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神戸|有機農園でのこと / ここは土と暮らしが近い街

最近、スーパーで新玉ねぎをよく見かける。つやつや白い小ぶりの玉が袋いっぱい並んでいて嬉しくなる。

西神戸に来てから、野菜がとても身近になった。単純に食べる機会が増えただけでなく、生産の現場が近くなったという意味で、身近になった。有機農園で半年間くらいボランティアさせてもらうというラッキーに恵まれたのだ。


有機農園との出会い

ボランティアとして受け入れてもらっていたのは、神戸市西区にあるNaturalism Farmさん。一年を通じて少量多品目で色々な野菜を作っている有機農家さん。米や麦や、キャベツやレタス、ときにはディルや鞍掛豆みたいなスーパーで見かけない野菜も育てている。


つくった野菜をCSAという仕組みでお客さんに直接届けるほか、週末はマルシェやイベントに出られていたり、同じ有機農家を志す人に研修を開いたり、多方面で食と農を支えている。こないだは六甲道でたまたま入ったお店がこちらの米麹を使っていて、裾野の広さに驚いた。

ここに書き尽くせないほど広範なことを、たった数人とヤギとニワトリが回す。ヤギもニワトリも野菜作りの循環に参加するメンバー


そもそもなぜ農業ボランティアという選択肢に辿り着いたのか。
それは、去年の夏に英国エディンバラのコミュニティガーデンに参加したことがあり、神戸でも野菜作りに関われないかと考えたことがきっかけだった。
英国のガーデンと日本の農園は規模も四季の激しさも違う。ただそこは素人の強さである。「土にさわれるならばなんでもいい」、そんな意気込みだった。

そしたら、怠農研という、「ボランティアをしたい人」と「手伝いたい人を求める農家」を繋ぐプラットフォームを見つけた。そこで紹介されていた農家さんの一つであったNaturalism Farmのコンセプトと、オーナーご夫婦の表情が印象的で、申し込みを決めたのだった。

敷地の広さに一瞬及び腰になった…けども
もう後に引けない


五感がよろこぶものだから

農園では、幅広くいろいろなことをやらせてもらった。
草刈り、畝作り、苗の植え付け、収穫、片付け、出荷準備。玉ねぎ、レタス、にんじん、さつまいも、豆、大蒜。

気温が高いとき、レタスなど葉物の苗は、ポットから出したらすぐに植え付けなきゃいけない。裸で土の上に放置しては暑さで弱ってしまうから。

さつまいもの収穫は周囲から慎重に。スコップを差し込む場所を間違えると「サクッ」と手に伝わるのはいもが割れた音だ。ひー。

気まぐれに近づいてくれるムギちゃん


研修とは違い、あくまでボランティアなので農を体系的に学ぶものではない。それでも、流れる現場の中に身を置いていると、五感の全てが刺激を受けて、すごく面白い。

久しくかいたことのない汗と土にまみれて、長年のデスクワークで培ったカチコチの体がびっくりしている。大変な作業ではあるけど、心も体も「家にいるよりこっちがいい」と喜ぶものだから、できる範囲でたくさん通わせてもらった。それでも農園スタッフの慣れた俊敏な動作を見ていると、私は相当マイペースだったに違いない。


ファストペースな職場です

「今週なにかお手伝いできることありますか?」と伺って、ランダムにお邪魔する。フルタイムワーカーでは考えられないマイペースさは気楽な一方、「流れ」とか「次にやるべきこと」がなかなかわかってこない。

ヤギと鶏のいる有機農園ときくと牧歌的なイメージが浮かぶけど、実はかなりファストペースな仕事環境である。
週末雨が降るから今日のうちに〇〇を収穫。午前の出荷に間に合うように朝XXを収穫して袋詰め。来シーズンは△△を出すから、苗の植え付けのためにあの畑を片付けなければ。

オーナーとスタッフさんたちが素早く判断しながら日々違う作業を組み立てていき、わたしはそれにうまく組み込んでもらう。自分で流れを設計しなきゃいけない会社での立場と違って、ここでのわたしは手を動かすだけだ。雇われて働くとなると、また違う景色が見えるのだろう。企画から生産・出荷、ときには販売まで手がける農園という経営体には、無駄のない緊張感とダイナミズムがある。

忙しくてもあたたかい場所


玉ねぎを植え付けから出荷まで

半年間通っているうちに、ひとつ長く関われたものがある。それがタマネギだ。

「今日はタマネギ植えるよ」
いつも以上に気合いの籠った声につられて向かった先は、なんと100平米くらいの土地×2つ、3つくらい。残暑の厳しい秋の初め頃だったかな。

マルチに等間隔で穴を開けていく
ちいさな苗を、開けた穴に素早く植え付ける。
いくつ植えただろうか
ハクセキレイの足跡を見つけた🐾

秋が来て、寒くなってからもケアは続く。

冬、極寒の中、雑草を抜く
おいしそう
春が近づく頃、本格的に収穫期。すっぽすっぽ抜けて面白い


端っこのほうの、雑草が幅を利かせているゾーンは球が小さいとか、葉身部(ねぎみたいな部分)が大きいからといって球も大きいとは限らないとか、収穫して初めて気づくことが多い。

ちなみに自宅(賃貸)についている小さな庭でも苗から育ててみたけど、ペコロスサイズにしかならなかった。
日照・風通し・水捌け・土・手入れ、野菜はいろんな条件の賜物だ。

我が家のペコロス(ではなく、新玉ねぎ)


その土地を知りたければ、土に触れることから

もし、引っ越しか何かで新しい土地にやってきて、その土地と仲良くなりたいと思ったら、土に触れてみるのは良い選択肢かもしれない。

それはつまり、「食べ物が育まれる場に行くこと」だ。農業ボランティアやコミュニティガーデンのような機会があれば最高だし、ファーマーズマーケットや地場スーパーに行くだけでも見えてくるものはある。

そこがどんな気候で、どんな生き物が暮らしているのか。そこでどんな野菜が育ち、その野菜を育てているのはどういう人たちなのか。

体を動かしながら、目や脳だけでなく耳で、手で、鼻で、胃で。少しずつ理解していく。ネットや本でわからないことはたくさんある。


わたしはNaturalism Farmにお世話になったことで、神戸という街が、「農」と「都市」が強く結びついた場所だと知った。

こだわりの野菜を作る個人農家と地域物流があって、それを求める人たちがいる。神戸は国際的な街というイメージがあったけど、こうした一面もあることはいままで知らなかった。昨今の、遠くの作物が均一的な品質で安く手に入る大規模サプライチェーンの輪から外れて、ここでは生活の近くに畑がある。

とれた芋で作ったスイートポテト


ちなみに畑で学んだのは、野菜のことだけに限らない。
地域の面白いこと。
例えば、ヤマダストアーという、回るだけでわくわくする楽しいスーパーがあること、海沿いの台湾料理屋さんが絶品なこと、コンブの持株会という素敵イベントがあることを教えてくれたのも、農園の人たちだった。

ここは、食を生み、人の繋がりを育む畑。こんな場所があることに、一市民として心強さを感じる。

農園にいたケリ

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