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洋楽や洋書などをオシャレに和訳する方法

"I love you"を「月は綺麗ですね」と訳せと言ったのは夏目漱石だっただろうか。

とりわけ洋楽や洋書などの、話し手の感情の機微が重要視されるシチュエーションにおいては、そのまま英単語を直訳するだけではのっぺりとした印象になってしまう。
そんな時は、訳者が文全体の話し手の感情や意図を汲み取って、適切な日本語に落とし込んで和訳する必要が出てくる(これは「意訳」と呼ばれる)。

そこで今回は、以前(狂ったように)ディズニーソングを和訳していて、有難いことに高評価を頂けていた私が、そんな「意訳」の方法を解説してみようと思う。
ちなみに、その時投稿していた私のYoutubeチャンネルはこちら(現在更新はお休みしています)。

*正確性のない「意訳」はとりわけ受験英語では嫌われます。試験で言う"英文和訳"としての参考にはしないでください。

意訳の仕方

まず意訳するにあたり、その英文がどういうシチュエーションで語られているのかを捉える。ラブソングなら愛する人へ向けているのかも知れないし、ディズニーランドで流れているような曲なら来園者に向けているのかもしれない。
この"シチュエーション"が、意訳するうえでの大切な軸になる。

実際に意訳するうえでの流れを説明したいのだが、やはり実例がないと分かりづらいので、今回は私が実際にYoutubeで和訳を行った、東京ディズニーシーにてかつて行われていたナイトハーバーショー、「ブラヴィッシーモ!」から"Swept Away"という曲の歌詞で解説する。

神曲なのでとりあえず聴いて欲しい。

さて、意訳に入る前にシチュエーションを捉えたい。
このショーは全体で約25分もあるので、それを全てつらつらと述べるわけにもいかないから、要点をまとめてショーのストーリーを整理する。

①登場人物は、水の精「ベリッシー」と火の精「プロメテオ」。それぞれ別の世界に住んでおり、お互いに顔を合わせることは無かった。
②そんな2人は奇跡の出会いを果たし、恋に落ちる。
③しかし、この恋は禁断の恋でもある。水と火という相反する概念。2人が合わさると水の精は消えてしまう…?(この点は公式には発表されていないものの、実際のショーではそのことを暗示している)

この曲は、そんなストーリーの最後にエンディングとして流れる曲である。そのことを踏まえて実際に歌詞を意訳してみよう。

[ベリッシー(女性ボーカル)]
・Once upon a time just a moment ago
I was but a soul on my own drifting out at sea all alone

*Once upon a time:物語のはじめに語られる「むかしむかし…」のイメージ
*drifting out:漂っている

さて、Aメロは水の精ベリッシーが担当している。Once upon a timeという歌詞から、過去を振り返って想いを馳せている情景を掴む。
「むかしむかし」と、"a moment ago(ほんの少し前)"という対立した意味からして、justの前にはbutを補ってあげてもよい。

これを踏まえるとこんな感じ。
むかしむかし、とはいえほんのちょっと前のことにも感じられるけれど、私は大海原を独りぼっちで彷徨う魂に過ぎなかったの」(語尾は女性風に)

・Carried by your strength my cold loneliness
Here upon the shore of your heart finally came to rest

*loneliness:孤独
*come to do:~するようになる(ここでは過去形)

さて洋楽あるあるなのだが、色々と省略されている。特に主語が消えがちだ。適宜補ってやろう。
文頭は分詞構文になっている。これは恐らく「原因・理由」の分詞構文であろう。
そんなわけで色々補うと、正式には"As I was carried by…"といった具合だ。

"your strength"の"your"とは誰か?勿論、愛する相手であるプロメテオであろう。つまり、ここはそんなプロメテオに向けたメッセージになる。

(ちなみに、これはどうでも良いんだけれど、"sea"で漂っていて(ひとつ前の歌詞)、"shore"で休めることが出来たという単語選び、めちゃくちゃオシャレだよね)

以上により、この文の意訳はこんな感じ。
あなたの強さに支えられたおかげで、私の孤独に苛まれた心は、あなたの心の傍でようやく休めることができたのよ

[プロメテオ(男性ボーカル)]
・Worlds colliding unexpectedly
Come alive in harmony
unexpectedly:予想外の、思いがけず
come alive:活き活きとした

さて今度はプロメテオが歌い手。
ストーリーを思い出すと、2人は元々別の世界に住んでいた。従って、World"s"とは、そんなお互いの世界を表していると言えよう。突然出会ったふたり…。
次が頭を悩ませるポイント。「ハーモニーの元に活き活きとする」…こういう所で、"夏目漱石"力が求められるのだろう。
私はどうしたかというと、この後2人で一緒に歌うので、呼びかけみたいなイメージで訳した。

それぞれの世界は思いがけずぶつかるんだ。さあ、一緒にハーモニーを奏でよう」(語尾は男性風に)


…といった感じで私は意訳している。私のフルの和訳が気になる方は以下からどうぞ。

ちなみに、私が更新を休止した大きな理由も、この「意訳」という概念そのものが原因になっている。
そう、訳者の感性に委ねられるのだ。それに、英語の意味が分からない者にとっては、私の和訳をそのまま「歌詞の意味」として理解してしまう。

私にその責任を負えるほどの確かな感性があるのだろうか?…その答えは否だった。

ハッキリ言って意訳はただの二次創作だ。本当の意味を知りたかったら、英語を学び、英語に触れ続け、「英語脳」に入って知るしかない。

そう思うと、翻訳家には本当に尊敬の念を抱く。まあ、稀に「なんだよこれ、まともに和訳やる気なかっただろ」って本に出会うことがあるのだけれど…(小声)

おわり

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