椎茸だったころ』という一冊がずっと気になっていました。
 書店に取り寄せをお願いした本作は、2013年に講談社から刊行後、2016年に文庫化。購入したのは2017年発行の文庫第3刷です。

 五つの短編が収録されており、表題作をのぞく四編は20~30代とおぼしき女性が主人公で、日常と隣り合わせの狂気や、猟奇的あるいは怪奇な出来事などが鮮やかに描かれています。

 表題作『妻が椎茸だったころ』の主人公は、定年退職の二日後に妻を亡くした男性です。
 妻が予約していた料理教室に、ひょんなことから参加せざるを得なくなった主人公ですが、その準備のさなか数冊のノートを見つけます。
 妻が遺したその雑記帳は、料理のレシピのほかに日常のあれこれ、愚痴や自慢なども短く書きつけられており、そこに「私は椎茸だった」という謎の一文があったのでした。

 謎は謎のまま、なんとも不思議な味わいの物語は七年後の現在に飛んで幕を閉じますが、読み終えて「ああ、いいなぁ」とうなずきつつ、ちょっぴり涙腺もゆるんでしまいました。
 本書タイトルに選ばれただけある、五つの作品のなかで一番読後感がよく、胸に沁みる物語でありました。

 不思議が描かれる物語というのは、ときにご都合主義的でずるいとさえ感じるものもありますが、本作は(謎は謎のまま、不条理ではあるものの)「世の中にはそういう不思議もあるかもしれない」と思わせてくれる、絶妙なリアル感がありました。
 この絶妙なリアル感、先日読んだ『かたづの!』でも、どこまでが本当でどこからが虚構なのかが本当にわからなくて、作中に登場したあれこれを実在かどうか検索してしまったのですが、本作でもいくつか検索をかけてしまい、今回も完全に作者の術中にはまってしまったのでありました。

 この『妻が椎茸だったころ』は第42回泉鏡花賞を受賞しています。
 泉鏡花賞は金沢市が主催する文学賞で、過去一年間に刊行された小説などのなかから「ロマンの薫り高い作品」が選出されており、過去の受賞者には京極夏彦さんや夢枕獏さん、角田光代さんや小川洋子さんなど錚々たる顔ぶれが並んでおりました。
 ただ不思議を描くだけでなく、そこに深い味わいを感じさせる物語。『妻が椎茸だったころ』はまさしくそんな作品でした。

 ちなみに本書は1ページが38字×15行で文字がすこし大き目で読みやすく、五編それぞれが原稿用紙換算で37~54枚という長さなので、一時間足らずで読み終えています。とくに表題作の物語は、干しシイタケと格闘する主人公の姿にふふふと笑いが洩れてしまう愉しさもあり、おすすめです。
 機会がございましたら、みなさまもぜひ。

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 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 現在、10年使ってきたパソコンが壊れかけております。もはやマウスも使えずクリックも反応せず、キーボードだけで操作できる範囲も日々限られてきており、5年使っているスマホはアップデート不可でバッテリーも息も絶え絶え、こちらも使える機能がわずかとなってきました。プリンタは二年前から壊れたままで、いずれも買い替えは当面難しいため、こちらでの更新もみなさまの記事を拝見するのもいつまでできることか……というわけで、突然更新が途絶えてもどうぞご心配なさらないでくださいましね^^; 

 ようやく暑さも過ぎゆき、今日の東京はすずやかな風が心地よいです。
 心さわぐこと多き日々ではありますが、まずは己の足もとを見つめて、生かされてある現状すべてに感謝しつつ、できることを誠実に為してまいりたく。

 みなさまにも今日が佳き日となりますように(´ー`)ノ

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