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京ちゃんの金言

私の名前は笠井むつき18歳。この春、高校を卒業する。
私は、生まれてから自分の顔がダイキライだ。眉毛はゲジゲジ、目はギロギロしてて、鼻はツンツンしてて、気の強い女に見えてると思う。
JKなんてものとはほど遠くて恋愛もしてこなかった。正確にはできなかったんだと思うけど。
でも、友達はそれなりにいて、カラオケに行ったり、買い物に行ったりなんかもしてたし、プリクラだってみんなで撮ったりしてきた。でも自分に似合うような服はないし、化粧なんて私なんかがしても仕方ないから買うものはなかった。制服で事足りるし、若いんだから普通すっぴんだしと思ってたから。

一方でどうせ私なんかがしても似合わないし、笑われるってそう思っているんだけど、本当は私だっておしゃれもしたいし、あわよくば可愛くもなりたいし、恋愛だってしたいのに。どうしてもこの自分ができるとも思えなかった。

私は高校を卒業したら、このまま地元で就職する予定で勤務先はホテルのフロントだ。社会人になるってことで、身なりをどうにかしないとならないことはわかっている。しかも、地元ではそれなりのホテルなのでガッツリ接客だから、より求められることもわかっている。
それもそうだし、仕事中とかに印象悪くてクレーム受けるのも嫌だ、絶対に。となれば、小綺麗にして印象良くしないとと思い立って、友達の京ちゃんに意を決して相談してみた。
「ねー京ちゃん。お願いがあるんだけどね…えーーーっと」

「ん?なになに?むつきがお願いとかめずらしいんだけど!言ってみて」

「いや、ほら、社会人になるからさ、仕事のためになんだけどね、ホテルのフロントとかってさ身なりをちゃんとしなくちゃならなくてさ、お化粧のやり方教えてほしいんだよね」

「むつき!やっとやる気になったんだね!よしよし、うんうん、いいよいいよ!ゼーったい可愛くしてあげるから」

「いやー可愛くなくていいからさ。可愛くなんて無理だし。とにかく印象悪くならないようにしたいだけだから…」

「大丈夫!まかせて!ひとつ言えるとしたらね、むつきはかわいい素敵なフロントレディになると思うよ」

「そーゆーのいいから、簡単でいいから、使うものと、順番と、使い方を教えてください。お願いします」

「私の言うとおりにしたら大丈夫だからねっ。まずは眉毛を整えるからね」と、カットしてくれた。

「あれ?京ちゃん、少しカットしただけなのに、なんか綺麗な眉毛に見えるね」

「もう、むつきは疎いからなー。みーんなしてるんだよ。してなかったら、私なんて西郷隆盛だよ」

「えーーーーうそだーーー」

「本当だし、むつきの眉毛は整ってるよ」と京ちゃんは笑った。

そうして京ちゃんのレクチャーを受けたんだけど、化粧品の名前ってカタカナで長くて覚えられないし、不器用だから私がやると曲がったりするし、なんか濃くなるし、お化けみたいでガッカリした。

「京ちゃん…こんなんじゃ…ダメだね」

「大丈夫!練習だよ練習。はじめはみんなうまくなんてできないんだからいいの、次はもっとできるから、必ずできるから!そうだ、お化粧ってね上手にするっていうかね…むつき、大根てさ土の中で育ってさ収穫するじゃない?収穫した時って泥だけなんだよね。あれはさ、土を落として洗って磨いて、そしたらさ、どの大根も白くて綺麗な大根になるんだよ、顔も心も同じだよ。だからね、顔も心と思って愛でてあげたらいいよ」

京ちゃんは、いまどきのJKだけど、時々真をつく。

なんだか、今までの自分が恥ずかしくなってしまった。別にお化粧するとかしないとか、オシャレするとかしないとか、そんなことじゃなくて
私って、どうせどうせばっかりで、自分のこと大切に思えてなかったのかもしれないって、そう思えて恥ずかしくなってしまった。

今日から心と同じこの顔を労って愛でてみよう、そう思った。そして今までのこと、謝らなくちゃ。

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