【二次創作】シン・ウルトラマン対シン・仮面ライダー⑤

本郷「……はっ!」「ここは……」

赤い空間。
本郷猛は、気づけばいつのまにかそこに立っていた。
本郷はあたりを見渡す。

本郷「ここは……」「!あなたは!」

緑川博士「……う……」

そこには、緑川弘が寝かされていた。

本郷「緑川博士……」「(の、平行同位体……か)」
本郷「しっかりしてください」

緑川「……君は……」「本郷猛くん、か」

本郷「!なぜ僕の名を……」「……そういうことか」

メフィラス「お察しの通り。ザラブの技術を転用して緑川弘に別世界の君の記憶を転送した。あくまで君の残した記録を与えただけだ。緑川弘としての記憶がすべて備わっているわけではない。だがプラーナについて理解するには十分だった」

緑川博士「……君が仮面ライダー1号、というわけか」
「罪なことをしたものだな、別世界の私は」

本郷は首を横に振り、立ち上がる。
メフィラスを睨みつける。

本郷「この空間は何だ」

メフィラス「プランクブレーンだ。君たちが普段住んでいる空間からは切り離された別の空間だよ」
メフィラス「君の知っている言葉でいえば ハビタット世界というのが近いかな」

本郷「(ハビタットは精神世界だがここは物理的な空間だ。生身ごと転送されたか)」

本郷「こんな真似をして我々をどうするつもりだ。地球人類が黙っていないぞ」

メフィラス「声を荒げないでくれるとありがたい。そういう会話は好みではないのでね」
メフィラス「緑川博士はもともとプラーナに近い研究をしていた。だがこの世界では禍威獣が出現したことで研究が中断され、学会では無視される存在となった。それが彼を今の位置に留めている」
メフィラス「しかし」「私は緑川博士に研究の機会を与えてあげようと思う」

本郷「なんだと…」

メフィラス「プラーナはまさに緑川博士の研究の結晶と言っていい。その機会を与えてあげようというのだ」
メフィラス「その男・本郷猛は君のために用意した先行研究資料であり、被験者だ」

緑川博士「……」

本郷「博士がそんなことに耳を貸すわけがない」

メフィラス「そうかな」
メフィラス「緑川弘がなぜプラーナ研究に手を染めたのか君も経緯は知っているだろう」

「妻が亡くなり、息子のイチローがバイク事故で重傷を負った。その絶望から這い上がるためにプラーナ研究に着手したわけだ」

メフィラスがパチンと指を鳴らす。

本郷「……!!」

そこには……

緑川イチローが、車椅子に座っていた。
ただしそれは見慣れたチョウオーグの姿ではない。
目はうつろ。頭には包帯が巻かれ……
両手足が欠損していた。

メフィラス「私の提案は」

「誘拐ではない」

「救済だ」

本郷「……まさか……博士……」

緑川博士「その通りだ」「半年前、私の息子はバイク事故に巻き込まれて、両手足を欠損したのち半身不随となった。また脳挫傷で重度の脳機能障害を負った」

緑川「それもただの事故ではない」
「ウルトラマンだ」

本郷「!!」

緑川「半年前、新宿にてウルトラマンとザラブとの戦闘が勃発した。その際に車線を低空飛行するウルトラマンに驚いた車が、ブレーキとアクセルを踏み間違えた」「そして転倒した息子をバイクごと轢き潰した」

本郷「……」

緑川「不幸な事故と言える。仕方ないことだと。誰のせいでもないともわかっている。だが私にとって重要なのは、私自身の無力感だった」

メフィラス「禍威獣の影響でプラーナ研究はストップし、ウルトラマンの影響で息子は人生を失った」「人として同情の余地があることは疑いようもない」

緑川「わかってくれ、本郷くん」

本郷「……いけません博士……実験なら自らの手でやればいい!僕も協力します!それをメフィラスの手で……」

緑川「私は数十年分の研究を失った」「君のいた世界では何年もかけてやったことを、ごく短い期間でやり遂げねばならない」「息子を取り戻すために何十年もかけるわけにはいかないのだ」

緑川「今ここで必要なことなのだ」「わかってくれ」

本郷「……博士、あなたは正義の心を持った人だ。だから僕に託した」

緑川「そうだとも。私は狂った正義の持ち主だ。だから君を勝手に改造して戦いに巻き込んだ」「わかるだろう?」

メフィラス「本郷猛。君が自ら検体となればことは丸くおさまる。私はプラーナ技術を手に入れる。博士は息子を取り戻す。もしかしたらずいぶん昔に亡くした妻も取り戻せるかもしれない」
「そうして帰れば緑川ルリ子は幸せな家庭で生きていける」

本郷「……」「博士」
「ルリ子さんは」「それでも幸せそうに見えた」「自分たち家族に起きた出来事を受け入れたからではないでしょうか?」「そこから逃げることはできない」

緑川「……」「……私は違う」

本郷「……」「……メフィラス」
「博士とイチローさんと僕をここから出せ。今すぐに」

メフィラス「わかっていないな。ここはプランクブレーンだ。プラーナは存在しない。緑川博士と緑川イチローの生命エネルギーをのぞいてね」

メフィラス「私と戦うなら君は2人の命を犠牲にしなければならない」「その決断が君にできるかね?」

本郷「……」「……」「いいや」「命はここにもある」

ダッ

生身でメフィラスに襲いかかる本郷。
変身は、していない。

本郷「(だがプラーナの余剰エネルギーはまだあるはず…!多少なりとも!)」

メフィラス「猪突猛進」「私の苦手な言葉です」

ビビビーーーーッッッ

メフィラスの手からグリップビームが放たれる。

本郷「ガアッッ!!!」

メフィラス「許してくれ。これでも相当威力を抑えているのだ」
「人間本来の肉体は脆い。この程度の攻撃でも通常ならば全身が炭化するだろう。だが」「君は生身のまま悶え苦しんでいるだけだ」

メフィラス「やはり人間には価値がある」

バチバチバチバチバチ

本郷「価値だと……ッ!」

メフィラス「そうとも。進化の価値がある」

メフィラス「外星人の多くにはすでに価値がない。ザラブも、バルタンも、ケムールも。彼らは進化しきった成れの果てだ。それ以上の発展性はない」

激痛の最中、本郷の脳裏に爆散したケムールの姿が浮かぶ。

本郷「だから……手下にして……使い捨ててもいいとでもッ……!!」

メフィラス「地球人類は未熟だ。進化の余地がある。投資する価値がある」
「前程万里。プラーナによるオーグメントへの進化がそれを証明している」「マルチバース世界においてもこれほど可能性に満ちた種族は存在しないのだよ」

メフィラス「私は……君たち人類が好きだ」「どうしても手に入れたい」

本郷「ッ……」「……それはッ……」「……お前…が……」
「……進化を……止めた……から……だ……ろう……」ガクッ

気絶する本郷。

メフィラス「……」「捨て台詞。私の苦手な言葉です」

緑川博士「……」

メフィラス「問題ない。攻撃は検体に影響は出ないように調整しておいた。さあ、はじめたまえ」

メフィラスが手を広げると、プランクブレーンが解放され、地球の地下室への入り口が開く。

広大な研究施設。
中には誰もいない。
整理された薬品が大量に並び、
大量の医療器具と、手術室まで備わっている。
いくつかの地球には存在し得ないであろう器具も並んでいる。

緑川「この施設は……!この器具は……?」

メフィラス「ここは、かつてこの世界で『ショッカー』となるはずだった組織の地下研究所。たまたま付近に禍威獣が出現したことで構成員たちは滅ぼされ、闇に葬られた」

メフィラス「これだけでは心許ないので我々外星人の技術を転用した器具を揃えた」

メフィラス「すべてはあなたのものだ、緑川弘」

緑川博士の目の色が変わる。

本郷猛が手術台に乗せられる。

緑川博士がイチローの車椅子を手術室まで押して呟く。

緑川「……」「……許せ、本郷くん」

緑川「私は君を知らない」

緑川「私は、君の知る緑川弘でもない」

「私は、息子を取り戻したいだけの……ただの父親なのだ」

メフィラス「罪悪感を抱くことはありません」

「彼は一度死んだ人間だ」

メフィラス「本郷猛に、生きる理由は、もはやない」


※ ※ ※


禍特対対策本部。

神永は緑川ルリ子に付着している緑川弘の匂いからメフィラスの位置を割り出そうとしていた。

神永「……」スンスン

ルリ子「……ぅ……」

だが……

神永「……ダメだ。時間が経っていて体臭が薄くなっている。発見できない」

浅見「慣れ、ってのもあるでしょうね」
浅見「あなたにウルトラマンの力が……残っていたとしても。あなた自身は人間なのだから、それをそのまま使えるわけではない」

滝「そもそもほんとに変身できるんですか?それ。記念品とかではなく?」

田村「ウルトラマンはお土産を置いていく性格でもないだろう」「しかし匂いでもダメなのか」

一同に重たい空気が流れ始める。
このまま打開策が見つからなければ、メフィラスが本郷猛と緑川弘に何をするかわからない。

神永「最悪の事態はメフィラスがプラーナで強力な軍事力を得ることだ。それを自ら行使するか、人類にばら撒くのか……どのみち光の星から再びゼットンが派遣されてもおかしくない事案です」
「そうなったら今度こそ終わりだ」

滝「ああもう!」ガシガシ
「本郷さんの残してった匂いの痕跡って他にないんですかね??これじゃあ埒があかないですよ」

船縁「そもそもメフィラスは匂いによる探知を対策しているのでは?前回痛い目に遭ってるわけですし」

田村「その可能性が高いな……」「どうにかしてメフィラスの居場所を探らないと」

浅見「本郷さん……」

メンバーに沈黙がのしかかる。

そのとき。

ルリ子「あの」「少しいいですか?」

沈黙を破り、緑川ルリ子が手を挙げた。

田村「…なんでしょうか?」

ルリ子「その、メフィラスを追うためには数値化される前の痕跡情報が必要なんですよね?匂いとか」

神永「ええ」

ルリ子「それならプラーナを追えばいいのでは?」

神永「……」「プラーナを?」

ルリ子「ええ。今の話を聞いてて、 いくつか疑問が浮かんだんです」

ルリ子「①なぜメフィラスはプラーナの抽出に失敗したのか?」

ルリ子「②なぜメフィラスは本郷さんをわざわざおびき寄せてから誘拐したのか?」

「「「「………」」」」

滝「……①に関してはメフィラスたち外星人の用いるエネルギーとは異なるエネルギーだから、だと思いますけど」

船縁「私もそう思います。おそらくプラーナは地球にしか存在しないものかと」

田村「考えてもわからないが、そんなところだろうな」

浅見「で」
浅見「問題は②ですよね。たしかに……なぜメフィラスは待ち伏せなんかしたんだろう?彼はどこにでも現れることができるのに」

田村「そういえば、メフィラスは最初に本郷に会った時も病院の前で待ち伏せしてたな」

ルリ子「ええ。メフィラスは数値化できるものならなんでも追えるのよね?ならなぜ突然彼の背後に現れたり、そういった芸当をしなかったの?できなかったの?」

ルリ子の話し言葉が崩れ、
口調が速くなる。

ルリ子「それはおそらく、本郷猛の発するプラーナを追跡できなかったから」
「メフィラスにはプラーナを追跡できないのだと思う」

神永が口元に手を当てて考える。

神永「……」「メフィラスにはプラーナを抽出できない。メフィラスにはプラーナを追跡できない。メフィラスにとってプラーナは完全に解析不能な未知の物質……というわけか」

ルリ子「そういうことです」「だからメフィラスはプラーナの痕跡を見落としているはず。たとえどんな堅牢な防御を敷いていても、プラーナを追えばメフィラスにたどり着けるのでは?」

神永「……だがそれは」
「プラーナが追跡不可能な物質ということでは?」「メフィラスに追跡できないということはウルトラマンにも追跡できない」

滝「ですよね…」

ルリ子「いいえ。追跡できる。ウルトラマンなら」
「いや、『あなたなら』」

神永「……どういうことですか」

ルリ子「そもそもプラーナってなんなのか?」「私の父はかつてプラーナの研究をしていた。未完成の理論といくつかの論文を発表した。証明には至らなかったけど…」

少し肩を落としてうつむくルリ子。
しかし、息を吐いて顔を上げる。

ルリ子「父は、プラーナについて、私たち家族にこう語っていました」

「『プラーナとは心のエネルギーだ』と」

ルリ子「プラーナは生体エネルギー。様々な生命活動から出力される。その中でも、特に人間の精神に大きく影響される。感情の動き、流れ、そういったものがプラーナを増大させたり、減少させたりする」

田村「心の……エネルギー……?」

滝「なんだかスピリチュアルっぽいですね……」

浅見「……でも、辻褄が合うかも」
「本郷さんが『ハビタット世界を通じてこちらに来た』と言ってました。ハビタット世界は人間の精神が転送される空間だと」

ルリ子「つまりプラーナは人間の精神でしか感知できないのではないかと」

神永「……人間の精神……」

滝「……メフィラスがプラーナを感知できないのは、数値化できない人間の心だから……」

船縁「メフィラスが人の心を理解してないから?」

ルリ子「……だとおもうんですけど」

田村「……よし。プラーナがある種の精神エネルギーで、人間の精神を持った者にしか感知できないのは、まあわかった」
田村「でもなぜそれがウルトラマンには感知できると?」

ルリ子「それは……」
ルリ子「人間と外星人の中間のウルトラマンなら、なんとかなる気がして」

浅見「……根拠が薄弱じゃない?」

ルリ子「でも賭けてみるしかない。早くしないと本郷さんが……」
「……お父さんが……」

ルリ子「お父さんが……きっと……」

ルリ子が顔を手で覆う。
禍特対が彼女の周りに集まる。

ルリ子「お父さんは……お兄ちゃんのために……」ポロポロ

浅見「……」
ルリ子の背中をさする。

滝「(……何かあったんでしょうか?)」
船縁「(……わからないけど……)」
田村「(人には人の事情があるのさ)」



神永「……できる」



「ウルトラマンはプラーナを感知できる」



浅見「……うそ」

ルリ子「……ほんと?」

神永「……ああ」「経験がある」


ベータカプセルを持ち、
目を閉じて、
胸に手を当てる。

心臓の鼓動が聞こえる。


ドクン……

ドクン……


神永
「(それは)」

「(覚えている)」

「(最後の会話)」


『生き延びたいと願う君の信号がなければ

君を見つけることはできなかった』


『死を受け入れる心は

生への願望があるからだ。

ありがとう、ゾーフィ』


『死への覚悟と

生への渇望が

同時に存在する

人の心か……』



神永「……」


本郷猛に、
生きる理由などない。

命を捨てることに
恐れはない。

悔いは残らない。


神永「(僕らはよく似ている)」



それでも

オーグメントになった後も

なおも人であることにこだわり続けた

彼には……


“それ”が宿っている。



神永「……」


『ダメだ』


『まだ死ねない……』



『ルリ子さん』




“生きたいという意志”が残っている。



ドクン……



彼のプラーナが、強烈な波動信号を発する。




神永「見つけた」



つづく

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